未来定番サロンレポート
2025.02.07
再生する
持続可能な社会を目指す世の中で、「リジェネーション」などの再生の概念が注目を集めています。それは、現状維持や復活という意味を超えた、「今以上を目指す、繰り返し生み出す」再生。そしてさらにその先の再生へと時代が動いている気もします。そこでF.I.N.が注目したのは、自然環境や伝統文化で見てとれる再生されたモノやコト。再生に携わる目利きの活動や価値観に触れ、これからの再生はどんなカタチへ向かい、何をもたらすのかを探究します。
今回ご登場いただくのは、2018年に結成したプロダクトデザインユニット〈goyemon(ごゑもん)〉の大西藍さんと武内賢太さん。「日本の伝統や魅力ある製品を、若い世代や世界の方々に知ってもらいたい」と、日本の伝統製品にデザインと最新技術をかけ合わせてさまざまなプロダクトを生み出しています。ただ現代風にアップデートするのではなく、職人の技術や伝統に敬意を払いながら、ものづくりと対峙している〈goyemon〉の2人に、伝統製品を再生することの魅力や難しさ、今再生に必要なことなどを伺います。
(文:船橋麻貴/写真:嶋崎征弘)
大西藍さん(おおにし・あい)
goyemon Inc. CEO、クリエイティブディレクター。
1993年生まれ。東京都立工芸高校マシンクラフト科卒業後、日本大学芸術学部デザイン学科へ進学。卒業後は家業であるデザイン企画会社で企画・製造・販売に携わる。
武内賢太さん(たけうち・けんた)
goyemon Inc. COO、コンセプター。
1993年生まれ。東京都立工芸高校マシンクラフト科を卒業後、東京工芸大学芸術学部へ進学。卒業後はコイズミ照明株式会社 商品部にて、企画・デザインに携わる。
親友がビジネスパートナーに。〈goyemon〉の夜明け
F.I.N.編集部
高校時代に出会って親友となり、今ではビジネスパートナーでもある2人。そもそもものづくりに興味を持ったきっかけは何でしょうか?
大西さん
両親がクリエイティブな仕事をしていて、ものづくりが身近な存在だったんです。そういう環境で育ったこともあってか、僕自身も創作が得意でした。工具を触らせてもらったり、遊びでぬいぐるみを作ったりして。何かを作ることが当たり前だったし、作ったら周りが喜んでくれるから、幼少期からものづくりが好きでした。
武内さん
僕の場合、クリエイティブな家ではなかったんですけど、幼少期から絵を描いたり、工作をしたりすることが好きでしたね。特に漫画を描くのが好きで、周りに見せると「続きを描いて」なんて言われたりして、それがすごくうれしかった。そう考えると、ものづくりの萌芽は藍ちゃん(大西さん)と一緒なんだね(笑)。
F.I.N.編集部
そんな2人が東京都立工芸高校マシンクラフト科で出会うわけですね。
武内さん
はい。マシンクラフト科は、自分でデザインを起こして、機械を使って形にしていく学科です。僕としては今のものづくりの根源にもなっているので、すごくいい選択だったなって。
大西さん
そうそう。僕は他の学科に落ちてしまって、マシンクラフト科に行くことになったんだけど(笑)、グラフィックも金属加工も学べたから結果的に最良の選択でした。
F.I.N.編集部
高校卒業後は別々の大学に進学し、武内さんは照明を作る会社で企画・デザイン、大西さんは家業のデザイン企画会社で企画・製造・販売をされます。どのように〈goyemon〉を始動することになったのですか?
武内さん
別々の道に進みはしましたが、学生になっても社会人になっても、ずっと連絡を取り合っていたんです。〈Apple〉の新製品について話したり、お互いが好きそうなデザインを見つけたら共有したりして。一緒に会社を立ち上げるとは思ってなかったんですけど、藍ちゃんは考えていたらしいんですよ。
大西さん
両親が会社をやっていたこともあって、僕は高校時代からビジネスパートナーになれたらいいなと思っていました。お互い感性が近いし、僕とは違って目上の人からもかわいがられるような人柄もいいなって。それで「一緒に何かやろうよ」って声をかけたんです。
武内さん
ずっと仲良しだったし、同じようなものに興味があったから、〈goyemon〉の結成はすごく必然的でしたね。それぞれの仕事が終わった後にあれこれ話したりして、最初は副業みたいな感じでスタートしたんです。
先人たちの知恵と技術を、現代に取り入れるために
F.I.N.編集部
日本の伝統に着目したのはなぜですか?
大西さん
〈goyemon〉を結成した2018年ごろ、クラウドファンディングが好きでよく見ていたんです。当時、僕たちはデザインの賞を獲ったこともなかったですし、プロダクトをつくるにもリスクが少なく始められるクラファンを活用したいとも考えていて。そこで話題になっていたのが、日本の伝統製品だったんです。
武内さん
それで伝統製品を調べてみたら、江戸時代から形が変わっていないものが多いなって。だけど、それには必ず理由があることがわかったんです。機能も色も含めて、その時代の暮らしに合わせた形になっているんですよね。機能美も兼ね備えていて、まさに生活に根ざしたデザインというか。
大西さん
この生活に根ざしたデザインのあり方を受け継ぎつつも、現代の形に落とし込めたらと思いました。例えば、「雪駄」にスニーカーをかけ合わせた僕たちのファーストプロダクト「unda-雲駄-」。実は雪駄って、スニーカーと違って「左右」がないんですよ。左右を入れ替えて履けば、靴底の減りに偏りを出さずに長く使えるという、先人たちの知恵が詰まったプロダクトなんです。機能として素晴らしいですし、僕たち世代からしたら新しくも感じました。そういう意匠に僕たちが好きなスニーカーをかけ合わせることで、現代の生活にもっとフィットするだろうし、今まで伝統製品と関わりがなかった若い世代の人たちとの接点を作れるかもしれないって。
武内さん
それで企画書を作って、職人さんの元に持って相談に行ったんです。いろいろな雪駄をサンプリングして気づいたのは、男性用の雪駄とは違って、女性用の雪駄はクッション性があるということ。スニーカー好きな僕たちからしたら、この創意工夫がすごくいいなって。だって雪駄が履かれていた時代と違って現代の地面は硬いアスファルトが主流だから、そのままのソールでは足に負担がかかるじゃないですか。だから、柔らかいスニーカーソールを組み合わせたり、ソールにエアークッションを入れたりして、アスファルトの地面でも歩きやすい仕様にしました。
F.I.N.編集部
伝統製品をアップデートする際、大切にしていることはありますか?
大西さん
これまでの歴史や文化を壊さないこともそうですが、なかでも大切にしているのは、職人さんへの敬意を忘れないことですね。「unda-雲駄-」で言うと、雪駄の天板とソールの間にタグを入れることでスニーカーらしさを出していますが、これをすることで職人さんの工数と手間が増えてしまうんです。だから、タグはソールにあらかじめつけることで工数と手間が増えないようにしています。
武内さん
日本の伝統製品をアップデートするには、デザインや最新技術の力も大切ですが、やっぱり職人さんの匠の技が必要不可欠です。後継者不足や先細りといわれる伝統製品の世界で、職人さんの技術をこの先も残していきたい。実際、僕たちは現場に何度もお邪魔し、その匠の技に圧倒され、感銘を受け続けています。そういう技術を残し、守っていくためにも、職人さんたちが大切に引き継いできた作り方自体は変えたくない。だから、僕たちがそこに合わせていくことで、職人さんたちの手間を限りなく少なくし、生産効率を上げられる方法を常に模索しています。
雪駄×スニーカーの「unda-雲駄-」。今までにないデザインと機能性が評判を呼び、人気アパレルブランドとも多くコラボしている
伝統製品のある暮らしを醸成することが使命
F.I.N.編集部
2人は伝統製品をアップデートしてきましたが、職人さんたちからはどんな反応がありましたか?
大西さん
クッション性を取り入れた「unda-雲駄-」が広がったことで、伝統的な雪駄がめちゃくちゃ売れるようになったと職人さんから聞きました。そう言っていただけることは、やっぱりうれしいですよね。伝統製品をアップデートすることには賛否両論ありますが、業界の活性化に少しは貢献できているんだなって。
武内さん
そういう循環が作れたこと、本当にうれしいよね。あとは「雪駄って何?」というくらいの認識だった若い世代の人たちが、僕らのプロダクトをきっかけに他の伝統製品に興味を持ってくれている。伝統製品の魅力を知るきっかけをつくること、それこそが僕たちの使命だなと改めて感じています。
F.I.N.編集部
伝統製品の再生や活性化をするため、この先は何が必要だと思いますか?
武内さん
デザインを整えたり、加えたりするだけでは、いつか限界が来ると思います。大切にしていくべきは、いかに現代の暮らしに合うようにアップデートするかじゃないかと。「unda-雲駄-」の後にリリースしたプロダクトも、そういうことを大切にしています。切子グラスとダブルウォールグラスを融合させた「Fuwan-浮碗-」は電子レンジで使えたり、セラミック素材の刺身専用包丁「matou-磨刀-」はメンテナンスフリーだったり、ソーラーLEDを使った提灯「ANCOH-庵光-」は折りたためて調光ができたり。今の暮らしに取り入れやすいアイデアや工夫を凝らすことで、伝統製品との距離を縮めることができると思います。
大西さん
もちろん、伝統製品の中でも変える必要がないくらい美しいものもたくさんあります。そういう良さは残しながら別の視点で見つめることができたら、伝統製品のいいところが新たに見つかるかもしれない。そうやっていろいろな角度から伝統製品に光を当て続ければ、若い世代や世界の人たちにも広がっていく気がします。
セカンドプロダクト「Fuwan-浮碗-」。ダブルウォールグラスになっているため、保温・保冷効果があり、結露もしにくい
新鮮な切れ味が続く刺身包丁「matou-磨刀-」。和包丁の魅力はそのままに、セラミック特有の高い機能をプラス
コードレスや防滴を兼ね備えた「ANCOH-庵光-」。アウトドアシーンでも使いやすい
F.I.N.編集部
今回お話を伺って、2人は伝統製品も人々の価値観も再生していると改めて感じました。そんな2人は、5年先どんなことを再生しているでしょうか?
武内さん
これまでテクノロジーの力に希望を見出してきたので、やっぱりそれで新たな何かを創造していたいですね。今一番興味があるのは宇宙。月や火星に〈goyemon〉のオフィスや店舗を作って、そこで伝統製品を再構築してみたいですね。
大西さん
めっちゃ大きい夢だけど、宇宙開発って面白くていいね。そもそも僕たちはスピード感があって、世界の能力が集まるテクノロジーが好きだしね。
僕はそうだな……、これからも新しい常識を作っていきたいですね。今まで変える必要がないとされていたもの、例えば傘やゴミ箱だってもっと現代の生活に合うようにアップデートできるかもしれない。そういう目線を大切に、これからもものづくりに真摯に向き合っていきたいです。
2025年1月、社名を〈NEWBASIC〉から、ユニット名とブランド名でもある〈goyemon〉に変更。〈goyemon〉のプロダクトを世界のスタンダードにすることを決意した、2人の覚悟の表れともいえそうだ
〈goyemon SHIBUYA〉
住所:東京都渋谷区東1-1-36
営業時間:火〜金曜日14:00-19:00、土・日曜日12:00-19:00
定休日:月曜日
【編集後記】
渋谷にあるgoyemonさんのお店は入口がゆったりとくだり坂になっていて、大きなガラスの向こうに中をすっかり見ることができます。空間も色彩も静謐で、でもプロダクトは見目も機能も美しくかつとことんアツい!すっかりすべてに魅了されてしまいました。今回、雪駄に左右がないことを初めて知りました。お話を聞きながら大西さんと武内さんは雪駄のように、どちらが右にも左にもなり自由自在に入れ替わって歩き続けることができる、まさに「unda」そのものに思えました。今後はどんな日本の文化と技術をフィーチャーし再生させていくのか、活動が楽しみで目が離せない2人です。
(未来定番研究所 内野)
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