2020.03.25

未来定番サロンレポート

Vol.16 「つつむ」ことは、相手を思う心の表れ

まだまだ寒さが身に沁みる2020年2月12日。東京・谷中にて「未来定番サロン」が開催されました。未来定番サロンは、未来のくらしのヒントや種をゲストと参加者の皆さんと一緒に考え、意見交換する取り組みです。16回目となる今回は「風呂敷文化からひもとく、『つつむ』ことの未来」と題し、風呂敷をテーマに、日本の文化の過去、現在を知り、つつむ文化の未来を考えます。

(撮影:鈴木慎平)

 

ゲストにお迎えしたのは山田悦子さん。京都の風呂敷メーカー山田繊維/むす美の広報を担当しています。現代の生活に合った風呂敷の使い方を提案するワークショップを国内外で開催し、『ふろしきスタイル』(NHK出版)など著書も多数出版されています。サロンが始まる前に、ご自身の活動や今後の展望について話しを聞かせてくれました。

今の時代に必要とされる風呂敷

F.I.N編集部

山田さんが風呂敷を広める活動をはじめたのはなぜですか?

山田さん

実家である山田繊維は京都にある風呂敷のメーカーで、昭和12年に創業しました。今は弟が3代目として家業を継いでいます。前職で日本の良きものが時代とともに失われつつあることを知り危機感を持ちました。同時に風呂敷も同様だと気が付いたのです。先人たちの知恵や心をリスペクトしつつ、今こそ現代のライフスタイルに合った提案が必要だと感じ、手探りながら活動をはじめました。

F.I.N編集部

具体的にはどのような活動をされているのでしょうか。

山田さん

2005年に東京の神宮前にショップをオープンしました。オープン当初からワークショップを開催し、風呂敷の便利さや楽しさを体感してもらえるようにしています。お客さまの声を直接聞ける場所ができたことによって、風呂敷のデザインや素材なども多様になり、ディスプレイ展示も変化しました。

F.I.N編集部

現代の暮らしに合うものに変わっていったのですね。

山田さん

はい。元々風呂敷は、着物に寄り添うアイテムでしたが、私たちは普段洋服で生活しています。そのため、もっとカジュアルに使えるものが必要でした。お客様の意見も取り入れ、カラフルなデザインが登場したり、デザイナーの方々とのコラボレーションを行なったりと、ファッションアイテムとして、雑貨として、インテリアとして、いろんなシーンで使える風呂敷が増えています。

F.I.N編集部

風呂敷が使われなくなったのは、デザインが古くなったというのが一番の原因でしょうか。

山田さん

いいえ、デザインというよりは、生活様式の変化です。風呂敷は日常から冠婚葬祭まで、暮らしの全てを網羅していました。しかしカバン、ビニール袋、紙袋など簡単に使えるものが登場したことによって、風呂敷を日常で使う場面が少なくなってしまいました。そのため、冠婚葬祭など特別な時に使うものというイメージだけが残ってしまったのだと思います。

F.I.N編集部

確かに、風呂敷といえば結婚式やお葬式で使うものだと思っていました。

山田さん

江戸時代の絵巻を見るといろんな人が風呂敷で荷物を持って歩いています。昭和の初期までは、日常生活の必需品でした。

F.I.N編集部

デザインが新しくなり、使いやすくなることで風呂敷を使う人は増えていきますか?

山田さん

もちろんそれも大事ですが、一番は風呂敷の多用さを体験してもらうことが重要だと思います。今日のワークショップでは2種類の結び方を教えます。結び方に複雑なルールがあるという先入観で難しく考えている方が多いのですが、実はこの2つの結びかただけマスターしてしまえば、あとは応用ができます。つつむだけではなく、運ぶことや飾ること、自由に使えるのが風呂敷の魅力です。

F.I.N編集部

実はとても簡単で、気軽に使えるものなのですね。海外でも興味を持っている方はいらっしゃいますか?

山田さん

私たちは2018年からフランスでの展示会に出展しています。最初は海外では「風呂敷」に馴染みがなく、説明にすごく時間がかかる割に手応えは小さいものでした。しかし2018年11月に、フランス・パリで風呂敷の展示イベント「パリ東京文化タンデム2018 FUROSHIKI PARIS」が行われました。風呂敷を通して日本文化を知ってもらおうという企画です。この展示会の影響力が大きかったことと、ヨーロッパはエコ意識も高いことから、この文化が受け入れられたのでしょう。今では「FUROSHIKI」の知名度がとても上がってきています。現地の人の反応も、実際の買い付けの量も変わってきました。

F.I.N編集部

風呂敷の美しさも新鮮に映ったのでしょうね。

山田さん

風呂敷は平面と立体、それぞれの美しさを楽しむことができます。平面で見たときの柄、包んだ時の立体となった形や色柄の出方など、違った2つの美しさが詰まっています。

F.I.N編集部

そして近年日本でも注目されている「エコ」、「サステナブル」の観点からも風呂敷が注目されたのですね。

山田さん

風呂敷を使うことによって、使い捨ての袋を削減することができます。環境に対して、自分たちも何か行動をしなければと思っている人たちの意識を実現するツールともなりえます。このように海外で全く風呂敷を知らなかった人たちが興味を持ってくれたことで、日本の若い人たちにも、風呂敷の良さが今後より伝わっていくと確信することができました。

F.I.N編集部

海外の方や若い方など風呂敷を知らない人たちにとって、風呂敷が新たな定番になっていくかもしれませんね。

山田さん

日本は高度経済成長期やバブルの時代を経て、豊かになりすぎた面もあります。それを見直そうという時期が今、来ているのかもしれません。ショップに足を運んでくれる若い人もたくさんいます。日本の文化を見つめ直すことで、自分たちの自信につながる。風呂敷はそういうアイテムでもあると思います。

F.I.N編集部

風呂敷の未来は明るいと感じます。ありがとうございました。

未来定番サロンのスタート

参加者が次々と集まり、いよいよ未来定番サロンがスタートしました。今回は8名が参加。男性も女性も、風呂敷を使ったことがない方から、毎日使っているというヘビーユーザーまで様々な方が参加しました。まずは自己紹介から始めます。ご夫婦で参加しているお二人は、家庭で風呂敷を取り入れていきたいと話してくれました。風呂敷を持っているけれど使い方がわからないという方、マイ風呂敷を持参して、もっと知識を深めたいという方。風呂敷の利用法や使用頻度は様々でしたが、熱い思いや好奇心がうかがえるイベントのスタートとなりました。

風呂敷の「過去」を学ぶ

第一部では日本で昔から使われてきた風呂敷のルーツや、昔の人々がどのように使っていたかを学びました。風呂敷の歴史は1300年を遡り、奈良の正倉院には、当時の宝物を包んでいた方形の布が現存しています。一方、蒸し風呂の脱衣所の床に敷いて身づくろいをしたり、風呂への行き帰りには衣服を包み運ぶ道具として使われていました。それが「風呂敷」の名称の由来です。日本のつつむ文化は、はるか昔から続いていたことを知りました。また、風呂敷は実は正方形ではないこと、上下左右があること、知っているようで実は知らないことがたくさん。「唐草模様」や「貝合わせ」など日本古来の伝統的な柄とその意味についても学びました。

難しくない、風呂敷の結び方

いよいよ結び方の実践です。基本となる風呂敷の結び方を教わりました。それが「真結び」と「一つ結び」。真結びは一度結べば解けず、解きたいときにはすぐ解けるのが特徴。一つ結びは真結びと併用することで風呂敷の使い方のバリエーションが広がります。実際に風呂敷を使って結び方、解き方を練習しました。参加者同士でアドバイスをしあい、皆さんはすぐにマスターしていました。

第二部では現在の風呂敷の使われ方について学びました。サステナブルという価値観から風呂敷が見直されてきた背景を学びました。エコバックやレジバックとしての使い方はもちろん、非常時にも風呂敷は役に立ちます。怪我をした時の三角巾としての使用法、物を運ぶ時など、あらゆる場面で使用することができるのです。環境の変化を肌で感じる現代では、風呂敷を持っていることで少し安心できるかもしれません。

一人一枚、風呂敷を持ち歩く時代に

第三部では、風呂敷の未来について皆で意見を交換しました。自分のライフスタイルに風呂敷をどのように取り入れるのか、現在の使い方や思いついた使用方法を提案。日頃から風呂敷を使っているという方は、大きい撥水の風呂敷を持ち歩き、突然の雨のときには被ったり、リュックサックに巻いたりしているそうです。旅行が多いという女性は、スーツケースの中の荷物をまとめるのに風呂敷を利用するという、すぐに取り入れられそうな使い方を教えてくれました。ヨガの講師をしている参加者の方からは、ヨガのポーズのサポート器具として風呂敷が使えるのではないかとアイデアの提案も。ヨガマットをつつみ、持ち運ぶのにも風呂敷が活躍します。つつんでいた布をポーズにも活かせたら、一石二鳥です。他にも、買い物した際にレジ袋をもらうことはなく、全て風呂敷に入れて持ち歩いているという方の話も。自由で多用だからこそ、いろんな場面で活躍します。それぞれのライフスタイルに合った使い方ができるのが風呂敷だと感じました。一人一枚風呂敷を持ち歩く未来がくるかもしれない。と参加者の方々は頷いていました。

最後に山田さんは風呂敷の未来について、「つつむという行為は、中身を大切に扱いたい、届ける相手を大切に思うからこそ行うものです。どんなに時代が変わっても、相手を想う人の気持ちは変わらないと思うし、これからは、そんな心の部分が益々大事になってくると思うのです。そんなことを伝えるためにも風呂敷を使ってどんどん発信していきたいと思います。」と語ってくれました。

お土産として、一人一枚風呂敷がプレゼントされました。明日から、さらに風呂敷を楽しもうという気持ちになっていた参加者の方々にとっては嬉しいプレゼントになったことでしょう。

参加者のみなさんの風呂敷への愛や好奇心で、熱気を感じるほどの盛り上がりをみせた未来定番サロンでした。