2020.11.02

未来定番サロンレポート

Vol.17 進化を続ける、音声メディアの未来。

2020年5月26日、オンラインのライブ配信にて第18回目の「未来定番サロン」が開催されました。未来定番サロンは、未来のくらしのヒントやタネを、ゲストと参加者の皆さんと一緒に考え、意見交換する取り組みです。今回のテーマは「音声テックとわたしたちの未来」。スクリーンレスメディアラボ・所長の堀内進之介さんと、リサーチフェローの塚越健司さんをゲストに、いま注目されている音声メディアや技術についてお話を伺いながら、参加者と最新のオーディオドラマを体験し、未来の「聴くこと」「話すこと」、そして私たちの生活のありかたについて考えました。

音に集中する、没入型音声コンテンツとは。

〈スクリーンレスメディアラボ〉は、2019年春にTBSラジオ内の音声メディア研究機関として設立。

昔からある音声メディアというとラジオですが、現在はインターネット経由で聴く〈radiko〉やオーディオブック、AIスピーカーなど、音声にまつわるサービスやテクノロジーが開発されています。デジタル音声広告市場は2025年に現在の60倍の420億円規模に拡大されると見込まれています。

F.I.N.編集部

〈スクリーンレスメディアラボ〉はどんな活動をされているのでしょうか。

塚越さん

私たち〈スクリーンレスメディアラボ〉は、新しい時代のための新しいメディア体験を研究しています。研究の軸は2つ。データに基づいた意思決定手段の構築。そして音声ならではのメディア体験を確立しようということ。テレビなどの視覚メディアに比べて、聴覚メディアが立ち遅れていた、データ活用と利用環境の整備を行っています。

ラボの研究では、視覚メディアと聴覚メディアでは、受け取る情報量が異なるため、体験の質が変わることがわかりました。情報量が多く、過激な刺激になりがちな視覚メディアに比べ、聴く人の想像力を駆りたてる聴覚メディアは、文脈の意図や程度が重視され、結論よりも姿勢が印象に残る傾向があるそうです。

F.I.N.編集部

ラジオよりテレビのほうが、その人の表情まで伝わりそうですが。

塚越さん

とある実験で、3つのグループに同じ動画を視聴してもらいました。ひとつは、映像と音声があるグループ、2つ目は映像のみ、3つ目は音声だけ。参加者に登場人物の感情を読み取ってもらい、より多く正解を言い当てたのは、音声だけのグループでした。

堀内さん

私たちの試みは、テクノロジーとテクニックです。聴覚メディアをどうしたら効果的に体験してもらえるのかというところを、心理学的なアプローチも含め試行錯誤しています。

そして、参加者は最新オーディオコンテンツ〈AudioMovie®︎〉から、『THE GUILTY』など4本の音声を視聴しました。体験したのは、雑音の中から必要な音を聞き分ける〈選択的聴取〉と、聞こえてくる音によって相手の位置を判別する〈方位知覚〉を体験し、視覚メディアよりも没入感の高く、従来の音声コンテンツよりもより立体的な音を体験しました。

2018年のデンマークのスリラー映画『THE GUILTY』。グスタフ・モーラー監督・脚本、ヤコブ・セーダーグレン主演。オーディオドラマの視聴はこちらから。

F.I.N.編集部

臨場感のある音声コンテンツでした。どんな技術が使われているのでしょうか。

塚越さん

従来のラジオドラマは、スクリーン越しにその情景を見ているような感覚ですが、最新の〈AudioMovie®︎〉は主人公を中心に音が配置されています。ある世界の中を主人公が動くというより、主人公を中心に世界が動いている感覚です。そうすることで、主人公の感情の機微が分かったり、より立体的な世界を想像したりすることができるんです。

さらに、参加者全員で薬用育毛剤のラジオCMを体験しました。登場人物は、髪の長い娘と、薄毛に悩む父親。ドライヤーの音の長さだけで、聴く人に人物の毛量を想像させる作品です。

F.I.N.編集部

何気なく聴いている音声コンテンツは、日々進化しているんですね。

堀内さん

私たちが作ろうとしているコンテンツは、音をうまく配置することで、聴く人の想像力を引き出すもの。心理学や認知学、音声認知の研究でわかっていることもあるのですが、実際に作ってみると思い通りにならないこともたくさんあります。ですから、ラジオの音声技術を担当する方と一緒に、新しいものを作っています。

アフターコロナの5年先

音声技術がさらに重要視される時代に

アフターコロナ時代では、“リスク”に対する話法が変わるとともに、聞き手側の認識も変わっていく。(堀内さんの資料より)

堀内さんは「リスクはほとんどない(little)」という言葉を例に、安全な社会の中で生活を選択する時代から、全世界が飲み込まれる生命の危機が存在しうることが前提のアフターコロナの時代には「リスクはまだある(a little)」というように、メディア側が発信する表現方法や、聴取者の認識が変わるだろうと言います。

F.I.N.編集部

具体的にはどのような変化があるのでしょうか。

堀内さん

テレビのように視覚表現を伴うメディアは、情報をデフォルメして表現する傾向があります。一方で聴覚メディアは、一つひとつの情報やそこに含まれる感情に耳を傾ける必要があります。情報の受け手が理性的に考えるためにも、聴覚メディアの役割は今後ますます先鋭化されてくると思います。

アフターコロナの世界で一般的になったオンライン会議ですが、現在は、発話者の生活音が混じってしまったり、スクリーン越しだとつい大声で話してしまい騒音を訴えられてしまったりなど様々な問題があります。

F.I.N.編集部

アフターコロナは、音声技術がより暮らしに身近になるんですね。

塚越さん

今後、ノイズキャンセリングのように、生活音を消すことも必要になってきますし、まだ商品化されていませんが、声をあらかじめ登録しておくと、たくさんの参加者の中で、その人の声だけが聞こえるようになるといった技術開発も進んでいます。ビジネスとプライベートが同じ環境で行われるようになる5年先は、こういった技術も進化すると思います。

インターネットと音声メディアのこれから。

今回の未来定番サロンは、初のオンライン開催となった。登壇者のお二人と参加者の皆さんをzoomにてお繋ぎし、オーディオコンテンツの視聴や質疑応答などを交えて実施した。

今回のセミナーは初のオンライン開催でしたが、参加者からはたくさんの質問が寄せられ、活況のうちに幕を閉じました。時間内に回答できなかった質問も含め、改めてスクリーンレスメディアラボのお二人にお話を伺いました。

FIN編集部

音声メディアというと、古くはラジオがありますが、〈Radiko〉〈Audible®︎〉、ポッドキャスト など音声コンテンツが増えてきた要因は?

堀内さん

市場として伸びてきたのは最近のことなのですが、アメリカではポッドキャストのキリスト教チャンネルが人気ですし、映画やドラマを制作する前段階として、市場調査を目的に音声コンテンツを作ることがあります。マーベル映画でもよくその手法が使われているのですが、音声コンテンツに反響があったら映画化するという流れです。日本のポッドキャストは、語学など実用的なコンテンツが多く、エンタテインメントの分野ではこれからですね。

聴いているうちに、自身の耳が物語の主人公の耳(聴点)と同化していき、その人物の感情や思い、理解や誤解などを、まるで自分自身に起きたことのように意識体験できる音声コンテンツ〈AudioMovie®〉。現在、公式サイトにて『THE GUILTY』など3作品が視聴できる。

FIN編集部

エンターテインメントでの新しい試みが〈AudioMovie®〉なのでしょうか。

堀内さん

その通りです。本日、体験していただきましたが、ある世界のなかを動くのではなく、周りの世界を動かして進行感を出す、ということは、いままで実現されたことない表現のしかたです。たとえば自転車に乗る場面を表現する場合、従来は単に自転車の音を出すだけでした。しかし、〈AudioMovie®〉では、両サイドの道から出る音を前方→近く→後方へ送るように出す、といった方法で自転車に乗る場面を表現しています

FIN編集部

日本において、ラジオは〈radiko〉などの聴取アプリも増え、人気が復活していると感じます。

堀内さん

これまでラジオは高齢者のメディアだと言われていたんです。また無料で聴くことができるので、聴取者は低所得だとも言われていたのですが、実際に調査してみると、かなり幅広い層の方が聴いていました。データを取ることで、コンテンツと聴取者層に隔たりがあったことが判明したんです。また〈radiko〉などの接触導線も増えていたり、ラジオ番組の内容が“ネットでバズる”という、インターネットとの連携も戦略的に取り入れたりしつつ、コンテンツも変わりつつある段階だと思います。

FIN編集部

今後、ラジオとポッドキャストは、どのように変化すると思いますか。

堀内さん

まず、ラジオとポッドキャストは全く違うメディアです。ポッドキャストはユーザー課金なので、よりユーザーに寄り添ったコンテンツが増えていくでしょう。一方で、ラジオは広告収入によって成り立っているので、クライアントの意向をユーザーに広めることが重要です。また、ユーザーに対して注意喚起をして、社会的な機能を果たすという役割もあります。その情報がユーザーにとって、場合によっては耳に入れたくない内容であっても、ラジオは新しい興味を拡張する役割を果たしていかなくてはいけないと思っています。それから、ポッドキャストは新しいメディアなので、まずはプラットフォームとしてどうやってユーザーを囲い込むか、といったラジオとの競い合いの段階ですよね。

FIN編集部

これから5G社会になりますが、音声メディアにどんな影響があるのでしょうか。

塚越さん

5Gは高速通信が可能になるので、通信時の遅延発生を極限まで減少させることが期待されています。それを踏まえた上で音声技術の研究を進めていけば、複数人が同時に喋ってもタイムラグが発生せず、より臨場感を生むことが可能になると思います。

堀内さん

もちろん接触導線も増えるので、市場の拡大が期待されますが、一方で、それは動画コンテンツについても同じですので、競争は一層激しくなるでしょう。そうなると、没入感など音声コンテンツの利点を活かしたコンテンツ開発が重要になり、私たちは今、それに取り組んでいるところです。