谷中日記
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2025.01.22
未来定番サロンレポート
2024年も残りわずかとなり、だんだんと冬の寒さを感じるようになった12月1日(日)。一足早くお正月の装いとなった未来定番研究所で39回目の「未来定番サロン」が開催されました。未来定番サロンとは、未来のくらしのヒントやタネを、ゲストや参加者の皆さんと一緒に考え、意見交換をする取り組みです。
今回のテーマは「日本の伝統文化をおいしく&美しく学ぶ、お正月のおせちとしつらえ」。日本のお正月の楽しみといえば「おせち」ですが、そのルーツはなんと弥生時代まで遡るといいます。弥生から始まり、奈良〜平安、江戸、そして令和へ。時を経てもなお受け継がれるもの、そして時代とともに変化するもの。“縁起が良い“だけではない「おせち」の秘密を知るトークに加え、お正月の食卓に欠かせない祝箸の箸袋を作るワークショップも開催されました。
(文:花島亜未/写真:西あかり)
右から、
柴田智(しばた・さとる)さん
〈大丸松坂屋百貨店〉本社営業本部MDコンテンツ開発第2部ディベロッパー&エディター。レストラン・喫茶、おせち料理を担当。特におせち料理は、商品開発から運営全般の管理まで行う。
片平一雄(かたひら・かずお)さん
〈愛食〉(あいしょく)代表取締役。元 大丸・松坂屋の食品担当バイヤーで、おせちを知り尽くすスペシャリスト。
幡中裕樹(はたなか・ゆうき)さん、中村真紀子(なかむら・まきこ)さん
〈大丸松坂屋百貨店〉本社営業企画部VMD担当。商品のディスプレイや内装などリアルな店舗空間を演出するプロフェッショナル。今回は、ワークショップの指導のほか会場の装飾を担当。
神へのお供物から、縁起物のご馳走へ。ルーツから紐解くおせちの所以とは?
新年を迎えたハレの日にいただく、定番料理のおせち。今では、9月中旬ごろから徐々に百貨店やホテル、スーパーなどでその名を目にする機会も増えてきますが……。
柴田さん
今では日本の食文化を代表する料理ですが、そのルーツや縁起の意味を知らずに召しあがっていらっしゃる方も、意外と多いのではないでしょうか。そこで今回の未来定番サロンを通じて、参加者の皆さんと改めておせちについて学び、新年を気持ちよく迎えられるお手伝いができたらと思います。
「大丸・松坂屋が大切にしている“伝えること“を今日のイベントに生かせたら」と参加者に語る柴田さん。
おせちの歴史は古く、諸説ありますが中国から稲作が伝わった弥生時代まで遡るといいます。季節の変わり目とする「節気(せっき)」という暦が日本にも広まり、そこから生まれた、食料の収穫を神様に感謝してお供えをする「節供(せちく)」という風習が起源となっているそう。
柴田さん
さらに奈良〜平安時代になると、朝廷では正月を含む5つの季節の節目「節日(せちにち)」に、邪気を払い健康や長寿を願う「五節会(ごせちえ)」の儀式を行うようになります。その際に振る舞われる特別な料理を「御節供(おせちく)」と呼んでいました。
朝廷や幕府での特別な料理から、お正月のめでたい料理として庶民に親しまれるようになったのは江戸時代になってからのこと。五節会が大衆の間でも広まり、江戸中期頃までは盆状の器「硯蓋」を用いてお膳に乗せて、その後は酒宴で酒の肴を入れて使われていた「重箱」に詰められるようになりました。
この頃から、1年の始まりであるお正月に、海や山の幸などのごちそうを詰めることで「幸せが重なるように」と願いを込めていたようです。数の子や田作り、煮豆、かまぼこなどだんだんとおせちの定番料理が広まる一方で、 「おせち」という名前が広がったのは第二次世界大戦後。料理教室や女学校などでおせち料理の調理が教えられたり、婦人向け雑誌でのおせち料理特集などをきっかけに定着していったといわれています。昭和初期以降は、百貨店で販売されたのを機に、現在のようなカタログから選んで買うおせちのニーズがとても高まっていきました。
庶民に広がってからも、まだおせちではなく「食積(くいつみ)」「蓬莱(ほうらい)」と呼ばれていたそう。参加者も真剣に耳を傾けます。
現代のライフスタイルに合わせて、おせち事情にも変化が。
「おせちのルーツがこんなに奥深かったとは!」と、参加者からも驚きの声があがるなか、令和のおせちの新境地について、参加者は実際に試食をしながら、柴田さんがさらに解説をしてくださいました。
今回試食したのは、料理家・平野由希子さん監修のワインに合う『おつまみおせち』。カルダモンやターメリックを入れた田作りなど、スパイスが効いたおせちに参加者も舌鼓を打っていました。
柴田さん
おせちはもともと日持ちするように作られているものが多く、濃い味付けと少し冷たい料理の印象もありますよね。しかし、近年は皆さんにお配りしたようなカップ式の小分けタイプもあり、一部レンジで温められる料理も増えてきました。冷凍技術の進化によってレンジアップ商品を入れることができ、料理の香りもプラスされて、さらに美味しく食べられるように工夫がされています。また、和の要素が強い分、お子さんに好まれづらいという面もありましたが、世代を越えて皆が集まって楽しく食べられるように、洋風やフレンチなど見た目が華やかなものも多く展開しています。大丸・松坂屋でも、日本酒やワインに合う『おつまみおせち』、肉づくしのおせちなど、ハレの日らしく年々ラインアップが豪華になっていますね。
大丸・松坂屋のおせちで6年連続人気ナンバーワンは、京都の料理研究家・大原千鶴さんが監修する正統派かつ京風仕立ての『和風 三段 口福おせち』だそう。
古より続くおせちのルーツから令和のトレンドまで振り返ってきましたが、改めて大丸・松坂屋が百貨店としてその歴史にどう寄り添ってきたのかも気になるところ。そこで、入社から35年間おせちの担当を務めたという片平さんに、当時のエピソードも踏まえながらお話を伺いました。
片平さん
先ほども少しお話がありましたが、まず昭和初期頃から百貨店がおせちの販売を始めたというのは、ライフスタイルに合わせた日本の食文化を良い形に変化させた出来事です。昭和から平成にかけての時代は、年末の男性陣はお酒とおつまみを嗜んでうとうと。一方、主婦である女性陣は、おせち料理の準備を自分が眠る時間を割いて作っていました。ご家族や親戚が大勢集まる年末年始だからこそ、女性の方だけがしんどい思いをしないで、一緒にお正月を楽しんでいただけるようにしたいという想いがあり、大丸・松坂屋では、それまで料亭など高級なものが多かったところに、かなり早くからファミリー層も手軽に選んでいただける商品も増やしていきました。大丸はおせちの販売システムの開発が同業他社より進んでいる、という話を聞いて、後々合併することになる松坂屋さんが私の元に話を聞きにこられたこともありました。おつまみおせちや、肉づくしのおせちなどメニューを特化したおせちも大丸・松坂屋が先駆けて販売したシリーズです。
写真は、いろんなお酒と合わせて楽しめる『おつまみおせち』。酒場詩人の吉田類さんと実際に柴田さんがお酒を酌み交わしながら試食を重ね、一品一品丁寧に献立を決めていったというエピソードも。
時代のニーズに応えながらも、日本の食文化を大切にする想いを受け取った参加者の方々。「これまではカタログだけを見て決めることが多かったので、その道のプロから直接お話を聞けて良かった。さっそくお正月に家族や親戚へ今日学んだことを伝えたい」と話していました。
お正月のしつらえを感じながら、お正月に欠かせない祝箸の箸袋も制作。
おせちについて学んだ次は、大丸・松坂屋のディスプレイや内装などの空間演出を担当する幡中さん、中村さんによるワークショップが行われました。百貨店では珍しい装飾専門のチームで、空間の演出を手がけている幡中さんは、当日の会場にもお正月のしつらえを施してくれました。
幡中さん
百貨店では、クリスマスを過ぎると迎春のディスプレイが始まります。おせちと同じように縁起の良いといわれるしめ飾りや餅花(柳の枝にお餅をつけて飾ったもの)など、象徴的な正月飾りを飾っていきます。
その中でも、自宅で実践できる簡単なお正月のしつらえとして提案してくれたのが、玄関に設置する松飾りです。
幡中さん
通常の門松は高価格で大きいので飾りにくいですが、会場の入り口にも飾った「根引松」はお正月に歳神様をお迎えする依代として旧家や社寺などで用いられています。根がついた松を飾ることで、その土地に根付いて歓迎する、成長するという意味があるそうです。
会場の入口に飾られた「根引松」。門松は29日(二重の苦)以外で飾る、という習わしがあるそう。
そして祝箸の箸袋を作るワークショップでは、中村さんが用意した和紙や千代紙、水引き、南天などが並べられ、一気にお正月らしい彩りに。「選ぶ紙の柄や質感、飾りによって、アイデアも広がりますよ」と中村さん。参加者の方々にアドバイスを重ねながら、オリジナル箸袋を作っていきました。
中村さん
お正月などハレの日に用いる祝箸は、柳の木から作られています。長さは末広がりの八寸(24cm)。箸の両端が細く、真ん中が太くなるように削られている両口箸は、人間と神様が片側ずつ使って同じ食事をする、といわれています。なので、使う際には取り分け用の箸も用意してくださいね。
祝箸にまつわるお話を聞きながら、無事にワークショップを終えた参加者の皆さん。「自分の子供にも教えてあげたい」「これから海外の友人と会うので、日本の手土産として紹介します」など、貴重な体験を通して喜ぶ姿が多く見られました。
現在、おせちはオンラインでも手軽に購入できるようになりましたが、今回、おせちの商品開発や歴史、また店頭の装飾に関する取り組みについて、参加者の皆様に直接お話しすることができ、私たちにとっても貴重な機会となりました。百貨店が日本の食文化やしつらえを大切にし、それを伝えていくことで、さらに未来へと続いていくことを願っています。
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