2022.07.20

日本のしきたり新・定番。<全10回>

第4回| 地鎮祭ハンドブックで、土地について知るきっかけを。神主・篠原政弘さん。

日本には、古くから受け継がれてきた「しきたり」が多く存在します。F.I.N.では、そうした伝統を未来に繋ぐべき文化と捉え、各界で活躍している方々にお話を伺いながら、未来のしきたりの文化の在り方を探っていきます。

 

第4回目は、建物を建てる際など、施工の前に行う儀式「地鎮祭」を取り上げます。近年は、「リモート地鎮祭」や「セルフ地鎮祭」という新しい概念も生まれています。5年後、10年後、地鎮祭はどのようなかたちになっていくか、農業と神職の二足の草鞋を履く「富里鎮守 香取神社」の神主・篠原政弘(しのはら・まさひろ)さんに話を聞きました。

 

(文:大芦実穂/イラスト:カトウミナエ)

地鎮祭の目的は、家を建てるときに、その土地の守り神である「氏神様(うじがみさま)」に、土地を使わせていただくことの報告をし許可をいただくことです。起源は690年頃と言われており、『日本書紀』にもその記録が残っています。

 

施主さんから直接申し込まれることもありますが、工務店などを通して、我々のところに依頼が来ることの方が多いです。みなさん大安を希望されるのですが、神道では「すべてがいい日」なので、いつ執り行ってもOK。日取りが決まったら、施主様にお供え物をご用意いただきます。一般的には、米・酒・海の幸・山の幸。その他に、川砂・榊(さかき)・玉串は、工務店の方が用意するケースがほとんどです。

 

当日、参加いただくのは、家を建てる施主様とそのご家族、施工会社、設計会社の方々です。まずは、土地の中央に笹竹を4本建て、しめ縄と紙垂(しで)で、聖域をつくります。その中に祭壇をつくり、施主様に用意いただいたお供え物をし、いよいよ神様に降臨していただきます。順序としては次のようになります。

1. 修祓(しゅばつ):参列者とお供え物を大麻(おおぬさ)でお祓いします。

2. 降神(こうしん)の儀:土地の神である大地主大神(おおとこぬしのみこと)に神籬(ひもろぎ)に降りてもらいます。

3. 献饌(けんせん):神様にお供物をする儀式。略式で酒の蓋を開けます。

4. 祝詞奏上(のりとそうじょう):土地を使わせていただく報告と安全祈願を大和言葉で奏上します。

5. 切麻散米 (きりぬささんまい):米と酒と塩で土地の四方を払い、清めます。

6. 地鎮(とこしずめ)の儀:鎌(かま)、鍬(くわ)、鋤(すき)を盛砂に入れます。「鎮め物」という、人形、盾、矛、小刀子、長刀子、鏡、水玉などが入ったものを土地に埋めます。

7. 玉串奉奠(たまぐしほうてん):施主様に前に出てきてもらい、神様にお参りします。

8. 撤饌(てっせん):酒の蓋を閉めます。

9. 昇神(しょうしん)の儀:神様をもとの御座所に送ります。

10. 直会(なおらい):お酒で乾杯をし、お供えを参加者といただきます。

地鎮祭は、現地に出向いて、その土地の神様を鎮めるお祭りです。そのため、その土地に実際に行かなくてはできないことです。メタバースではやはり難しいと思いますね。5年後も10年後も、今のかたちが変わらず続いていくのが理想なのではないでしょうか。そのためには、地鎮祭がどんなものなのか、我々神主からわかりやすく発信していく必要があると感じています。

 

そこで、「地鎮祭ハンドブック」を作成することを提案します。例えば、お供え物には、その土地で採れた野菜や果物が望ましいのですが、初めての土地では、何が特産品なのか、よくわかりませんよね。ハンドブックに、地鎮祭の準備についてはもちろん、その土地の特産品や歴史なども記しておくと、新しく引っ越してこられる方が、その土地を深く知るきっかけにもなると思います。私は農家もしていて、スイカが特産品なので、うちのハンドブックには、お供え物のおすすめにスイカが載るかもしれません。

 

それから、直会の儀式のあとは、二次会としてホームパーティーもよさそうですね。地鎮祭が、家族や親戚一同が集う機会になったらいいなと思います。ホームメーカーの方も同席すれば、相互の理解が深まり、今後の施工もスムーズに行えるようになるかもしれませんね。

Profile

篠原政弘

富里鎮守香取神社 禰宜/農家。結婚を機に、妻の実家である香取神社と農家を継ぐため、神職と農業を勉強。特産品のスイカをモチーフにしたお守りや御朱印が人気で、「スイカ神社」としても知られる。

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【編集後記】

建築や施工関係の仕事に就いていない限り、人生で建物を建てるタイミングに居合わせることはなかなかありません。そのため、地鎮祭を執り行う機会もそう多くはないと思うのですが、1300年以上ものあいだ人々に受け継がれてきていることに大変驚きました。

地鎮祭をとおしてその土地や自然環境に敬意を持つことが、わたしたち人間にとって時代を問わずいかに重要なこととされてきたかを改めて感じます。

5年先の未来の地鎮祭が、その土地の特産品や歴史を知れたり、それを近しい人々と分かち合う場を持てたりする機会となったら、その土地と人々がさらに良い関係を築けるきっかけにもなるため、未来につなぐべき文化としてさらに強く伝えたいと思いました。

(未来定番研究所 中島)