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2018.11.28

未来定番サロンレポート

第4回| 今こそ考える、”継ぐ”ということ

秋の訪れを感じる10月28日。東京・谷中にて、4回目の「未来定番サロン」が開催されました。未来定番サロンは、未来のくらしのヒントやタネを、ゲストと、参加者のみなさんと一緒に考え、意見交換する取り組みです。今回は、漆を使った昔ながらの技術”金継ぎ”で、割れた陶器を修理する「モノ継ぎ」主宰の持永かおりさん、『海街diary』や『万引き家族』など、話題の作品の空間デザインを手がける映画美術の三ツ松けいこさんをお招きし、“古きを未来に継ぐ”ことを考えました。

(撮影:河内彩)

”ものに執着しない”今の時代に、継ぐべきものとは?

お客さんも続々と到着。いよいよ未来定番サロンが始まります。

今回の未来定番サロンのトークテーマは「継ぐ」。ファストファッションや100円ショップ、フリマアプリなどの台頭に代表される、短いサイクルでの消費行動や、様々なものやことのシェアが一般化するなど、今の世の中は、いわば”ものに執着しない”時代です。そんな中、持永さん、三ツ松さん姉妹は、それぞれ別のアプローチで、今あるものを未来に継ぐ活動を続けてこられました。消費のスピードが早い今の世の中で、人々が長く愛し、未来に”継ぐ”べきものとはどんなものなのでしょう? お二人と一緒に考えてみました。

新たに作ることから、今ある大切なものをなおす作業へ。

「モノ継ぎ」主宰・持永かおりさん

姉の持永かおりさんは、漆を使って割れた器を修理する、”金継ぎ”を生業とされています。もともとは、自ら作品を制作されたり、陶芸教室で指導をされたりしていた持永さんの転機となったのは、2011年3月11日に起きた東日本大震災でした。

「誰もが自分や家族、日本の未来を悲観したあの混乱状態の中で、自分にできることは、新たに何かを作ることではなく、なおすことだと感じました。以来、ひたすら器を繕う日々です」。

持永さんは持ち主から、器が積み重ねてきた思い出やエピソードを丁寧に聞き取りながら金継ぎをほどこし、器を未来に繋ぐ活動を続けてこられました。

サロン中にお客さまにお出しした湯のみも、すべて持永さんが継いだもの。割れた跡が残ることもまた趣深い。

映画の登場人物たちを、よりより生き生きと存在させるために。

映画美術・三ツ松けいこさん。

一方、妹である三ツ松さんのお仕事は、映画美術。脚本をもとに、作品の舞台となる実際の空間を作り上げています。今話題の是枝裕和監督作品にも多く参加。『歩いても 歩いても』や、『海街diary』、『万引き家族』などの空間デザインも、三ツ松さんが手がけました。

「毎回、こんな台所かな? こんな玄関かな? と、脚本をもとに頭を廻らせ、監督と相談しながら作っています。実際に映画の登場人物たちが、あたかもリアルに存在しているかのように、細かいところまでこだわって作ることを心がけています」

三ツ松さんがこれまでに手がけた映画美術のスケッチやラフの数々。

原風景にある、幼少時代を過ごした千葉・柏の古い家

お二人が生れ育った千葉・柏のご実家の様子

お二人の原点となっているのは、千葉・柏にあった実家での暮らし。6年前に火事で全焼をしてしまい、今は亡き古い家での日々が、それぞれの今の仕事ぶりにも生きているのだそう。

「住んでいた当時は、戸棚の調子が悪いとか、風呂場で水漏れがしたとなれば、私の出番でした。家族の中でそういう役回りだったんですよね。素人の下手な修理なのだけれど、ホームセンターに行って、いろいろな材料を買ってきては、手を加えていましたね。今あるものをいかに工夫してなおすか、使いやすくするかを考えていたのは、古い家で住んでいたからこそかな。当時のことを最近よく思い出すんですよね。今やっていることと根本的に変わらないなと(笑)」と持永さんは話します。

一方で、「映画美術の仕事では、できる限り自然な空間を作るために、現実に見たことのある風景を再現することが多いんです。なので、自分が生まれ育ったあの家の風景をイメージして空間に落とし込むこともありますね」と三ツ松さん。『歩いても 歩いても』や『海街diary』で主人公となった家族の住む家にも、実家のディテールや、ご自身が好きだった部分を反映させているのだそう。

未来を継ぐべきは、自分にとって”しっくりくるもの”。

本番には多くのお客さまもご参加。自由に意見交換をしながらイベントを進みました。

そして話は、今回のメインテーマ「継ぐ」ことについてへ。三ツ松さんは、「継ぐ」ことの意味について、次のように話します。

「金継ぎもそうですけど、継ぐことによって新しい個性がつくじゃないですか。母親の味を同じレシピで作っても、全く同じではなくその人の味が出ていると思うんです。新しい何かとちょっとだけ化学反応を起こして、プラスになっていく。根底にあることは変わっていないけれど、少しずつ良い方に変化していくことが、継ぐことなんじゃないかな」

時を経ることによって生じる変化を肯定しながら、根底にある精神を守っていくことが、継ぐことなのではとのこと。

即興で空間デザインを披露してくれた三ツ松さん。辻潤氏の小説『書斎』をもとに、3畳の書斎を中心にした家全体をイメージしてくださいました。

そして持永さんは、「継ぐ」ことの醍醐味について、次のように続けます。

「全てのものを継ぐ必要はないと思っています。継ぐべきは、自分にとってしっくりくる、ものやこと。何も考えなくても、自然と選んでいるものには理由がある。そういう、しっくりきているものこそ、大切にすべきだと思います。また、ものはひとたび壊れてしまうと、共に過ごしてきた時間と記憶が途切れてしまう。でもなおすことによって、止まってしまった時間がまた動き出すんです。意識していなくとも、器一つをなおすことで、付帯するいろいろなものも継がれていく。これは、機械やAIではなく、人間だからこそ感じられる部分だと思います」。

持永さんの金継ぎ道具一式。仕上げに行う金を磨く作業には、鯛の歯を使うのだそう。

持永さんによる金継ぎの実演。漆を使って器を接着する技術は、なんと縄文時代からあったのだそう。「漆の文化を次代に継承していく使命を感じている」と持永さんは話します。

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2時間にわたるトークイベントもついに終了。

本番を終えたお二人に、イベントの感想や、お二人のお仕事に向き合う姿勢、そしてこれからの目標についても伺いました。

F.I.N.編集部

本日はお疲れさまでした! いかがでしたか?

持永さん

こんなふうに皆さんとお話をする機会はないので、緊張しました。

三ツ松さん

うん。でも楽しかったです。

F.I.N.編集部

お二人は、普段からお互いの仕事ぶりを、逐一共有したりしているんですか?

三ツ松さん

それぞれ別分野で仕事をしているので、あまりないですね。でも、たまに、かおりさんのものを撮影で借りたりすることはあります!

持永さん

そうだね。でも、忙しくなると、全然連絡が来なくなりますね(笑)。

三ツ松さん

インスタで仕事のアップデートがあるので、それを見ては、「いいね」を押しています。

持永さん

あ、確かに。SNSを通して無事の確認をしています。

F.I.N.編集部

今日の未来定番サロンでは、お二人それぞれのお仕事の実演や、苦労話も飛び出しました。お互いのお仕事を改めて聞いて、どう感じられましたか?

持永さん

改めてすごいことをしているなと思いましたね。以前、彼女の仕事現場を見に行った時、本当に大勢のスタッフがいることにびっくりしたんです。監督や俳優さんはもちろんのこと、エキストラにお茶を出す係、お弁当を配る係、そういう人たちに気を遣う係りもいて、いろんなスペシャリストの人たちが集まって作ってるんだなと。クラクラしましたね。

三ツ松さん

そうですね。でもそうやって大勢で仕事をやることが疲れるので、一つの現場が終わったら姉のところに行って愚痴を言っています。やっぱり人付き合いは大変なんですよ……(笑)。

持永さん

確かに、ひとりでやってるのとは全然違うかもしれませんね。逆に私はそれを全て排除した状態でやっているんです。仕切るのも嫌だし、仕切られるのも嫌だってことに気づいて、結局今、一人で黙々と作業をするっていうところに行き着いています。わがままですよね(笑)。なので、そういう意味では正反対ですね。

F.I.N.編集部

三ツ松さんは、持永さんの仕事ぶりをどう感じられましたか?

三ツ松さん

実演を見て、「なんて細かいことをやってるんだこの人は!」と改めて感心しました。器用ですよね。申年だからかな(笑)

持永さん

(笑)。性に合ってるみたいね。性格はすごい大雑把なんだけど。

三ツ松さん

そうです、ものすごい大雑把。三姉妹の中でも彼女は飛び抜けて大雑把とよく言われていました(笑)。

持永さん

そうなんです(笑)。なのに、なんで私今こんなに細かい仕事してるんだろうとふと思うこともあります。でも自分のペースで仕事をできる今の形が合っているのかな。

F.I.N.編集部

性格と手先の器用さが共存したのが、今のお仕事スタイルになったんですね。

持永さん

そうですね。何になりたいかとか、こうなればいいかとかじゃなくて、みんななるべくしてなるようになっているんだろうな、とこの歳になって思いますね。

F.I.N.編集部

それぞれの分野の第一線で活躍されているお二人ですが、ここまで目標は立ててこられたんですか?

持永さん

私は全然立てていないですね。高い目標を持ってコツコツ頑張れる人もいるんだろうけど、私は、自然とこうなったという感じです。

三ツ松さん

私もビジョンは描いてないです。なんとなくこんな仕事がしたいな、っていうのは、その都度選んできましたけど。

持永さん

あんまり野心がないんじゃないの?

三ツ松さん

そうそう、全くないんですよ。ただ、この映画美術の仕事の面白いところって、二度と同じ作品を作れないこと。例え同じメンバー、スタッフが集まって、同じ題材の脚本を撮ろうとしても、それが5年後になれば、多分全然違う出来になる。今できることは今しかない。その面白さがあるから、続けてこられたんだと思います。

持永さん

毎回新しいんだね。

三ツ松さん

でも今ちょっと思うのは、もうだいぶこの仕事を長くやってきているので、違うこともしてみたいなと。(笑)。だから、次は何をしたいかなっていつも考えていますね。

持永さん

少し前にも、急に、ロケ弁を作る人になろうかなって言ってたよね?

三ツ松さん

そう。ケータリング(笑)。まだそれも頭の片隅には入れているんですよ!

F.I.N.編集部

未来は無限大ですね。本日はありがとうございました!

当日、会場に飾られたお花。映画『歩いても 歩いても』で主人公の母役を演じた樹木希林さんがいけた設定のお花を、三ツ松さんが再現してくださいました。

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