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2024.12.13
未来定番サロンレポート
秋の夜長を感じる2024年11月13日(水)。会場となる谷中の古民家に光を灯しながら38回目の「未来定番サロン」が開催されました。未来定番サロンとは、未来のくらしのヒントやタネを、ゲストや参加者の皆さんと一緒に考え、意見交換をする取り組みです。
今回のテーマは「デザイン視点で見る、幸せなサステナブル・キャピタリズム」。サステナブル・キャピタリズムとは、文化、経済、社会貢献の3つの軸を持続的に循環させながら社会課題の解決を目指す、新しい資本主義の概念のこと。実際にその取り組みを行なっている岩田きよらさん、守田篤史さんをゲストに、横石崇さんをファシリテーターにお迎えし、サステナブル・キャピタリズムを実現するためには何が必要か、参加者と一緒に考えました。
(文:花島亜未/写真:西あかり)
ゲスト:岩田きよら(いわた・きよら)さん
上野の森美術館での「長坂真護展」に足を運んだ事をきっかけに、貧困問題に対しての関心が高まり、国際NGO団体のサポートを経験。2023年からは環境問題も同時に解決していくため、自ら長坂の活動に参画。その後、〈MAGO MOTORS JAPAN〉に入社。現在は主にリサイクル事業、農業事業に従事している。
ゲスト:守田篤史(もりた・あつし)さん
〈Paper Parade〉の共同代表、クリエイティブディレクター。「紙や印刷の新しい価値を生み出す」をテーマに、アートディレクターとプリンティングディレクターの2つの視点からサーキュラープロジェクトをプロデュースするなど、サステナブルな領域のデザインも提案している。国内外の受賞歴多数。
モデレーター:横石崇(よこいし・たかし)さん
〈&Co.〉代表取締役。多摩美術大学卒業後、 2016 年に〈&Co.〉を設立。ブランド開発や組織開発、社会変革を手がけるプロジェクトプロデューサー。渋谷区の起業家育成機関「渋谷スタートアップ大学(SSU)」、渋谷ヒカリエにてシェア型書店「渋谷◯◯書店」などをプロデュース。著作に『これからの僕らの働き方』(早川書房)、『自己紹介2.0』(KADOKAWA)など、執筆連載多数。
ゲストの2人が実践する、サステナブル・キャピタリズムとは。
今回の未来定番サロンは、鼎談形式でスタート。
横石さん
こんなにたくさんの方が関心を寄せてくださっていることに驚きました。サステナブルというテーマって、広まっているように見えて、実際にやってみよう!というプレイヤーが少ない、内容が伝わりづらいという課題があると思います。ここでの会話を立体的にしていくためにも、参加いただく皆さんの質問も重要です。気になることはどんどん聞いていただけるとうれしいです。
参加者からの質問も随時募りながら、まずはゲストの岩田きよらさん、守田篤史さんがそれぞれ実践する取り組みについてお話しいただきました。
横石さん
岩田さんはアフリカのガーナを拠点に、会社代表でありアーティストの長坂真護さんの電子廃材を使ったアート制作のサポートやリサイクル事業を行なっていますよね。そもそも、なぜ長坂さんの会社に入社することになったのでしょうか?
岩田さん
きっかけは長坂の個展で、普段私たちが使っている家電などの廃材を使った作品を見たことです。世界最大級の「電子機器の墓場」といわれているガーナのごみ問題についてもっと知りたくなったんです。
横石さん
多くの人が、アーティストの作品に感動しても、その会社に入ろうとまでのアクションには、なかなか結びつかないですよね。
岩田さん
寄付金を集める仕事に携わっていた時に、お金を寄付するだけで本質的な課題解決になっているのかと疑問がありました。そのタイミングで、課題解決に繋がっている長坂の取り組みを知り、私もこれを仕事にしたいと思ったんです。
横石さん
寄付ではない形の社会貢献、環境へのアプローチだったんですね。長坂さんの肩書きが「代表取締役美術家」なのも面白いです。
岩田さん
実際、作品を生み出すアーティストであり、経営者でもあるので、どちらの視点も鋭いですよ。電子廃材を使ったアートに付加価値をつけ、売れれば売れるほど、現地のごみは減り、課題を世の中に伝えることができる。でも、現地の人がちゃんとお金を稼げる仕組みをつくらなければ、持続可能な社会になりません。そこで、アート作品の売上で現地に粉砕機を導入しました。リサイクル事業を立ち上げ、廃棄物の回収、粉砕など彼らにクリーンな労働環境を提供しています。最近では、先進国の寄付過多で、大量廃棄されているアパレル製品を、炭化装置を導入し、1/200に圧縮しました。さらにそこから、カーボンを生成して、人工ダイヤモンドを作ることにも成功しました。
守田さん
素晴らしいですよね。思いつく人はいるかもしれないけど、実践できる人は少ない。「ごみも磨けば輝く」ということを証明しているのもかっこいいです。
横石さん
ダイヤの原石を生み出している、という点では守田さんも同じだと思います。守田さんはデザイナーでもありますが、持続可能な仕組みづくりも行っていますよね。
守田さん
そうですね、僕がプロデュースし、大丸有エリアマネジメント協会(リガーレ)と共同で設立したアップサイクルファッションブランド〈Ligaretta(リガレッタ)〉は、「排気削減と素材循環で街の物語を紡ぐ」ことをテーマにしています。街路灯のフラッグを制作している時、フラッグは使い終わったら捨てられていることを知り、街から廃棄されるものを、街の物語が染み込んだ素材として生まれ変わらせることができないかと考えたんです。フラッグ広告にかかる知的財産権の問題を解決しつつ、服のパターンにも工夫を凝らすことで、布のロスを10%におさえた服のデザインを実現させました。
横石さん
やはりここでも、デザインの視点から考えていますね。
守田さん
課題解決につながる仕組みをデザインするところまではスピード感をもって展開できました。その後、プロジェクトとして利益を出し持続させていくことはこれから丁寧に向き合わないといけない課題です。ただブランドを立ち上げるだけではなく、経済的にも持続、定着させていく必要があります。だから、僕は「サーキュラーデザイン」の視点から、プロダクトに高付加価値をつけることで、作り手の想いがちゃんと伝わることを大切にしています。ガーナにアパレルごみがあるように、アップサイクルの服を作っても捨てられてしまっては意味がない。だから、街起点のファッションブランドをつくることで、街のコミュニティ形成に寄与し、それをきっかけに街を訪れる人が増えるといういい循環を目指しています。
必要としてくれる人がいて、初めて価値が生まれる。
アプローチこそ違いますが、扱う課題や目指す未来は共通している岩田さんと守田さん。この話を聞いたイベント参加者から、早速たくさんの質問が届きました。
イベント参加者
ファッションアイテムに付加価値をつけたいが、ハイブランドのように歴史やブランド力に追いつくには時間がかかると思います。どうすればいいのでしょうか?
守田さん
ハイブランドが築きあげてきた歴史や創り上げてきた価値と、対等になることは正直難しいです。そこではなく、いかに自分ごととして捉えてもらえるストーリーを提案できるかが大切だと思います。例えば、知らない人が作ったおにぎりと、母親が作ったおにぎり。どちらに魅力を感じるか。コンセプトや背景、社会課題からストーリーを紡いであげることが付加価値へとつながるのではないでしょうか。
横石さん
なるほど。たしかにハイブランドは歴史というヘリテージを土俵にしているところが多いですが、その土俵では戦わないようにするためにまた違うアプローチをするということですね。
岩田さん
私たちもストーリーで売るというのはキーワードになっています。このプロダクトを使うと社会がどう変わるのかをきちんと伝えると、共感して参加してくださる企業が多いです。いいものを作っても、必要としてくれる人がいないと意味がないですから。最近は、ピンポイントでコアな層に刺さると持続しやすいと感じています。
イベント参加者
付加価値について質問です。長坂さんのアートは原価の2200倍にもなっていましたが、どうしてこの値段になったと思いますか?
岩田さん
それについて長坂自身は、ガーナでマイナスに捉えられていたスラム街のごみを、先進国に持っていくことで価値にしたと話しています。秋葉原の電子廃材から作った、と言われたらそこまでの価値はつかないと思うんです。
守田さん
そこに労働環境を整えるという、経済を循環させる仕組みまでつくったのが功績ですよね。廃棄循環だけでなくセットで労働環境に目を向けることも大きな意味があると思います。
儲けを必要としないのではなく、循環させていくことが幸せへの道。
経済、文化、社会貢献の循環からなる、サステナブル・キャピタリズム。それに関わる人にとっては3つのバランスの舵取りをしながら、多くの人が気持ちよく賛同できるきっかけ作りが、これからも大切になってくるといいます。
守田さん
なかには「サステナビリティーと掲げているなら、儲けは必要ないのでは」という声もよく聞きます。それだと、そもそも続けることができず、協力してくれた人との関係も途切れてしまう。僕らは、持続可能的であるためには、儲け、キャピタルも大事であるということを伝えていかなければと思っています。
岩田さん
私たちも長坂のアート作品に甘えず、さまざまな事業を通じて会社のキャピタルが循環するように頑張らなくてはと試行錯誤しているところです。とはいえ、自分たちの活動を話す機会もなかったので、今回の未来定番サロンはとても貴重な機会になりました。私たちの取り組みを応用して、もっと多くの人がサステナブル・キャピタリズムに取り組んでくれたらうれしいなと思います。
横石さん
そうですね。まさに未来の定番について、ゲストのおふたりから強いメッセージをもらうことができました。いきなりダイヤモンドづくりを目指すのは難しいですが、少しでも今日の話をきっかけに行動する人が増えるといいですよね。今回ご参加くださった方々も、今後何かに繋げてくださると信じています。
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