未来定番サロンレポート
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2022.05.25
日本のしきたり新・定番。<全10回>
日本には、古くから受け継がれてきた「しきたり」が多く存在します。F.I.N.では、そうした伝統を未来に繋ぐべき文化と捉え、各界で活躍している方々にお話を伺いながら、未来のしきたりの文化の在り方を探っていきます。
第2回目は、誰もが知っている「風呂敷」にフォーカスを当てます。お招きしたのは、京都の風呂敷メーカー山田繊維/むす美の広報を担当している山田悦子さん。風呂敷文化の周知のため、国内外でワークショップを開催するなど、精力的に活動されている山田さんに、風呂敷の未来についてお伺いしました。
(文:大芦実穂/イラスト:yonshoku 岡部みの)
風呂敷は、みなさんご存知の通り、ほぼ正方形に近い四角い布で、ものを包む際に使われます。ではなぜ風呂敷で包むかというと、大事なものを守るため。「包」という漢字は、お母さんが体内に宿った我が子を「守る」様子を表した象形文字で、包むという行為自体に中のものを大切に思う気持ちが込められているんですね。
風呂敷のはじまりは古く、奈良時代まで遡ります。当時も貴重な品々を保護保管するための布で、そのまま「つつみ」と呼ばれました。平安時代には、つつみは「古路毛都々美(ころもつつみ)」その後も「ひらづつみ」「つつみ」と名称を変えつつ使われ続けます。一方、もともと「風呂」とは沐浴潔斎を意味し「蒸し風呂」の事。着替えを包み身づくろいの際には床に敷いた布のことを「風呂敷」と呼んでいました。「つつみ」と「風呂敷」は徐々に区別がなくなり、江戸時代中期には四角い布=風呂敷と広く呼ばれるようになりました。身分にかかわらず欠かせない道具だったのです。例えば商人なら、包んで結べば背負って運搬に、さっと広げればその場で市が開けます。昭和40年頃までは行商人が風呂敷を背負っていた記憶がありますね。
2000年代になると、環境問題が活発化し、風呂敷はエコなアイテムとして再び注目されるように。2018年にはフランス・パリで「FUROSHIKI PARIS」が開催され、むす美も特別協力で参加したのですが、フランスではすでにレジ袋が有料化されていたこともあり、人々の風呂敷に対する視線は大変熱いものでした。
これまでの歴史についてお話ししましたが、実は風呂敷のかたち自体はさほど変わっていないんですね。なぜなら、日本人にとってはものを包むためには、現在の正方形こそがベストだから。ただ、最近では、撥水加工の施された布やオーガニックコットン、再生繊維が使われるなど、素材は少しずつ変わってきています。
では5年後、10年後はどうなっていくのかというと、やはりかたちは変わらず、使い方が多様化していくのではないかと思います。例えば、贈り物をする際に、風呂敷で包んでそのままプレゼントすることが一般的になる。ワインボトルや一升瓶を包む場合でも、花やリボンをあしらったように結ぶことができるんですよ。包装紙やビニール袋だと、もらったあとに捨ててしまう方もいるかもしれませんが、風呂敷であればその後もさまざまなシーンで長く使うことができます。店頭にも、商品を風呂敷で包んでくれるサービスがあったらいいですよね。自分で包むのは難しいけれど、包んでもらいたい人はたくさんいると実感しています。
もらったものでも、風呂敷がバッグに1枚入っていれば、ちょっと肌寒い日にはストールのように羽織って防寒にしたり、災害時にはものを運んだり、お隣さんとの間に仕切りを作ってプライベートな空間を確保したり、さまざまな用途に使えます。もちろん、エコバッグにもなりますしね。原点回帰で、大事なものを包んで、大切な人へプレゼントし、その後も使っていただく。誰かを思いやる気持ちとともに、風呂敷も循環していったらうれしいですね。
山田悦子
京都市出身。京都の風呂敷専門メーカー〈山田繊維株式会社〉と、直営のふろしき専門店〈むす美〉の広報を務める。風呂敷の使い方や歴史などを伝えるワークショップや講習会なども積極的に開催。国内にとどまらず、風呂敷の魅力を世界へと発信している。
2022年6月17日(金)〜19日(日)まで、東京〈3331 Arts Chiyoda〉1Fコミュニティスペースにて、「ふろしきSDGs LIFE」を主催。
【編集後記】
奈良時代まで遡る風呂敷の由来、おしゃれでバリエーション豊富なギフトの包みかた、現代的でアーティスティックなデザイン、防災時の活用方法…。風呂敷の底知れない魅力に感激し、取材を終えると同時に、撥水仕様タイプを購入していました。スーパーなどでの買い物時にエコバッグ代わりに使っていますが、形状やサイズ、持ち方に融通が効きとても快適です。風呂敷の認識をアップデートできていなかったことを自省しつつ、今度はこの感動を分かち合いたい相手へ、風呂敷でがんばって素敵に包んだギフトを差し上げようと思います。
(未来定番研究所 中島)
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