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2022.07.11

未来定番サロンレポート

第22回| 次世代の堆肥づくりから考える、コンポストのある未来。

紫陽花が鮮やかに咲く2022年6月12日、22回目の「未来定番サロン」が開催されました。未来定番サロンは未来のくらしのヒントやタネを、ゲストと参加者のみなさんが一緒に考え、意見交換する取り組みです。

 

今回は「未来定番コンポストサロン」と題して、〈ローカルフードサイクリング株式会社〉(以下LFC)代表取締役のたいら由以子さんと、LFCが開発するバッグ型コンポスト「LFCコンポスト」のユーザー3名をゲストに迎え、コンポストのある暮らしとその未来についてトークセッションを行いました。

 

(文:深澤冠/写真:西あかり)

まだまだ知りたい、

コンポストがある暮らしの魅力。

コンポストとは、堆肥(compost)や堆肥をつくる容器(composter)のこと。家庭から出る生ごみなどの有機物を、微生物の働きで発酵・分解させて、堆肥に変えることで資源活用するというものです。

 

未来定番研究所が初めてコンポストに出会ったのは1年ほど前。福岡県を拠点にコンポストの価値を提案するたいら由以子さんをお招きし、最初のイベントを開催したのがきっかけです。そこで実際に堆肥に触れながら、コンポストが江戸時代からすでに日本で行われていたこと、現代において求められている循環型の暮らしへの入り口となってくれることを教えていただきました。

 

コロナを経験し、家庭での食事やごみを見直す機会が増えた私たちにとって、コンポストが持つ価値とは何なのか。堆肥づくりを実践している方々はどんな魅力を感じているのか。気になるコンポストの世界へさらに迫るため、今回はトークイベントに加えてLFCによる「堆肥回収会」を開催しました。

それぞれの堆肥が、

混ざってつながる回収会。

イベントが始まる前、会場の軒先に大きなサイズのLFCコンポストが並べられ、堆肥回収会がスタートしました。回収会では、各家庭でつくられた堆肥が一箇所に持ち寄られます。集まった堆肥はLFCが契約する農家に実証実験として活用いただく仕組みになっています。

 

コンポストをするみなさんにとって、回収会はガーデニングなどでも使いきれなかった堆肥の活用先であり、農家や地域へ直接還元ができる場所になっているそうです。都内でも開催されている拠点はまだ多くなく、前回のイベント参加者をはじめ、回収会があることを聞きつけたたくさんの方にお持ちいただきました。

「堆肥から丁寧な暮らしがわかる」とたいらさんも思わずうなるほど、よく手をかけられた養分をたっぷり含んだ堆肥が次々と混ぜられていきます。それでも、微生物がしっかりと野菜くずや果物の皮を分解しているため、まったく匂わないから驚きです。

 

ぶどうの皮を入れると次の日にはなくなっているのが楽しい、料理で残った油を少し入れてあげると微生物が活性化してホカホカになる、とそれぞれのコンポスト事情について聞いてみると、すぐにみなさんの実感や知恵が飛び交い盛り上がりました。まるで理科の実験のように、試行錯誤しながらも土に触れることを各家庭で楽しまれているようです。

 

何をしているんですか?と通りすがりに声をかけてくださったり、母国でコンポストをやっていたというオーストラリア出身のお二人がふらりといらっしゃったり、軒先にどんどん人が集まってくる様子に、コンポストから始まるコミュニティの可能性を感じる会となりました。

地球のことより、

まずは自分のおなかから。

回収会が終わり、いよいよ「未来定番コンポストサロン」が始まります。オープニングはたいらさんから、コンポストを行うようになったきっかけや、コンポストの歴史などの基礎的な知識についてお話いただきました(前回のレポートでも詳しく紹介しています)。

コンポストにおける魅力のひとつは、野菜くずなど多様な食物の栄養を含んだバランスの良い有機堆肥ができること。それを土に混ぜて野菜を育てると、甘みが強く香り高い、味がしっかりとした野菜になるとたいらさんはいいます。

 

「社会のためといっても、苦行だと思いながらやるのは嫌じゃないですか。生ごみを堆肥にするだけだとなかなかモチベーションも上がりませんが、そこからおいしい野菜が育って、それを自分で味わって、生ごみがまた資源になって、という循環が実感できると楽しみながらできるんじゃないかなと思います。環境問題の話をするとどうしても大きな視点の話になってしまいますが、私は自分の半径2kmで循環を考えることが、自分ごととして楽しんで取り組めるポイントだと考えています」

 

忙しい毎日では社会のために行動することも大変だけど、おいしい野菜を食べるために1日数分だけコンポストをかき混ぜることならできるかも。そう思わせてくれるような、等身大のお話にみなさん耳を傾けていました。

LFCコンポスト

どうやって使っている?

続いて、実際にコンポストをされている「LFCコンポスト」ユーザーの3名が登場。未来定番研究所もある谷中に新しく誕生したホテル「YANAKA SOW」を運営される永山さん。1年前からLFCのスタッフとして働かれている内山さん。そして、調理師学校の学生であり、先日20歳になったばかりの大垣さんが拍手で迎えられ、それぞれコンポストをどう使っているのか、トークセッションが始まりました。

左2番目から、永山さん、内山さん、大垣さん

F.I.N.編集部

使ったことがないという方もいらっしゃると思うので、まずは内山さんから簡単に「LFCコンポスト」についてレクチャーいただいてもよいでしょうか?

内山さん

「LFCコンポスト」はバッグ型のコンポストで、バッグの中に入れる基材(生ごみと混ぜ合わせる原料)とセットになっています。基本的には、雨の当たらない風通しのいいベランダに置いて使います。中に基材を入れたら、大体50gから450gほどの生ごみをその日から毎日入れることができます。今日はおうちから生ごみを持ってきたので、入れ方もお見せできればと思います。

F.I.N.編集部

ありがとうございます!

内山さん

まず、前日の生ごみが入っていたら一度しっかり混ぜてから、真ん中に軽く穴をあけます。ここに生ごみをばーっといれて、周りの基材を少しかけてあげたら和える感じで軽く混ぜます。私は昨日こんなもの食べたなとか、微生物くんがんばってねと思いながらやっています(笑)。

F.I.N.編集部

しっかり混ぜるというよりは、和える程度ですか?

内山さん

そうですね、本当に1日1-2分でできるものになっています。全部で生ごみが20kgほど入るようになっているので、2ヶ月から3ヶ月ほど生ごみを入れ続けていただいて、その後3週間ほど熟成期間に入ります。熟成中に水分量が足りなかったら水を入れてしっかり混ぜていただくと、最終的にしっかり生ごみの形がなくなった、栄養たっぷりの堆肥ができあがります。野菜くずだけじゃなく、卵の殻とか鳥の骨、魚の骨も入れられます。

F.I.N.編集部

混ぜるためのスコップも中にそのまま入れておいてOKなんですね。

内山さん

大丈夫です。チャックを閉め切らずにいるとどうしても虫が入ってきてしまうんですが、しっかり閉めれば隙間ができないようになっているので、そこも安心できるポイントかと思います。

間違いなんてない、

偶然も楽しむコンポストライフ。

F.I.N.編集部

永山さんは実際どのように使われていますか?

永山さん

うちのコンポストはだいぶラフにつくっていますね。ベランダを緑でいっぱいにしたくて、もちろん市販の植物を買うこともできるんですが、全部自分で育ててみたいなと。今はハーブが育っていて、こないだ植えたキュウリとトマトが少しずつ実っているので初収穫が楽しみです。

F.I.N.編集部

初めての菜園で難しかったことはありますか?

永山さん

できあがった堆肥は、土と1:2の割合で混ぜて使うのがいいと最近になって知ったんですが、実は今まで堆肥だけで育てていました。

内山さん

でも枯れなかったんですね、すごい!

永山さん

すごい勢いで育っていて、枯れないどころか喜んでいますね。正しくはないのかもしれませんが(笑)。

F.I.N.編集部

決まった答えがないのも、自然を相手にするコンポストのいいところですよね。大垣さんはどうですか?

大垣さん

母親と一緒にガーデニングをしているんですが、いろんな種類を育てています。自分で食べたアボカドの種を植えたり、ラベンダーを植えたり。あとは、生ゴミとして入れたトマトの種が勝手に育っていて、植えたつもりはなかったんですがすくすくと伸びてきたのでやったー!と(笑)。収穫できたらいいなと思っています。

食やごみを見つめ直すと

自分をもっと大事にできる。

F.I.N.編集部

コンポストライフを謳歌されているみなさんですが、コンポストを始めてみて変わったことはありますか?

永山さん

シンプルに変わったのは、ごみの量が減ったこととごみが匂わなくなったこと。この2つはすごく実用的に変化がありましたね。あとは、自分が食べたものを堆肥に入れていくので、堆肥と一心同体じゃないですが、少なからずつながりを感じます。なので、堆肥にはいいものをあげたいなと思うし、そのためには自分もいいものを摂りたいなと、まずは自分を大事にしようと思えるようになりました。

大垣さん

コンポストを始めてみたら、堆肥でできた野菜が食べられるというサイクルがすごく楽しくて。エコにはあまり関心がなかったんですが、その楽しさが周りに広がって、結果的に廃棄するものが減ったら素晴らしいなと思います。いつか自分のお店を開くときもその野菜を使おうと思いますし、みんなにも使って欲しいなと思っています。

F.I.N.編集部

エコにつながることもありますが、社会を背負うというよりも、まず自分で楽しめることがコンポストの魅力でもありますよね。LFCでもそういったユーザーの声は聞こえてきますか?

内山さん

そうですね。もともとエコに興味があるという方もいれば、生ごみの匂いをどうにかしたくて始められた方もいます。うちも私から始めたんですが、コンポストのおかげで気づけば生ごみの夫婦喧嘩をしなくなりました(笑)。ゴミ捨て当番が夫なんですけど、捨て忘れると生ごみの匂いってすごいじゃないですか。だからなんで忘れたの!とついなっちゃうんですが、それがなくなりましたね。むしろ「生ごみ入れておいたよ」と会話も増えて、よかったことの方が多かったなと思いますね。

コンポストがあると

どんな未来がやってくる?

F.I.N.編集部

みなさんはコンポストがもっとあたりまえになったら、どんな未来が来ると思いますか?

内山さん

最初はものをたくさん捨てていることへの罪悪感から興味を持ったんですが、始めてみたらそれだけじゃなくて、食と農業の距離がすごく近くなりました。今は「食べる」と「つくる」とか、「生産」と「消費」がすごく分断されていると思うので、そのつながりが増える未来が来るんじゃないかなとワクワクしています。

F.I.N.編集部

確かにつくった人の顔が見えるだけで食べる感覚って変わりますよね。

内山さん

大切に食べられるようになりますよね。どうしても食べられない部分だけコンポストして、自分で野菜を作ったりもできますし。

大垣さん

家から出る生ごみという一番身近なところからできますよね。コンポストをしていれば、自分のようにサステナビリティに関心がなくても、少しずついい未来に近づくんじゃないかなと思います。こういったことには硬いイメージがあったんですが、肩の力を抜いて考えられるきっかけになりましたね。

永山さん

コンポストがある未来は、穏やかで平和な世界になるんじゃないかなと思っています。周りを見ても、コンポストをしている人は自分を大事にするし、地球も大事にする人が多いなあと。そんな個々人の穏やかな気持ちが2km圏内でひとつずつ広がっていくと想像すると、コンポストはきっといい「地域」をつくるんじゃないでしょうか。

三者三様のバックグラウンドを持った3人でしたが自然と、同じ未来を向いてお話ができることもまたコンポストの魅力なのかもしれません。「活動を始めた頃にこうなったらいいなと思い描いていたことが、みなさんの自然体な声で話されていて、一緒にその未来を過ごしてみたいなと素直に思いました」とたいらさんもセッションの終わりに話されていました。

発見も、もやもやも、

全員で本音トークセッション。

最後に、これまで会場とオンラインでお話を聞かれていた参加者のみなさんも交えて、トークセッションを行いました。

 

最近コンポストを始められたという20代の女性の方が変わったと感じるのは、食への意識だそうです。どれをとっても同じだと思っていた野菜も、丁寧に育てられたものはおいしくなると知って、今では有機野菜を売っているお店を覗いてみるようになったのだとか。半信半疑でも、実際にやってみたからこそ実感できるものがあったとおっしゃっていました。一方、コンポスト未経験の方は、いざ自分がやるとなると堆肥をつくっても使い道がないしなあともやもやしていたが、回収会などコンポストをやる先のことまで教えてもらえてすっきりしたと力強く話されていました。

また、参加者のみなさんにはそれぞれが思い描くコンポストのある未来も、ボードに書いて発表していただきました。

 

「一次産業と自分の生活がつながる未来」

「食育や教育にコンポストが使われる未来」

「ごみの回収が資源の回収になる未来」

「もっと社会参加へのハードルが低くなる未来」

「一人一人の自己肯定感が上がる未来」

 

オンラインで参加されている方々も含め、みなさん思い思いの視点から未来のイメージを挙げられていました。本日のイベントを通して、コンポストのある暮らしがリアルに感じられるようになったことで、自分を大切にする未来や地球を大切にする未来が少し見えてきたのではないでしょうか。

「虫がいや」から、

コンポストは次のフェーズへ。

イベント終了後、たいらさんに近年のコンポストの盛り上がりやこれからの展望についてお伺いしました。

F.I.N.編集部

以前イベントをしていただいた1年前から変化はありますか?

たいらさん

活動を始めてからずっと今日出てきたような未来を描き続けてきたんですけど、この1年間で同じ未来を見始めている人があっという間に増えたように感じます。

F.I.N.編集部

LFCコンポストを使われる方も増えましたか?

たいらさん

そうですね。今はおよそ3万5000人の方に使っていただいているんですが、これまでコンポストというワードに全然引っかからなかった人にも届いているように感じます。新しいカルチャーとして動き始めているのかもしれません。

F.I.N.編集部

増えているのは、コロナの影響もあるのでしょうか?

たいらさん

いろんな問題が誰にとっても自分ごとになったと思うので、大きいでしょうね。今まで「虫」とか「匂い」で発想が止まっていたコンポストも、それが暮らしの何を解決してくれるのかというもっと先のフェーズにコマが進んだのだと思います。やっぱり疑問を感じて初めてものごとは進みますね。

たとえば一家に一軒、

かかりつけの農家がいる未来。

F.I.N.編集部

確かに、周りでも農業や菜園に興味を持ち始める人が増えてきたように感じます。

たいらさん

だからこそ、早く堆肥を回収する仕組みをしっかりつくりたいですね。農家さんに堆肥を送ると、数ヶ月後に野菜が送られてくるキャンペーンをやっていて、24時間くらいで定員が埋まるくらいお問い合わせもあるので。

F.I.N.編集部

堆肥の使い道の選択肢が増えるのはうれしいですね。半径2kmというお話がありましたが、その真ん中にはどんなものあるのでしょうか?

たいらさん

やっぱりこういったイベントやコミュニティガーデンなど、「場所」が重要になってくると思います。オンラインのつながりももちろんあるんですが、顔が見えるコミュニケーションがすごく大事。そのうち、かかりつけの農家みたいなものができるといいなと思うんですよね。病院みたいに、各家庭にそれぞれつながりのある農家がいるような。

F.I.N.編集部

かかりつけの農家、おもしろいですね。育てた堆肥を診察してもらうとおっしゃっている方もいましたが、気軽に相談できる場所があると安心ですよね。

たいらさん

堆肥と野菜をやりとりできると楽しみも増えてくると思いますし。自分で畑をやるにしても都会の耕作面積は少ないですが、バッグみたいな小さなコンポストであればベランダも面積になる。そうやって体験価値を増やしていきたいですね。

F.I.N.編集部

最後に、これからコンポストを始められる方たちにアドバイスはありますか?

たいらさん

LFCスタッフでLINEサポートもやっていて、わからないことがあれば聞いていただけるので、気になっていたらまずはやってみてほしいです。AIではなく手打ちでやりとりしていますし、経験を積んだ若いスタッフも相談に乗ってくれるので、気軽に始めてみてください。

Profile

たいら 由以子さん

〈ローカルフードサイクリング株式会社〉代表取締役。福岡市生まれ。大学を卒業後、証券会社に勤務。平成9年コンポスト活動開始、平成16年、NPO法人循環生活研究所を設立、国内外にコンポストを普及。生ごみ資源100研究会を主宰、循環生活研究所理事、コンポストトレーナー、NPO法人日本環境ボランティアネットワーク理事など務める。

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