2021.06.11

目利きたちに聞いた、5年後に喜ばれる贈り物のカタチ。

誕生日のお祝いに、お世話になっているあの人への感謝の気持ちで、あるいは自分へのご褒美に。私たちはさまざまなシーンで贈り物をします。普段何気なく贈り、贈られているかもしれませんが、その在り方は時代と共に変わってきています。体験のギフトや、ソーシャルメディアから贈るギフト、贈る相手に合わせたパーソナライズができるギフト……。贈り物をするということは、今やただモノを買い贈るだけにとどまりません。新しいカタチの贈り物が生まれる中で、5年後の未来にはどんな姿になっていくのでしょうか? フード、コスメ、リビングの3つの分野のそれぞれの目利きに、贈り物の未来を伺いました。

フードプロデューサー 古谷知華さん 「贈る方も楽しい”エキセントリック”な贈り物」

「おいしい」は、誰にとってもうれしいもの。「消えもの」でもある食べ物は、相手を選ばずに贈りやすいアイテムです。一方で、和菓子に洋菓子、お肉やお酒の定番品を贈るばかりでマンネリを感じることもあるはず。フードプロデューサーの古谷知華さんは、新しい「食」を研究し続ける食の探求者。クラフトコーラ「ともコーラ」など、今までにない食を生み出す古谷さんは、未来の食べ物ギフトのどんな姿を思い浮かべているのでしょうか?

 

「誰かにプレゼントを贈る時、私は相手に合わせたものでありつつ、エキセントリックさがあるものを選ぶようにしています。例えば、最近だと青森県の十和田市でメープルシロップを作る知人に、クラフトジンを贈りました。そのジンは北海道のアカエゾマツを漬け込み蒸留して作ったというもの。今、木を食品にするプロジェクトに取り組んでいて、そのリサーチの中で出会った商品です」

 

日本の森で香り豊かな木に出会ったことがきっかけで木を食べることに興味を持つようになったという古谷さん。2021年6月初旬には、木を蒸留し香り付けしたフォレストソーダの発表を予定しています。「珍しいからプレゼントに向いている」とフォレストソーダを紹介してくれた古谷さんは、贈り物には相手の興味に合うものでありながら「驚き」があることを求めると話します。

 

「ちょっとニッチな食品、海外の珍しい食べ物だったり、私は調香師なので香り系のものだったりとか……。相手の興味の範囲内でありつつ、エキセントリック、エクストリームなものがいいですね。相手を驚かせたり、視野を広げるようなもののほうが、面白い。それに、そういうものを選ぶのは自分も楽しい。贈り物というのは相互的なものだから、贈られる相手も贈る自分も楽しめる方がいいのではないかなと思っています」

 

目新しさのある贈り物が好きだという古谷さん。しかし、最近登場してきた新しいタイプの贈り物にはそれほど興味がなく、むしろ昔からある定番品に惹かれているとのこと。

 

「例えば六花亭のお菓子。レーズンサンドイッチなどはスーパーでも買えるような定番品ですが、可愛い草花のイラストで彩られた包み菓子は、誰からも好かれるものですよね。それって実はすごいこと。私自身は変わったものを作りがちなので、そういう定番品へ敬意のようなものを感じています。今作っているフォレストソーダも、『木を食べるなんて!』と驚かれるものですが、いつか『木っていいフレーバーだし、普通に食べるよね』と定番化することを目指しています。クラフトコーラも、2018年に登場した時は全く新しいジャンルでした。でもそれが3年経ち、どんどん周知されるようになって、今では一つのジャンルとして確立している。そんなふうに、新しい定番がどんどん生まれて行ったら面白いですよね。まだ知られていない食品や食性に注目して作られた珍しいものが、普遍的になる未来が来たらいいなと思います」

 

 

Profile

古谷知華/フードプロデューサー、調香師

1992年東京都生まれ。調香やハーブ・スパイスに関する知識を活かし、クラフトコーラ「ともコーラ」、ノンアルコールドリンク専門ブランド「のん」、日本の可食植生を研究する「日本草木研究所」等の飲食事業を設立。食の知識を生かし『Ozmagazine』『料理王国』で執筆。2020年の夏より全国をまわって木の食べ方を研究している。今一番食べたい木はアオモリトドマツの松ぼっくり。

美容ライター 長田杏奈さん 「気持ちを伝える、あえての”消えもの”」

キラキラしたパッケージに美しい色合い。見ているだけで楽しいコスメには、贈り物向きの特別な華やかさがあります。『美容は自尊心の筋トレ』(ele-king Books)の著者である長田杏奈さんは、美容やメイクの新しい価値を発信する美容ライター。コスメギフトの選び方を長田さんに伺うと、長田さん流のユニークな贈り方が見えてきました。

 

「コスメは生活必需品ではないけど、きれいな色だな、いい香りだな、潤って心地いいな、とか気持ちを晴れやかにしてくれるもの。もちろん『化粧しなさいよ』みたいな価値観を押し付けないように注意は必要ですが、ちょっと気分を上向きに転換するのにすごくいい贈り物だと思います」

 

自分をケアする方法としての美容を提唱し、エンパワメントするメッセージを発信し続けている長田さん。コスメを、自分も周りの人も元気づけるアイテムとして使っているのだそう。

 

「例えばこの間、ちょっと落ち込んでいる様子の知人がTwitterで『新色のコスメを買いに行きたいな』と呟いているのを見たので『じゃあおすすめの新色を詰めて送っちゃおう!』とプレゼントしました。人に対してエールを送るには、ある程度自分が元気でいることが大切。そのために、私自身もコスメの力を借りて気分を上げるようにしています」

 

長田さんは、こうした「周囲の人を元気づけるためのちょっとした贈り物」を頻繁にするといいます。その際に選ぶのは、花や、食べ物、入浴剤やティーバッグなどの「消えもの」。あえてカタチに残らないものを選ぶのには、時代の変化を感じての理由があるとのことです。

 

「『元気だせよ!』という気持ちを込めたカジュアルな贈り物は、普段からちょこちょこしています。本当はいい感じに相談に乗って上手い言葉をかけたいのですが、自分と相手は違う人間だから言葉ではうまく伝えられないときもある。だから、代わりにそのときに相手に寄り添えるちょっとしたものを贈ります。それに、今の時代はモノを増やすことに抵抗がある人も多いし、環境に対する意識も変わってきている。私自身も、コスメを選ぶときにギルティフリー(=罪悪感なく心から楽しめる)かどうかを意識するようになりました。そういう中で、相手の価値観を尊重するには、きれいになくなるもののほうがいいのではないかなと。これからの贈り物は、そういう相手への気持ちを伝えるちょっとしたものが手軽に贈れる選択肢が増えればいいなと思っています。例えば、カフェでラージサイズのドリンク一杯分を飲めるチケットとか。つまり、単に飲み物を贈るということじゃなくて、『それを飲んでほっと一息ついてね』という思いやりの気持ちを伝えることですよね。

そういう思いやりの気持ちをもっとカジュアルに贈れるものが5年後、定番になっていけば、ちょっとやさしい世界になるような気がしませんか?」

Profile

長田杏奈/ライター

1977年神奈川県生まれ。美容部員の母の影響を受け幼い頃よりコスメやメイクに親しむ。会社員を経て美容ライターに転身。女性誌やWeb媒体で美容を中心に、インタビューやフェムケアにまつわる記事を執筆している。モットーは「美容は自尊心の筋トレ」。趣味は花鳥風月。自宅では40種類以上のバラを育てている植物好き。

スタイリスト 杉本学子さん 「サステナビリティの輪が広がる簡易包装」

おうち時間が増えた今、インテリアを充実させたいという需要は増えています。ちょっとしたギフトにリビング用品を選ぶことは、今の時期にぴったりの贈り物かもしれません。杉本学子さんは、ファッションからインテリアまで幅広いスタイリングを手掛けるスタイリスト。シーンに合わせたスタイリングを得意とする杉本さんに、これからの時代に合う贈り物の選び方を教えていただきました。

 

「最近ではサステナビリティのことを意識していますね。ただ消費されるものとして贈るのではなくて、その商品が持つストーリーも含めてギフティングする、ということを考えるようになりました。例えば、ミツロウラップ(ミツロウでできた繰り返し使えるラップ)。知ってはいるけど、いざ買って使う所までは至っていない人も多いと思います。けれども、贈り物でもらったら『じゃあ使ってみようかな』と一歩進められるのかなと」

 

「周りの大事な人とは同じ方向を向いていたい」と話してくれた杉本さん。一方で、価値観の押し付けになるようなことはしたくない。そんなときに、自分がいいと思ったギフトを贈ることで、思いを共有するきっかけになるのだといいます。こうしたサステナビリティへの意識は、杉本さんご自身のスタイリングと共通するものがあるとか。

 

「ファッションを、消費されるもの、トレンドに流されるものだと思う方が多いけれど、でも本当はそうじゃなくていいはず。私は、ファッションは積み上げていくものだと思っています。気に入ったものを色違いでそろえたり、○年物のジーンズ、靴や服をコレクションしたり……。スタイリング修業を始めた当時、そういうものを大事にするスタイルに惹かれました。ギフトを選ぶときにも、お気に入りのコレクションの一つとして長く使えるようなものを意識しています」

 

そう語る杉本さんは、プライベートでも、バッグを毎日変えたりせず、お気に入りをずっと使いたいというタイプなのだそう。少ししか使わないものを無駄に買うよりは、大事にできるものを選ぶ。そうしたモノの選び方に加えて、ギフトラッピングをサステナブルにする方法も提案してくれました。

 

「今はまだ、豪華で素敵だけどちょっと行き過ぎたラッピングが多いと思います。これからの贈り物のカタチとして、サステナビリティを考えたシンプルなラッピング方法が選べるようになるといいですよね。それを選ぶと30円引きになるとか。あるいは、簡易包装だと葉っぱのマークに『ありがとう』と書かれたシールを貼るともらえるとか。贈られた人も、そのシールを見たら、『そういうことを考えて選んでくれたんだな』というのが分かって嬉しいんじゃないかな。私にとって贈り物をするという行為とは、相手を思う時間だと思います。相手の好きなものは何か、考えを巡らせたり、その人を喜ばせるために何ができるかなと考えたり……。そういう気持ちが伝わるものをもらうのが、私自身もうれしい。時代によって求められるものは変わるだろうけど、そこはこの先も変わらない所だと思います」

Profile

杉本学子/スタイリスト

1982年東京生まれ。スタイリスト祐真朋樹氏のアシスタントを4年半務め2008年4月に独立。現在『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系火曜午後9時)、『着飾る恋には理由があって』(TBS系火曜午後10時)出演者のスタイリングを手掛ける。今気になっているインテリアアイテムは、ガラス作家オカベマキコさんのシャボンランプ。

【編集後記】

生活の中で、贈り物が続いてくると、どうしても義務的になったり、内容が同質化してきます。気がつくと、なぜそのギフトを選んだのかもあまり意味も考えずに贈っていることもあります。 3名の目利きたちの取材を通して、贈る、受け取るほうも、本当はもっと楽しい習慣だと気づかされます。相手の個性を表現したり認知したり、新しい提案をしたり。選ぶ過程から、相手に対しての気持ちを詰め込めるそんな楽しい習慣だと再発見できます。 原点回帰のようですが、これからの贈り物は今までのような定期的、定量的な習慣から、より気持ちを表現するような提案型の習慣に変わっていくのではないでしょうか。

(未来定番研究所 窪)