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2024.01.19
二十四節気新・定番。
「二十四節気」とは、古代中国で生まれ、日本でも古来親しまれてきた暦です。めぐる季節の変化に寄り添い、田植えや稲刈りの頃合いを告げる農事暦でもありました。今でも折々の季節を表す言葉として愛されています。「F.I.N.」では、季節の変化を感じ取りにくくなった今だからこそ、改めて二十四節気に着目する潮流が生まれ、季節の楽しみ方の新定番が出てくるのではと考えました。
第9回目に話を伺ったのは、信州で採れる食材を使った保存食や、行事食などを長年にわたり研究・発信している、長野県在住の料理研究家・横山タカ子さん。雪の多い長野で生まれ育ち、その風土に沿った暮らしをしている横山さんに、寒い時期の食の知恵や都市生活の中でも季節を取り入れるヒントをいただきました。
(文:大芦実穂)
冬が長い信州に合った
旧暦での暮らし
北アルプスの麓・安曇野で生まれ育ち、70年以上も信州つまり長野県で暮らしてきました。信州はご存知のとおり、豪雪地域もある雪深い土地。本格的な春が来るのは5月になってからです。3月3日と言えば「桃の節句」でお雛様を飾りますが、その頃の信州はまだ凍てついていて、桃の花は咲いてくれません。ですから、1ヵ月後の4月に桃の節句を行います。5月5日の「端午の節句」も同じ。6月では柏の葉っぱがまだ芽を出したばかりなので、6月5日に行うんですね。これは旧暦に沿った暮らしです。
日本では、明治5年、西洋に並ぼうという動きの中で、それまでの旧暦(太陰暦)から新暦(太陽暦、グレゴリオ暦)へと変わりました。ですが新暦は西洋の暦で、アジアに住む私たちには当てはまらないことも往々にしてあります。とくに長野や東北などは、今現在も旧暦で暮らしているところも多いのではないでしょうか。私の家には、新暦と並び旧暦が記載されたカレンダーがあって、毎日両方を見るようにしています。すると、「ああ、なんて今日は寒いのかしら」と思う日でも、旧暦を見れば1ヵ月遅れているわけですから、「寒くて当たり前ね」と自分を慰められるんですよ。
越冬野菜と発酵食品で
冷えた体を内から温める
新暦のお正月を過ぎると、1月5日頃に小寒、そして1月20日頃には大寒と続きますが、この時期はその名のとおり、一年で最も寒さが厳しくなる季節。ただでさえ冬が長い信州なので、一年のうち畑で作物が採れるのは半年間だけ。ですから、今私が食べているのは、秋に採れたお野菜なんです。「越冬野菜」と言って、晩秋に採れたものを倉庫に保存しておいて、3月頃までそれを食べています。大根やニンジン、ゴボウ、里芋、ネギなどの越冬野菜を使ったお味噌汁に、ちょっと酒粕を加えると、より体が温まっておすすめ。ブリを入れてもタンパク質が摂れていいと思います。それに熱燗も飲んだらポカポカしてもう大変よ。
私は、毎晩夫と一緒に日本酒で晩酌しています。日本酒は国酒ですから、日本の料理にぴったり合いますよね。長野は新潟に次ぐ酒どころ。水が豊富でおいしい酒米が採れるし、朝晩ぐっと冷え込み、日中は暖かくなる気候が発酵に適しています。日本酒にはいろいろと種類がありますが、私がみなさんにおすすめしたいのは純米酒。米と米麹、水だけで作られたシンプルなお酒で、私は悪酔いしたことがないんですよ。
この時期のお酒のアテは、11月中旬に漬けた野沢菜漬け、それから干し柿の味噌漬け、長芋の千切りに醤油麹をかけたものなど。どれも発酵食品なので、おいしいのはもちろん、体にも良い。醤油麹は、通常の半分の醤油で良いので減塩にもなりますし、これはおうちでも簡単に作れます。デパートなどでも売っている生麹と醤油(無添加)を1:1で混ぜて、3日くらい置いておくだけ。これで1年は持ちます。湯豆腐やふろふき大根、お刺身なんかに付けてもいいですよ。
スーパーに並ぶ野菜で
季節について考えてみる
都会では季節が感じられない、なんて声も聞きますが、手軽なものとしては、スーパーで買うお野菜です。今、太陽の下で採れるものは何だろう、とまずは考えてみてください。ハウスなど人工的に育った食材ではありませんよ。できれば冬に買っていただきたいものは、ほうれん草をはじめとする菜葉類、キャベツ、根菜などになります。冬に、夏の野菜であるトマトやきゅうりを食べると、体温が下がって、結果として免疫が落ちると言われています。そしてできれば日本で育ったものを買ってください。海外から輸入する際、船や飛行機では大量のCO2を排出しているわけですから、地球のことを考えると国産を選んでほしいですね。
また、料理が苦手、めんどくさいと思う方もいらっしゃると思いますが、実はとてもシンプル。私が提案しているのは、「食材を構いすぎない」こと。「焼く」「茹でる」「煮る」「蒸す」「和える」「炒める」「揚げる」という、7つの調理方法がありますが、そのうち1つを使うだけ。例えば大根だったら、切って煮るだけ、おろすだけなど。そうした簡単な調理方法に、塩、醤油、みりん、酢、砂糖、はちみつ、味噌、酒粕、といった正しく醸された調味料を加えるだけで、とてもおいしいごちそうになります。
季節を意識することは
地球環境に目を向けること
お仕事で東京に行くことも多いのですが、ホテルに滞在中も、道に咲いている野花などを摘んできて、一輪でも飾るようにしています。もちろん、お花屋さんで買ってきてもいいと思います。ほんの少し季節を意識することで、壊れつつある地球に目が向けられるのではないでしょうか。若い人は、生まれたときから地球温暖化が叫ばれているので、気候変動に敏感な人が多いですよね。最近は長野でも新規就農する若い世代の人が増えていて、期待しています。どんなに科学が発達しても、赤く染まったもみじの葉1枚、工場では作れません。自然というものを大事にしないといけない、と思いますよね。
横山タカ子さん(よこやま・たかこ)
長野県出身の料理研究家。現在も長野市在住。母の手料理を手本に、信州の郷土料理や保存食、行事食などを長年にわたり研究。素材の良さを存分に生かした、簡単にできる家庭料理が人気。NHK「きょうの料理」講師としても活躍。著書『日本酒で愉しむ信州の二十四節気 季節の日本酒と、酒肴百撰。』(信濃毎日新聞社)、『横山タカ子のお漬けもの』(主婦と生活社)、『74歳、横山タカ子の体にいいごはん』(家の光協会)、ほか多数。
Instagram:@takakoyokoyama_sasisu
【編集後記】
関東地方に生まれ育ち、今日までほぼ新暦にしか触れてこなかったため、信州や甲信越などでは季節の行事を旧暦に倣って新暦の1ヶ月後に行う慣習がある、というお話はとても衝撃でした。しかし日々過ごしていて、たしかに新暦に定められた季節と実際の気温や植物などの状態にずれを感じることがあります。そんなとき、これまでわたしは「もう3月なのに寒いなあ」や「9月でもこんなに暑いなんて…」など、自然への違和感ばかり覚えていました。近年では温暖化による季節の崩れもありますが、横山さんの仰るとおり、もともと各地に根づいている自然に基づいた旧暦にも親しむことで、そのずれも楽しんだり、慈しんだりする豊かな暮らしを持てるのではないかと思いました。
(未来定番研究所 中島)
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