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2025.02.21

未来定番サロンレポート

第40回| 笑う門には福来る!「落語と歌会」で楽しく日本の伝統文化を学ぶ。

新しい年が始まり、世の中が少しずつ動き出した2025年1月11日(土)、40回目の「未来定番サロン」が開催されました。未来定番サロンは未来の暮らしのヒントやタネを、ゲストと参加者の皆さんが一緒に考え、意見交換する取り組みの場です。

 

今年最初の未来定番サロンレポートは、「笑う門には福来る!」ということで、「日本の伝統文化を楽しく学ぶ」をテーマに企画された「落語と歌会」をレポートします。落語家の柳家小はださんと芸人で歌人の鈴木ジェロニモさんをお招きし、新年にふさわしい縁起噺(えんぎばなし)を一席と、短歌を詠み、短冊に書く歌会を開催しました。予想通り、会場は笑いに包まれて……?

 

(文:大芦実穂/写真:西あかり)

Profile

柳家小はださん(やなぎや・こはだ)

落語家。1989年、東京都生まれ。2015年に柳家はん治師匠に入門、2020年二ツ目昇進。末広亭などで活躍中。趣味が高じて目黒で〈コハダコーヒー〉を経営。

 

鈴木ジェロニモさん(すずき・ジェロニモ)

お笑い芸人、歌人。1994年、栃木県生まれ。2022年よりピン芸人として活動し、特技のボイスパーカッションを生かしたネタで注目される。2023年には「R-1グランプリ」準決勝に進出。2024年11月に初の著書『水道水の味を説明する』を上梓。

父と子の心温まる演目を披露

松の内の谷中の古民家の居間は、参加者の皆さんで満席。ゲストの登場をいまかいまかと待ちわびます。出囃子が鳴り、高座に登場したのは柳家小はださん。今回の未来定番サロンは、縁起噺からスタートです。

縁起噺とは、その名の通り、縁起のいいお話のこと。小はださん曰く、そもそも落語とは縁起をかつぐものだそうですが、その中でも今回は『初天神』というお正月によく演じられる演目を披露してくださいました。

あらすじ

正月の初天神の日、、男が天満宮に参拝に行こうとすると、息子の金坊を一緒に連れて行って欲しいと女房に頼まれる。男は「あれ買って、これ買って」とせがまれるから嫌だと断ると、そこへちょうど金坊が帰ってきて、出かけることを知られてしまう。「今日はおとっつぁんに何か買ってと言わないから」と金坊。仕方なく金坊も連れて行くことになるのだが……。

縁日でたくさんの屋台が並ぶなかを歩く2人。「おとっつぁん、あたいあれ買ってこれ買ってと言わなくて偉いでしょ」と金坊。「子供が大人に気を遣ってるんだから、何か買ってよ」と続ける。そこで、安く済む飴玉なら……と買い与えるも、男が足元の水溜りに気付かない金坊の頭を「気をつけろ」と叩いたせいで、金坊は飴玉を落としてしまった。しかし、どこを探しても見つからない。それもそのはず、飴は金坊のお腹の中に落ちたのだという。

 

次は蜜だんごがいいと金坊。「蜜は着物が汚れるからダメだ」と男。しかし、どうしても食べたい金坊。そこで男が先に蜜の部分を舐めてきれいにしてやることにした。

蜜を舐める仕草は、まるで本物のだんごを持っているかのよう。

蜜のないだんごを渡された金坊は、「蜜がついていないだんごなんて嫌だ」とぐずりだす。そこで男はだんご屋に文句を言うことにした。その隙に男はこっそり蜜が入った壺にだんごを浸し、再び蜜のついただんごを金坊に渡す。もちろん店主は話に夢中で気づいていない。

駄々をこねる金坊を演じる。

次は凧がほしいという金坊。大きい凧がほしい金坊だったが、小さい凧を買ってもらうことになった。するとしまいには金坊よりも男の方が凧揚げに夢中になってしまう。そこで金坊が一言。「あーあ、おとっつぁんを連れてくるんじゃなかった」。金坊の方が男よりも一枚上手だった、というお話。

笑いと温かい拍手に包まれて、柳家小はださんの噺は終了。表情や声色、仕草など、目の前にその時代の人々が生き生きと立ち現れてくるようでした。

「味」にまつわる短歌を詠み合う

さて、続いては鈴木ジェロニモさんと歌会の時間。参加者の皆さんには、事前に「味」というお題が出されていました。今日はその発表会です。

2つの円卓を囲むように座り、それぞれが考えてきた短歌をそれぞれ選んだお気に入りの短冊に清書していきます。未来定番研究所自慢の大きな〝みんなの硯〟も登場。柳家小はださんも参加し、「難しいですね」というと、「それぞれのストレスが今、感じられますよね」と鈴木さん。そんなやりとりを聞いて、参加者の皆さんはクスクスと笑いながら、墨汁のいい香りのするなか、楽しく清書を続けていきます。

書いている最中、「皆さん、好きな食べ物と嫌いな食べ物は何ですか?」と鈴木さん。参加者全員が好きな食べ物と嫌いな食べ物を発表することになりました。ちなみに、鈴木さんの苦手な食べ物はパクチー。

 

「パクチーって『穴』を食べてるみたいだなって。香りのせいか、上方向の力が強すぎて、下方向へのベクトルがないんですよ。口の中に穴が開いたみたいな気持ちになって、それがパクチーが嫌いな要因の1つですね。

 

味覚について考えた時に、『苦い』って味がなさすぎることなんじゃないかなって思ったんですよ。『酸っぱい』とか『渋い』は輪郭を描いているにも関わらず、苦いって空白で。だから苦いって味はそもそもないんじゃないかっていうのが、僕が最近提唱している考えなんですけど」と持論を展開。うなずく人もいれば、上を向いてしばし考える人も。

柳家小はださんは、コーヒーやウイスキー、くさやなど、クセのあるものが好きだと話します。一方で嫌いな食べ物は、「冷めた煮浸し」だそう。お弁当などに入っている、冷めた煮浸しが許せないと続けます。

 

他にも、栄養などの観点からじゃがいもが嫌いという方、少量のパクチーならいいけど大量のパクチーは嫌だという方、それぞれ嫌いなものに対する切り口が面白く、大いに盛りあがりました。

鈴木ジェロニモさんが選ぶ、味な一首

さて、皆さん清書が完成したところで、短冊をズラリと並べ、鈴木さんにお気に入りの短歌を1つ選んでいただきます。

「決まりました!」と鈴木さん。選んだ短歌を詠みあげます。

選ばれたのは、「飲み込んで慣れていくのが大人ならわたしこどもでいいよパクチー」という一首。

 

鈴木さんからの選評は、「普段通りの言葉遣いなのでスラスラ読める。それでいてきちんと五七五七七になっています。嫌いなものを食べることって、子供にとって最初の不条理だと思うんです。大人になった今でもパクチーは嫌いなのに、大人としての対応を求められる不条理さを表しているのかなと思いました」。

柳家小はださんが詠んだ、「梅薫り思い起こすは幼き日父にせがんだみたらしの味」という一首は、小はださんがされた先程の噺にちなんだもの。

 

鈴木さんは、「大人になった時に思い出して書いているという状況だと思うんですけど、だんごを食べた時ではなく、梅のにおいをかいで思い出すのというのがいいなと思いました。僕、高校時代よくMr.Childrenの曲を聴いてたんですが、ある曲を聴くと、高校野球の遠征でバスに乗っていたシーンを思い出すんですよ。別のものから記憶が引き出され、その記憶に深くアクセスできるというのを、すごくきれいな言葉でまとめてくれたのかなと思います」と講評。

参加者すべての短歌に鈴木さんが丁寧に解説をくださり、皆さんにとってとても稀少な時間となりました。こうして、終始笑いの絶えなかった40回目の未来定番サロンはお開き。年の始めに、落語と短歌、そして書と、日本の伝統文化を楽しく体験することができた、またとない1日でした。

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