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2024.10.16
未来定番サロンレポート
ようやく秋らしい気候になってきた2024年9月21日(土)・22日(日)、37回目の「未来定番サロン」が開催されました。未来定番サロンは未来の暮らしのヒントやタネを、ゲストと参加者の皆さんが一緒に考え、意見交換する取り組みの場です。
今回は、海岸に打ち上げられた貝殻やシーグラス、流木などの漂流物を拾い集めるビーチコーミングの素材を使って、ブローチをつくるワークショップを実施。アーティストの乙女の祈りさんに、ビーチコーミングの楽しみ方や海洋ごみから見えてきたことなどを教えていただきました。
(文:大芦実穂/写真:西あかり)
乙女の祈りさん(おとめのいのり)
アーティスト。2020年から貝や流木、石ころ、生き物の欠片、海洋ごみなどを拾うビーチコーミングに魅せられ、集めたものを素材に立体コラージュ作品を制作。ビーチコーミングを通して、ランジェリーに関わる仕事をしていた時に感じた女性の悩みや内面と、地球のパーツに繋がりがあることを実感。作品づくりにも影響を及ぼしている。
アート作品に生まれ変わった海洋ごみ。
今日の未来定番研究所はいつもと少し様子が違います。どこからともなく波の音が聞こえ、古民家の床の間や階段、たんすの上などには、貝殻や海藻、ロープなどでつくられた作品がずらり。まるでビーチサイドのカフェのようです。よく見ると、捨てられたコンタクトレンズの保存ケースや、発泡スチロールなども。ごみとして流れ着いたものが、アート作品に生まれ変わっていました。
展示物を夢中で見ていると、今日のワークショップの講師、乙女の祈りさんが登場。自己紹介とプログラムについて説明のあとは、さっそくブローチづくりに取り掛かっていきます。
まずは乙女の祈りさんが事前に用意してくれたブローチ制作のための素材のセットを選ぶところからスタート。セットには貝殻やシーグラス、ビーズ、サンゴなど、それぞれ異なる素材が7〜10個ほど入っています。セット以外にも、シーグラスや陶器の破片などパーツがたくさん用意されているので、自分の好きなように追加やアレンジをすることが可能。
次に、ブローチの土台を練り消しゴムに埋めて動かないように固定し、その上に好きなパーツを並べていきます。レイアウトを試行錯誤して、接着剤でくっつけます。
「いきなり接着剤でつけてしまうより、まずは並べてみて、組み合わせを確認するのがおすすめです」と乙女の祈りさん。一人ひとりをまわって見てくれるので、アクセサリーづくりが初めての方でも安心です。
全員がひと通りパーツをつけられました。接着剤が乾くのを待つ間、乙女の祈りさんにビーチコーミングの話を伺います。
ビーチコーミングがきっかけで
考えるようになったこと
Q. いつもどこでビーチコーミングをしていますか?
「三浦半島や葉山など関東の海岸が多いです。一見ビーチには何も落ちていないと思っても、じっくりと探していると、ふとした拍子に砂の中から出てくることもあるんですよ! また、友人をたずねて石川県や北海道の海にも行きました。日本海と太平洋では海流も違うし、地域によって落ちている海洋ごみも異なるので面白いですね。宝探しのような感覚で楽しんでいます」
Q. どんな格好で行いますか?準備するものはありますか?
「日焼けをしたくないのと、夏は暑いので、速乾性やUVカット加工されたアウトドアブランドの服を着ています。足元は、夏はビーチサンダルで冬は長靴。拾ったものを入れるカゴと水筒、簡単な携帯食を持って、気がつけば4時間近く拾っていることもあるんですよ(笑)」
Q. 今まで拾ったものの中で特に印象的なものは?
「北海道で拾ったイルカと思われる骨です。拾った時には海藻などがいろいろ絡まっていて、何かよくわからなかったんですが、どうやらこれは何かの骨らしいと。一緒にビーチコーミングをしていた友人がネットで調べてくれて、おそらくイルカの肩甲骨じゃないかという結論に辿り着いたんです! たしかに画像を見てみると、ヒレを動かすところにある骨の形と一致して。小さいので子供のイルカかな?と」
Q. 拾ったものはどのような処理が必要ですか?
「漂流物には汚れやにおいなどがついているので、家庭用洗剤と炭酸ソーダでよく洗い、その後天日干しにしています。シーグラスは3日ほどでにおいが取れますが、カニの甲羅などは1カ月くらいかかりますね。
Q. そもそもビーチコーミングを始めたきっかけは?
「渋谷や有楽町でアパレルの販売員をしていたのですが、仕事に疲れてしまって。そのことを沼津に住んでいる友人に話したら、『海がいいよ。遊びにおいでよ』と誘われたんですね。私、実は海ってあんまり好きじゃなかったんです(笑)。でも海に行ってみたら、海岸にたくさん丸い石が落ちていて、それぞれ形も色も違って面白いなぁと思うようになりました」
「ちょうどその頃、アクセサリー作りもしていたのですが、海岸に落ちているものってアクセサリーのパーツになるんじゃないかと思ったんです。お店で売っているパーツよりも魅力的だし、お金を払っても買えないもの。それでだんだん街にはないものを見つけるのが楽しくなって、3カ月に一度くらい海に通うようになりました。波の音とか、風のにおいとか、いつの間にか私自身も癒されていることに気がつきました」
Q. ビーチコーミングを始めてどんな変化がありましたか?
「海岸には、一世を風靡したおもちゃが打ち上げられていることもあるんです。きっと流行が終わって捨てられてしまったのかもしれませんね。私がいたアパレル業界では、季節ごとにトレンドがあって、シーズンを過ぎた商品は店頭から下げなくちゃいけないんです。縫製工場にも行ったことがあったので、作っている人たちの顔を思い浮かべるとすごく悲しい気持ちになって……。最新のものを持つことの意味を考えるようになりましたね」
「それから、生き物の死骸が落ちていることも最初は衝撃的でした。スーパーで売っているような加工された魚ではなく、ただ死んでしまっているだけの魚を見る機会があまりなかったんですね。おそらく動物であろう骨を拾ったこともあるし、生き物の一生について思いを馳せるようにもなりました。
ほかにも、便座やすりガラスを見つけたこともあります。人間の生活に関わるものも海へ出ていって、また陸に流れ着くんだなあと思います。
自然と人間との関係、生き物の生と死、モノの流行などについて以前よりも考える機会が増えたと思います」
世界に1つだけのブローチが完成!
乙女の祈りさんのお話を聞いている間に、接着剤が乾いて、ブローチが完成! さっそく皆さんの作品を見てみましょう。
シーグラスやサンゴ、貝殻などを使った、涼しげなブローチが完成しました。どの作品もそれぞれの個性が表れていて素敵です。
参加者の小学生に感想を聞くと、「きれいなシーグラスがさわれたりお話を聞けたり、楽しかったです」と笑顔。たまたま未来定番研究所の前を通りがかった時に、「ビーチコーミング」の文字が見え、参加申し込みをしたそう。海岸でシーグラスや貝殻を拾うのが大好きだと話してくれました。
最後に「5年先の未来、どんなことをしていると思いますか?」と乙女の祈りさんにたずねると、「各地の海岸に行って、ビーチコーミングをしながら作品を作るアーティストになっていると思います」と答えてくれました。
ビーチコーミングで集めた、普段ならごみとして扱われるものたち。アーティストの乙女の祈りさんの目線を通して、海洋ごみについて考えたり、自分たちにできることはないか?を考える場となりました。ブローチをつけるたび、海に思いを馳せ、考えていくことを大切にするきっかけとなりそうです。
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