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2022.12.07

未来定番サロンレポート

第24回| コンポストで栽培する〈冨澤ファーム〉と考える、都市に農がある価値。

気持ちのいい秋晴れの2022年10月30日、24回目の「未来定番サロン」が開催されました。未来定番サロンは未来の暮らしのヒントやタネを、ゲストと参加者のみなさんが一緒に考え、意見交換する取り組みです。

 

第3回を迎えた「未来定番コンポストサロン」は、東京都三鷹市にある〈冨澤ファーム〉の冨澤剛さんにお越しいただきました。冨澤さんは、バッグ型コンポスト「LFCコンポスト」を開発しているローカルフードサイクリング株式会社(LFC)によって各家庭から集められた生ごみ堆肥を栽培に活用する「LFCファーマー」としても活動されています。個人が作る堆肥の活用には慎重な農家さんが多いなか、積極的に受け入れを行っている冨澤さん。都市型農業の活動や生ごみ堆肥への考えをお聞きしながら、コンポストが資源として活躍する未来について参加者のみなさんと想像を広げていきました。

 

(文:深澤冠/写真:西あかり)

〈冨澤ファーム〉のケーキも登場

循環を味わうマルシェ。

過ごしやすい気候で、人通りも多い午後の谷中。お馴染みとなったLFCの堆肥回収会からこの日も始まりました。今回は通常の予約枠を超える数のお問い合わせをいただき、堆肥を抱えたLFCコンポストユーザーのみなさまが続々と軒先に集まります。

 

自転車のかごに堆肥をのせ、一生懸命谷中の坂をのぼって来られるご近所の方や、1時間ほどかけて国立や町田から来てくださる方など、各地から持ち寄ってくださり、集まった堆肥は畑の0.5アール分になりました。冨澤さんも大満足のご様子で、農園へ運ぶ車両へと大切に運んでくださっていました。

マルシェには、冬の訪れを感じさせるような野菜がラインナップ。珍しい白ナスやタァサイ、スイスチャードなども並び、思わず目移りしてしまいます。親しみのない野菜でも、スタッフの方がおいしい食べ方を教えてくれるから安心です。

野菜の隣には、〈冨澤ファーム〉特製のパウンドケーキが登場。江戸東京野菜の内藤かぼちゃを使った「かぼちゃ」や「ブルーベリー」のケーキが、次々と手に取られていきました。野菜くずなどからできた堆肥を回収し、堆肥で育てた野菜やその加工品を販売する。まさに、コンポストから生まれる循環を目の当たりにしているような回収会とマルシェでした。

農業のイメージを変えたい、

都市農場の歴史と未来への思い。

続いて、コンポストサロンが始まります。今回のゲストであるトミーさんこと冨澤剛さんは、三鷹市で営まれている〈冨澤ファーム〉の4代目。また、短大の非常勤講師、東京都指導農業士などとしてもマルチに活躍されていらっしゃいます。

 

〈冨澤ファーム〉は、住宅地のなかに約80アールの敷地を有しており、年間30種類の野菜を生産。JAの共同直売所、学校給食、飲食店、卸、無人コインロッカーなどで野菜を販売するほか、年間延べ1000人近くが援農や農体験に来るオープンな農園としても親しまれています。

まずお話いただいたのは、都市農業の歴史について。遡ること約60年前、高度経済成長期を迎えた都市圏は、人口が急速に増加。狭い土地の中で家を建てるために、農地は真っ先に宅地化の対象となり、農業を続けていけないような厳しい課税を迫る政策が検討・施行されていきました。

 

「東京に畑はいらない」「地価の高騰は農家が土地を独占しているから」といった評価はバブル期に入っても続き、農業はまるで悪者扱い。まだ学生だった冨澤さんは、そのような光景に悔しい思いを抱え「農業へのネガティブなイメージを変えたい」という現在の原動力にも繋がる決意をされたと言います。

 

大きく風向きが変わったのは、東日本大震災。地方からの物流がストップし、都内スーパーの食品売り場では食べ物が姿を消しました。しかし、そんな中でも都市農家は野菜を売ることができたのです。食の生産地が、暮らしのそばにある。その重要性に消費者が気づき始めたのをきっかけに、都市農業の価値は再考されていきました。そして2015年、都市圏の農家が一致団結し、何十年も政治に働きかけてきたことがついに実り「都市農業振興基本法」という法律が誕生。農地は宅地にするべきものではなく、保全すべきものであると推進されるようになりました。

オープンマインドな〈冨澤ファーム〉の4大柱。

さまざまな時代の変遷を経ながらも、100年以上都市型農園として続く〈冨澤ファーム〉。多彩な取り組みの中でも、「資源循環型農業」「6次産業」「食育・子育て応援」「コミュニティ作り」の4つが、現在の〈冨澤ファーム〉を形作っていると言います。

 

「資源循環型農業」とは、地域にとってはゴミとなってしまう農業資源をもらい、活用させてもらうというもの。例えば、国際基督教大学の敷地内にある雑木林の落ち葉、東京農工大学の馬術部から出る馬糞、「多満自慢」で知られる石川酒造の米糠。そういった掃除や処理に困るものを回収し、〈冨澤ファーム〉では落葉堆肥農法の堆肥として活用されています。

「社会性のある農業をしたいなと思い、ずっと資源循環型の農業に取り組んできました。そんな中、「LFCコンポスト」に出会うご縁があり、生ごみも堆肥にできるということを知ったんです。LFCコンポストユーザーさんの中には、家庭内の生ごみを減らすことはできたものの、その最終処理に困られている方が結構いらっしゃいますよね。そこでちょうどLFCさんが生ごみ堆肥の受け入れ先となる農家を探されていたので、LFCファーマーとして引き取らせていただくようになりました。生ごみというと懸念するような農家もいるかもしれませんが、基本的には人間が食べているもののくずなので、体にとってはごく自然なものです。今後、もっと受け入れ先が増えていくといいですね」

 

こういった資源循環型農業で生産した野菜を、料理人と一緒にパウンドケーキなどに加工する「6次産業」事業、保育園の農業体験や社会人の援農体験を受け入れる「食育・子育て応援」「コミュニティ作り」と、多岐にわたって地域と密着・連携して、開かれた取り組みをしているのが〈冨澤ファーム〉の最大の特徴です。

土づくりから見る

コンポストの必要性。

次に、堆肥の活用にかかわる土づくりについて話は進みます。〈冨澤ファーム〉のある三鷹は、もともと関東ローム層という赤土が積層する痩せた土地だったそうです。

しかし、江戸時代中期に入ると新田開発が行われ、耕地や林業のためにクヌギやナラの木が植えられていきました。その木々の落ち葉が腐葉土を作り出し、何百年もかけて積もることで、黒ボク土という農業に適した土壌が関東ローム層の上に現れます。つまり、三鷹で元気な野菜を育てている土は、先祖たちが代々育て作り上げてきた土なのだと冨澤さんは言います。では、なぜそのような豊かな土壌を畑にしていても、堆肥が必要なのでしょうか。

 

「実は、堆肥を使わないとどんどん土壌が痩せ細っていきます。土が硬くなって、根の張りや水はけが悪くなったり、野菜が土の中の栄養を吸収していくので養分がなくなっていったりするんですね。その結果、生育不良や病害発生に繋がります。畑は、人が作った自然です。自然界であれば落ち葉や動物の死骸が分解されて肥沃な土地を保ちますが、畑にはそのサイクルがないので、堆肥や肥料といった栄養を定期的に与える必要があります」

冨澤さんによると、いい土の条件とは「物理性」「生物性」「化学性」が豊かであることなのだそうです。保水や排水といった物理的な条件に優れ、多様な微生物を含み、窒素やリン酸といった栄養素を土壌が蓄えていなければ、健やかな野菜は育ちません。生ごみ堆肥は、特に豊かな栄養素を保つ「化学性」において、とても重要な役割を担います。堆肥の大切さが具体的に見えてくると、質の高い堆肥を作ろうという気持ちにもなれるかもしれません。

体も気持ちも健やかになる

農が近くにある未来。

最後に、都市農業とコンポストの未来についてお話しいただきました。まず、冨澤さんが考える都市農業の魅力は、新鮮な農産物が消費地で生産されること。都市部に住んでいてもみずみずしい野菜が食べられるのは、やはり農園が近くにあるからこそです。

また、近年は「忙しくてリフレッシュできない」「リモートワークが増えて人と関わる機会が減った」といった都市の課題を農が解決できるのではないか、ということに注目しているという冨澤さん。援農体験では、朝7時から農作業を行い、10時から在宅業務をするという社会人の方も来られるそうです。なんでも、朝に農作業をすると頭が冴えて仕事も捗るのだとか。ずっとパソコンに向かう生活のなかで、土や野菜に触れ、誰かと汗を流す時間は、何とも変えがたい心身の健やかさを運んでくれるのではないでしょうか。

 

コンポストも、自分の生活や自然との関わりを見直す接点のひとつ。冨澤さんも生ごみ堆肥を活用するようになったことで、つながりが広がったとおっしゃいます。その循環の輪を大きくしていき、都市の暮らしにストレスを抱える人たちにとって豊かな気持ちになれるフォースプレイス、フィフスプレイスになっていきたいと語る言葉には、優しくも力強い気持ちが宿っているようでした。

参加者の方々にもその思いは伝わったようで、Web上のコメントフォームにはたくさんの質問や感想が寄せられていました。本日のお話を聞いてやってみたいと思ったことをお聞きすると、「農園へ堆肥をまくお手伝いをしに行きたい」「生ごみ堆肥を使ってくれる農家さんが増える活動に参加したい」「お家の屋上を畑にしてみたい」「まずはコンポストからはじめてみたい」などたくさんの声も。お昼の回収会、マルシェ、コンポストサロンと、未来定番研究所からも少しずつ循環の輪が広がっていくのを感じた1日となりました。

Profile

冨澤剛(とみざわ・たけし)

〈冨澤ファーム〉4代目。

「食・農を通して笑顔の場と機会を創造する」を経営理念に、安全は当然、おいしい農産物をお届けすることに努め、〈冨澤ファーム〉で営農を続ける。LFCファーマーとして各家庭から集められた生ごみ堆肥の積極的な活用、農的な機会に触れてみたい人を受け入れる毎月第4土曜日の「畑のオープンキャンパス」の開催など、東京に根ざす農園としてさまざまな取り組みを行なっている。

https://tomizawa-farm.tokyo/

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