未来定番サロンレポート
2025.01.31
再生する
持続可能な社会を目指す世の中で、「リジェネーション」などの再生の概念が注目を集めています。それは、現状維持や復活という意味を超えた、「今以上を目指す、繰り返し生み出す」再生。そしてさらにその先の再生へと時代が動いている気もします。そこでF.I.N.が注目したのは、自然環境や伝統文化で見てとれる再生されたモノやコト。再生に携わる目利きの活動や価値観に触れ、これからの再生はどんなカタチへ向かい、何をもたらすのかを探究します。
今回は、埼玉県三芳町で産業廃棄物処理業を営む〈石坂産業株式会社〉へ。不法投棄でごみの山となってしまった雑木林を、20年以上かけて自然あふれる里山に蘇らせ、その先進的な取り組みが注目を集めています。工場や里山を見学しながら、里山の「再生」に至った背景やこれから目指していることについて伺いました。
(文:大芦実穂/写真:西あかり)
ごみであふれる雑木林から、年間5万人が訪れる里山に
都心から北西に車で約1時間、埼玉県三芳町に里山を生かしたサステナブルフィールド〈三富今昔村(さんとめこんじゃくむら)〉はあります。東京ドーム約4個分という広大な敷地の中には、アスレチックやオーガニックファーム、レストラン、神社まであり、随時里山の恵みを感じるワークショップや農業体験、イベントなども実施。この〈三富今昔村〉を運営しているのが、産業廃棄物の再資源化に取り組んでいる〈石坂産業〉です。
〈三富今昔村〉の大部分を占める「くぬぎの森」には、多種多様な動植物が生息。今ではきれいな水辺を好むオオシオカラトンボやヤマユリなども見られるようになりましたが、以前は不法投棄が繰り返されていた“ごみの山”でした。
「徳川綱吉の側用人だった柳沢吉保がこの地に里山をつくったのが三富の始まりといわれています。当時は地域の人々が里山を管理し、自然と共生していたそうですが、現代になり農家離れが進んでいくと、森の管理が行き届かず、木が生い茂るようになりました。陽の光が入らない暗い森は人目にもつきにくいので、悪いことをしやすくなります。次第に不法投棄が増えていき、いつしかごみの山になってしまったようです」(広報・石坂小鈴さん)
里山を再生させたのは、産業廃棄物処理会社
そんな土地に〈石坂産業〉がやってきたのは、1982年のこと。都心からのアクセスがよく関東全域をカバーしやすい、また同業者が多いなど、立地面から三芳町が選ばれました。その後、里山の保全に着手したのは1999年頃。不法投棄が絶えなかった雑木林を地域の問題として捉え、地域に根ざした会社にしていきたいという想いから、10年以上かけて里山を再生させていきました。〈三富今昔村〉が一般の方にも訪れてもらえるようになったのは、2016年でした。
「1999年2月、所沢でダイオキシン問題が起きて、弊社も矢面に立たされることになりました。地域からのバッシングもひどく、多くの社員が辞めていくような状況でした。誤報による風評被害だったのですが、会社の存続が危ぶまれるなかで、どうすれば会社を立て直せるのか考えた結果、『地域に必要とされ、愛される会社になる』ことが大事だという結論に至ったんです。そこで、私たちの取り組みをすべてオープンにしようと、見せる経営に転換していきました。」(石坂さん)
まずは、それまでの屋外施設から約40億円を投資して全天候型のプラント(設備や機器を複数組み合わせて作られた工場)を建設し、社員と環境を守ることを優先。それから、〈石坂産業〉が何をしている会社なのかを、地域の人によく知ってもらいたいという想いで、見学通路を新設して工場見学をスタート。資源がどのように再生されているか、また周辺地域の環境にどう配慮しているか、伝える場を設けることにしました。
関東地域を中心に産業廃棄物を積載したトラックが次々と到着。
廃棄物はすべて「資源」。ごみを極限まで減らし再資源化に尽力
F.I.N.編集部も工場見学に参加させていただくことに。
プラントに向かう途中、「ちょっと地面を見てみてください。これも再生されたブロックなんです。原料はなんだと思いますか?」と石坂さん。「正解は瓦です。建築解体現場などから出る一般家庭の瓦を再利用したものです」。
よく見ると、瓦の破片のようなものが混ざっているブロック。
本社のエントランスには、庭石だった石を利用。
プラント内の工夫は、廃棄物の再利用だけではありません。工場に出入りするトラックは、必ず出口でタイヤを洗浄しているそう。これも周辺地域を汚さないための環境に配慮した取り組みです。
タイヤの洗浄には雨水を再利用。
いよいよ再資源化プラント内へ。〈石坂産業〉では廃棄物をすべて「資源」と捉え、それらを極限まで再生する努力をしています。
「弊社では同業者でもなかなか再資源化が難しい、建築現場などで出る土砂系混合廃棄物も積極的に受け入れています。徹底的な分別分級で業界最高レベルの98%の減量化・リサイクル化率を達成することができました」(石坂さん)
〈石坂産業〉の再資源化プラントは下記の6つのエリアで構成されています。
(1)廃コンクリート再資源化プラント:住宅の基礎や、マンションなどで使われていたコンクリート(がれき類)を再生商品に変えるプラント
(2)廃プラスチック類再資源化プラント:古紙と軟質プラスチックを選別し、固形燃料(RPF)に再生するプラント
(3)減量化プラント:独自の手法と手作業で再資源化率を高め、圧縮処理を行い減量するプラント
(4)不燃系混合物分別分級プラント:様々なふるい機や独自の処理方法により高精度分別分級を行うプラント
(5)木材再資源化プラント:廃木材を選別・破砕し木材チップを生産するプラント
(6)有価物再資源化プラント:鉄やアルミ、ステンレスなどに細かく分別し、有価物として再生するプラント
まず案内されたのは、「廃コンクリート再資源化プラント」。ここでは、重機を使って建設廃棄物の鉄筋コンクリートを粉砕していました。日立グループと共同開発した電動式油圧ショベルを導入していて、旧来のエンジン式のものから約70%のCO2削減が見込めるそうです。ここで粉砕されたものは、再生砕石や再生砂になり、道路の路盤材や路上整地材として再利用されるとのこと。
「廃プラスチック類再資源化プラント」では、トラックで運ばれてきた廃棄物を粗選別し、再資源化へと展開。廃プラスチックや古紙はRPFと呼ばれる固形燃料へとリサイクルされます。
再資源化の過程には、人の手による選別が不可欠なのだそう。混ざり合った廃棄物を素材ごとに目にも止まらぬ速さで振り分けていきます。
近年はリチウム電池が混入し、粉砕する過程で発火が発生していると石坂さん。ここでも混入がないか丁寧に確認がされていました。
「弊社のビジョンとして『Zero Waste Design』を掲げていますが、これには“ごみをつくらない社会構造を目指す”という想いが込められています。私たちがリサイクル技術を向上させていくと同時に、生産者が廃棄された後に分別しやすい商品を開発していくことで、社会全体でごみを減少させていく未来を目指しています。大量生産・大量消費の社会システムから脱却し、持続可能な社会へと移行するために、このビジョンを広めていきたいと考えています。」(石坂さん)
かつてのごみの山は、人で賑わう憩いの場に
続いて、社屋とプラントのすぐ隣にある〈三富今昔村〉を案内していただきました。
〈三富今昔村〉は、アスレチックや池、神社のある「結(むすび)」、落ち葉プールやキャンプテントのある「陽(あかり)」など、8つのエリアで構成されています。
エントランスをくぐると待っていたのは、立派な鶏のいる「ポートリーガーデン」。自社のレストランで出る野菜の切れ端などを食べて育ち、採れた卵はレストランで提供するプリンなどに使われるそう。
「もともとは土づくりのために鶏を飼い始めました。鶏糞にはリン酸など、土に必要な栄養がたっぷり含まれていて、より栄養のある土になります。なぜ土づくりが必要だったかというと、不法投棄されていた土は汚染されてしまい、不法投棄のごみを取り除いた後も、植物が元気に育たない状態になっていたから。そこで、里山が本来持っている循環の形を取り戻すために、より良い土に変えていくことからスタートしました」(石坂さん)
敷地内には神様を祭った神社も。その背景には会社としての決意表明もあったといいます。
「里山の保全を始めた時、一部の方からは『産廃業者が里山を使って何か怪しいことをするんじゃないか』『不法投棄をするのでは』という声も聞こえてきました。それを聞いた創業者が、地域に根を下ろして生きていくという強い決意を込めて、この『しあわせ神社』を建てました」(石坂さん)
木々を間引くことで、光が差し込む健全な里山へと再生。
さらに歩いていくと、100種類ほどのハーブが植えられている「10000の丘」へと到着。
「10000の丘」エリアは、かつて1万トンのごみが不法投棄されていた場所だそう。「当時は私の背丈くらいのごみが積み重なっていたんですよ」と石坂さん。
最後はレストランも併設されている「くぬぎの森交流プラザ」へ。ここでも少しお話を聞きました。
パンの販売やレストランも併設されている「くぬぎの森交流プラザ」。
〈石坂産業〉の循環型モデルをさまざまな国と地域へ
工場見学や〈三富今昔村〉をオープンしたことで、一番変わったのは社員だと石坂さんは言います。
「“産廃業者”と聞くと、これまではあまりいいイメージがなかったので、自分の仕事の価値に気がついていない社員もいました。でも、国内外から見学や視察に来てくれる人が増えて、実際に仕事をしている姿を見てもらうようになったら、少しずつ仕事に対する意識が変わってきたんです。誇りを持って仕事に取り組んでいる社員が多いです」(石坂さん)
近年は海外からの就職希望者も増えている。チェコ出身のテレザさんは、〈石坂産業〉で働くため、来日したのだという。
また、地域との関係性にも変化が見えたといいます。
「里山の再生を始めてから、〈石坂産業〉が管理する里山の範囲が広がってきています。きっかけは、近くの地主さんから『うちの土地も保全してほしい』とお願いされたこと。雑木林がきれいになっていくのを見て、喜んでくれる方が多いですね。今では、地域の子供たちが遠足で来村してくれたり、学生の環境教育の場になったりしています。また、年に2回ほど『ごみゼロ運動』という名前で地域のごみ拾いを行なっていますが、地元の人たちにもボランティアで参加していただいています。これからも、地域の方々と〈石坂産業〉が共生していけたらいいなと思っています」(石坂さん)
再資源化の取り組みと里山運営で世界中から注目を集めている〈石坂産業〉。最後に、5年先、10年先の展望について聞いてみました。
「これからも産業廃棄物の再資源化技術を高めると同時に、プラントも含めた地域単位での循環型モデルを色々な国と地域で展開していきたいです。できる限りその地域の中で物事を循環させていくことが、自然の再生や文化の継承、暮らしの豊かさにもつながると信じています。日本だけでなく、海外の企業や学生との交流も深めながら、『循環』や『Zero Waste Design』という概念を広めていきたいです。」(石坂さん)
〈石坂産業株式会社〉
ごみをごみにしない社会「Zero Waste Design」をビジョンに掲げ、埼玉県三芳町で、産業廃棄物の再資源化・環境教育活動に取り組む。
〈三富今昔村〉
「自然と文化と人々を、ふたたびつなぐ。」がテーマの環境教育フィールド。
住所:埼玉県入間郡三芳町上富1589-2
TEL : 049-259-6565
開村時間: 10:00-17:00
休村日:火曜日(GW、夏季、年末年始他などにより変動あり)
【編集後記】
不要なものを「ごみ」として廃棄すればどこか「処理できた、終わりだ」というような気分になれますが、実際には何かしらの「その先」が存在します。プラントで様々なごみが集められ砕かれ分別され再生される様子からそんな当たり前のことを痛感し、自分が捨てるごみや身の回りにある再生素材に対して「どうなっていくのか」「どうやってできたのか」をもっと想像できるようになりたいと感じるようになりました。再生や循環がさらにスムーズな形で実現するためには、使う人や作る人が関心と配慮を広げることがもっともっと必要なのではないかと思います。
(未来定番研究所 渡邉)
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