2022.12.09

日本のしきたり新・定番。<全10回>

第8回| ゴミにならないお歳暮は、相手への思いやりから。マシンガンズ・滝沢秀一さん。

日本には、古くから受け継がれてきた「しきたり」が多く存在します。F.I.N.では、そうした伝統を未来に繋ぐべき文化と捉え、各界で活躍している方々にお話を伺いながら、未来のしきたりの文化の在り方を探っていきます。

 

第8回目は、12月の季語でもある「お歳暮」について考えます。1年の終わりに、今年の感謝の気持ちを込めて、親戚や会社の上司などに贈るお歳暮。江戸時代頃から始まったと言われる習慣ですが、最近はゴミ問題にも直面している」と話すのは、「ゴミ清掃芸人」として活躍する、お笑いコンビ・マシンガンズの滝沢秀一さん。どうすればもっといいお歳暮文化になるか、新しいアイデアをいただきました。

 

(文:大芦実穂/イラスト:近藤祥子)

僕はお笑い芸人の傍ら、ゴミ清掃員としても働いているのですが、毎年12月から1月にかけて増えてくるのが「お歳暮」のゴミ。なかでも一番驚いたのは、メロン丸ごと3個ですかね。お菓子の包みそのままというのもありましたよ。高級住宅街ではこういうゴミはあまり見かけなくて、実は高級住宅街に続くようなエリアに多い。きっと人付き合いも盛んで、贈り物をいただいたり渡したりという機会が多いんじゃないでしょうか。

 

ではなぜ捨てられてしまうのか。それは当然、贈られた人が受け取っても嬉しくないからですよね。あまり好みじゃないものだったり、量が多かったり。お歳暮を贈る人は、多い人だと10個、20個と贈ると思うので、「めんどくさいから全部これでいいや」ってなっちゃうんじゃないですか。つまり形式としてお歳暮を送っているだけで、相手のことを思っての贈り物にはなっていない。だからゴミになっちゃう。そこで、どうやったら食品ロスが出ないお歳暮のかたちになるか、考えてみました。

直接的なコミュニケーションをとる

何が欲しいかわからないなら直接本人に聞く。シンプルですが、これが一番いい方法だと思います。昔、先輩芸人が言っていたんですが、ある方が毎年お歳暮にボンレスハムを贈ってくれていたそうです。でもハムもそんなにたくさん食べられないので、数年経って「焼酎のほうが嬉しいな」と伝えたらしいです。それからは毎年焼酎を贈ってくれるになったそうです。ただ、ある時相手の方が病気で倒れて、復帰してからは、なんでかまたハムに戻っちゃったそうで……。気まずくて言えないからそのままだって言ってました。やはりお歳暮にはコミュニケーションが大事なんだと感じました。

その人に合った贈り物が選べるシステム

よく女性誌などで、心理テストのようなYes/Noの診断ツールってありますよね。オンライン上で同じようなシステムを展開するのはどうでしょう。例えば、「あなたには子どもがいますか?」といった設問を用意し、家族が多い人はこちら!単身の方はこちら!など、だいたいの相手の情報がわかれば選ぶ方も選びやすいですよね。ゲーム感覚で選べたり、ボタンを押すと音楽などのエフェクトがあったりしたら、使う方も楽しいかもしれません。

金券や体験などをプレゼント

実は僕がもっとも現実的だなと思っているのは金券。金券は絶対捨てる人なんていないですからね(笑)。でもそれだとちょっといやらしい。ならば体験を贈るのがいいと思います。僕はマッサージ券をもらったらすごく嬉しいです。贈る相手の嗜好ではなく、その先にいる奥さんを喜ばせることができる贈り物ということでエステ券とかもいいんじゃないですか。あとは子どもがいるご家庭なら、プログラミングや語学学習などの学習系の体験もいいかも。それからテーマパークのチケットも嬉しいはずです。小さい頃にお歳暮にいい思い出があると、「お歳暮っていいもんなんだな」と、習慣や文化が未来に残りやすくなる気がしますね。

いらないお歳暮の物々交換サービス

手をつけていないお歳暮と、レシートまたは証明書などを一緒にデパートや百貨店へ持っていくと同額相当の商品と物々交換してもらえるサービスなんていうのもいかがでしょう。賞味期限の問題もありますが、食品ロスを減らすための取り組みは、アイデア次第でいろいろできると思います。

お歳暮文化は、かたちを変えていかないと存続が危ういと思います。昔はものが少なく貧しかったので、ハムやお米、ビールなどが喜ばれましたが、今はものが溢れている時代。贈る相手をどう喜ばせたいのかをきちんと考え、無駄にならないお歳暮選びをしていきたいですよね。

Profile

滝沢秀一さん

1976年生まれ、東京都出身。1998年に西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。2012年より、定収入を得るために、お笑い芸人の仕事を続けながらゴミ収集会社に就職。著書に『このゴミは収集できません』(白夜書房)や『ごみ育 日本一楽しいごみ分別の本』(太田出版)、原作・構成を担当したマンガに『ゴミ清掃員の日常』(講談社)など多数。

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