2020.07.10

小倉崇さん、なぜ東京の真ん中で「農業」をするんですか?

9 年前の震災を機に、また東京の物流がストップしたらどうやって暮らしていけばいいのだろうと危機感を覚えたことをきっかけに「農」に関心を持ち、畑を作ったり、農家のサポートをしたりと、食をベースに活動の幅を広げている小倉崇さん。「アーバンファーマーズクラブ」を立ち上げ、渋谷の「O-East」をはじめ、「渋谷 BRIDGE」の遊歩道、原宿の「おもはらの森」など、都会の真ん中に畑を作る「アーバンファーミング」を実践。食の大切さや豊かな暮らしを提案しながら、農作活動を通して人の輪も広がり、スタートしてから2年でメンバーは470人以上に。そんな小倉さんに、日本の「農」と食文化の今と未来のあるべき姿について話を伺います。

「アーバンファーミング」を軸に

より良い社会、豊かな暮らしを。

F.I.N編集部

まずはじめに、「アーバンファーマーズクラブ」の活動について教えてください。どのようなコンセプトで活動されているのでしょうか?

小倉さん

立ち上げた時に掲げたコンセプトが4つあります。1つは、「畑を作ることによる地域活性」。渋谷区で働く人と暮らす人の関係値を結ぶことによって、街のコミュニティを作ろうというものです。2つめは、「子どもたちに関する食育」。子どもが対象でも必然的に両親も付き添うので、子どもを通じて大人の食育にも繋がります。3つめは、「環境の課題を解決する」。自分で育てていたら、必要な時に必要な分だけ食べられるので、フードロスも減らせます。また使い終わったドリンクのプラカップなどに土を入れて、プランターにして苗を育てるなどのアップサイクルも実践しています。最後に、「自給自足」。渋谷区中の幼稚園や小学校、中学校の屋上を全部畑と田んぼにしたいんです。いつかはまた地震が起きると言われていますが、そうするとまた物流が止まってしまうことが予測できるので、そういう時に、学校の屋上が畑になっていれば数日間の食料は確保できるのではと思っています。でも、まずは楽しんで野菜を育てて食べて、その中でそれぞれが何かを感じてもらえたらいいかなと思っています。

F.I.N編集部

メンバーの方は具体的にどのような活動をしていますか?

小倉さん

年齢層のメインは35歳以上で、男女比は半々、シングルや家族も半々です。畑は誰か1人のものではなくて、みんなで共有しています。スケジュール管理アプリなどで共有しながら、みんなが行ける時間にできることをやるというスタイルです。出勤前にちょっと土を触りに来たり、土日にご夫婦や子連れで来たり。いちごができていたので、子どもがつまみ食いしましたという人も。みんなで、野菜の収穫などのさまざまなワークショップも行っています。また、小さい部活もたくさんあるんです。「みそ部」では、みんなで味噌を仕込むのですが、今年は素材から自分たちで作りたいと、私たちが神奈川に借りている広い畑で大豆を育てています。千葉には棚田があるのでそこでお米を育てて米麹も作ります。ほかに、「田んぼ部」や「いちご部」、「ハーブ部」など、野菜を育てることをベースに、それぞれの小さいコミュニティでも活動をしています。

F.I.N編集部

野菜を育てること以外にも、楽しみながら学びが得られそうですね。活動を通して大切に考えていることを教えてください。

小倉さん

成功したらみんなの喜び、失敗したらみんなの失敗。失敗はバンバンしようと言っています。失敗しないとわからないし、そこで学んだことを自宅での菜園にいかしてもらえたらいいと思っています。みんなの実験場、コミュニティファームみたいなものですね。自分で育てると愛着が湧くし、種から育て始めると心配で率先して水やりに来たり草抜きに来たり。人の気持ちが積み重なってできている感じがします。「アーバンファーマーズクラブ」は、農業団体というよりは社会活動団体だと思っています。アーバンファーミングを軸に、より良い未来を考え、暮らしが豊かになるような社会を作ろうというのが一番のモットーです。

都会だからこそ求められていた。

土に触れ、野菜を育てること。

F.I.N編集部

都心を拠点にしたことには、理由があったのでしょうか?

小倉さん

もともと相模湖近くの農家さんの畑を開放して、収穫やワークショップなどを開催していたのですが、渋谷のライブハウス「O-EAST」の運営会社の方に誘っていただいて、屋上に畑を作ったのが最初です。この「渋谷の畑」が口コミで広まって、食育に興味があるママやビジネスマン、高校生たちが見学に来たいと連絡をもらうようになりました。話を聞いていると、みんなどこかで「都会だからこそ自分で野菜を育てたい」という気持ちを持っているのかもしれないと感じるようになったんです。その時に初めて世界の「アーバンファーミング」について調べました。

F.I.N編集部

海外では定着している活動なのでしょうか?

小倉さん

アメリカでは国防総省の大きなビルで、養鶏をしたり野菜を育てるなど、アーバンファーミングがしっかり根付いています。欧米でも、街のコーナーで小さなコミュニティファームがある。そういった事例を見ていると、都市生活者は、土から切り離されていることで、「土に触れたい」「農作物を育てたい」と本能的に欲しているのではと考えたんです。それなら、同じ都市生活者と一緒に何かやってみようと。それで立ち上げたのが、「アーバンファーマーズクラブ」です。

F.I.N編集部

都会に暮らしていると土を触る機会はなかなか持てませんよね。メンバーの方々からはどんな声がありますか?

小倉さん

多くのメンバーが、食に対する価値観が変わったようです。ある時、トマトの苗をたくさん用意して、みんなそれぞれ自宅で育てたことがあったんです。でもうまくいかない人がほとんどで。そうするとある人が、「今までスーパーに行くと、野菜を値段でしか見ていなかったけど、この子たちは奇跡の連続でできているんだっていうことがよくわかった」と。自分で育てることによって、どうやって野菜ができているか想像できるようになったそうです。すごく嬉しかったですね。それを聞いた他のメンバーもみんな頷いていました。育てて収穫するだけでなく、食べるという体験も大切。それが次に育てるモチベーションにも繋がっています。

F.I.N編集部

都会で出るゴミを使って堆肥も作っているそうですね。

小倉さん

はい、堆肥と培養土を作りました。フェアトレードにこだわって、生産者と環境に負荷をかけないコーヒー豆を販売している、中目黒の「オニバスコーヒー」からの相談をもらって。彼らは飲むまではこだわっているけど、飲み終わったら豆のカスをゴミで廃棄していることに疑問を持ち、もっと何かできないかということでした。そこで、コーヒー豆のカスに、籾殻や米ぬか、壁土をブレンドして、3ヶ月くらいかけて堆肥に。これをトマトの株元に蒔くと実つきをよくしてくれるんです。都会では、こういう一見ゴミといわれるものが、ちょっと視点を変えて、ある技術と組み合わせると、資源として再循環できるんです。意外と使えるものがあるというのは、やってみてわかったことです。

自分で野菜を育てて食べる

そんな日常がデフォルトの社会に。

F.I.N編集部

小倉さんが考える、5年先の未来とはどのようなものでしょうか?

小倉さん

私たちは、「あまねく都市生活者が、自分たちが食べたい野菜をみんなで育ててみんなで食べる日常がデフォルトになっている社会を作りたい」というのがベースに活動しています。都会に建つマンションのあちらこちらで、グリーンが溢れているような街。これを「グリーンインフラ」と呼んでいるのですが、グリーンインフラが充実している社会を目指したいですね。5年先の未来には、小さくてもいいから日本中のベランダに家庭菜園があって、街を歩いていてもあっちにトマト、こっちにきゅうり、というような風景を見ることができたらと。それができるようなきっかけづくりを、今やっていると思っています。

F.I.N編集部

そんな未来が実現するといいですね。そこに向けて課題として捉えていることはありますか?

小倉さん

メンバーには35歳以上が多いけれど、未来に継続的に繋げていきたい活動なので、20代の若者にももっと参加してもらいたいと思っています。20代が少ない理由について考えたり聞いたりしてみると、いまの若者は自分で料理する機会が少なく、包丁を握ったことがないという人も多いのだそう。お母さんから料理を学んだり、人が料理をする姿を見たりすることがない人も結構いることに驚きました。また経済的の問題もあり、食べることに関して、いかに少ない金額でお腹を満たせるかだけを考えている人が多いという現実も。今私たちがやっていることは、一部の人たちは共感してくれるけど、そういった人たちには響かないのではと思っています。

F.I.N編集部

世代でのギャップがあるのですね。具体的に課題解決のためにアプローチをしていますか?

小倉さん

私たちは、「育てて食べる」をコンセプトにしているので、育てたものを若い人たちに食べてもらう機会を作れたらと思い、穫れた野菜を寄付させてもらっています。これはこの先数年は継続的にやっていきたいことです。これを通して、今の20代が直面している現実の話も聞きながら、私たちに何ができるのかも考えていきたいと思いはじめました。自然の恩恵をすべての人が受けることができるのが、「グリーンインフラ」だと思っているので、育てていないから食べられないんじゃなくて、たくさん作った人たちがそういう人たちに分けてあげられる。そして、次はその人たちが自分たちも家でやってみたいと思ってくれたら、それが循環になるはずです。遠回りかもしれないけれど、そんな風に繋げて広げていけたらと思っています。また、事業としても成り立たないと次の世代に繋げてはいけないので、事業体として自立できる仕組み作りをするのも自分の役割だと感じています。

Profile

小倉崇さん

編集者として活動する傍ら、都市農業=アーバンファーミングを実践するため「特定非営利活動法人アーバンファーマーズクラブ」を設立。現在は、東急プラザ表参道原宿、恵比寿ガーデンプレイスなど都内6か所の畑と田んぼで、地域の保育園や企業などと連携しながら新たな都市生活のあり方を提案・実践している。著書に『渋谷の農家』(本の雑誌社刊)など。

編集後記

都市で農業と聞くと、なかなか作物が育つのは難しいじゃないかと安易に想像しますが。小倉さんの、育てているものは、単に作物だけでなく、「子供たちの心」であったり、都会暮らしで離れてしまった人々の距離を近づける「コミュニティ」や「環境について考える事」をじっくり丁寧に育てていました。

この活動を通して人々の心の中に、目には見えない素晴らしい収穫物が実っている事を実感しました。都市のグリーンインフラを通じて、人々の心のインフラがこれからも広がっていていくでしょう。

(未来定番研究所 窪)

F.I.N.的新語辞典

第65回 C2C