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2024.09.13
地元の見る目を変えた47人。
「うちの地元でこんなおもしろいことやり始めたんだ」「最近、地元で頑張っている人がいる」――。そう地元の人が誇らしく思うような、地元に根付きながら地元のために活動を行っている47都道府県のキーパーソンにお話を伺うこの連載。
第29回にご登場いただくのは、京都府京丹後市にあるピッツェリア〈uRashiMa〉の藤原英雄さん。イタリアのナポリをはじめ国内外で修業を積み、実家の鮮魚店〈藤原鮮魚店〉の一角でピッツェリアをオープン。京丹後市の魚や野菜を使ったピッツァを提供しています。藤原さんは、〈uRashiMa〉のピッツァが、地元の人たちにとっての懐かしい味になれるよう、日々精進していると語ります。
(文:宮原沙紀)
藤原英雄さん(ふじわら・ひでお)
京都府京丹後市生まれ。〈uRashiMa〉代表。高校を卒業後、兵庫県神戸市の専門学校へ進学、学業の傍らイタリアンレストランでアルバイトを始める。そこで仲間と出会ったことから、ピッツァの道に進むことを決意。ナポリへ留学し料理を学び、2012年の「ナポリピッツァオリンピック」で「ファンタジーア部門」を受賞。2017年に京丹後市に〈uRashiMa〉をオープンさせた。
生まれ育った京丹後市
京丹後市は京都府の北部の丹後半島に位置する街。美しい海や林など、豊かな自然に恵まれていて、魚介や農作物などの食材も豊富にとれる土地です。そんな京丹後市に、地元の人はもちろん、遠くから足を運ぶ人も多いピッツェリア〈uRashiMa〉があります。ピッツァを焼くのは、イタリアで修行をし世界的なコンテストで受賞された経歴を持つ本場仕込みのピッツァ職人、藤原英雄さん。鮮魚店を営む両親のもとに生まれた藤原さんは、高校を卒業するまでこの街で暮らしていました。
「地元に住んでいる時は都会に出たいという思いを持っていましたし、周りの友人にもそういう考えの人が多かったんです。その頃は写真や絵の仕事をすることが目標でした」
鮮魚店を継ぐことを、創業者の父に求められることはなかったといいます。藤原さんは京丹後市を出て、自分の目指す道を歩み始めました。
「高校を卒業し、神戸の専門学校へ進学。空間デザインを学びながら写真の勉強もしていました。そのときに飲食店でバイトを始めたんです」
これが、のちにピッツァ職人になるという藤原さんの運命を決定づける出来事になります。
「当時働いていたのは200席ほどある大きなお店で、イタリアから帰ってきたシェフがたくさんいる環境でした。今思えば、すごいお店で働かせてもらっていたんだなと思います」
一緒に働く人たちに刺激をもらい、楽しくアルバイトをする日々を送っていました。
ピッツァ職人の道へ
一度は、そのアルバイト先を辞めた藤原さん。その後バックパッカーとして旅する生活をしていました。将来のことを考えるなかで、あのレストランの環境や出会った人々は特別だったことに気がつきます。
「絵や写真の仕事を目指していた時は弟子入りするのが嫌で、一人でやっていくのがかっこいいと思っていたんです。だからあまり人間関係も広がらなかった。でも飲食の世界では自然と仲間ができて、目標とする先輩もたくさんいました。僕にとって、この道に進むのが自然なことなのだと素直に思えました」
料理の道が天職だと気づいた藤原さんは、再びレストランで働き始めました。働いているなかで、徐々に本場のイタリアで学びたいという目標が生まれてきたそうです。
「本場のピッツァを学ぶなら、イタリアのナポリ。毎日航空券の値段をチェックしながら働き、家に帰るとNHKを観て語学の勉強もしていました」
そして2003年にイタリアに渡ります。
「これまで日本で学んできたことや経験は、いったんリセットしてイタリアに向かいました。ゼロからすべてを吸収するという気持ちだったんです。日本と違う環境に驚くこともありましたが、それに抵抗を持つことなく受け入れられたのは学ぶうえでとても大事な姿勢だったと思います」
半年の修行ののちに帰国。その後は、以前一緒に働いていたレストランのシェフが新しくオープンするお店に誘われました。
地元での出店を決意
その後、日本でもいくつかのお店で働き、新店の立ち上げにも参加。2012年にはナポリで行われるナポリピッツァの世界大会「ナポリピッツァオリンピック」で、創作ピッツァの部門である「ファンタジーア部門」で銀メダルを受賞しました。次のステップとして、自分のお店を持つという目標を持ったときは京都市内などで物件を探しました。地元に帰るのはまだ早いという気持ちがあったそうです。
「なんとなく『地元に帰るためには、もっと大きいことを成し遂げてからじゃないとダメだ』と思い込んでいたんです。しかし地元のイベントに出店する機会を何度かいただいて、ありがたいことに多くのお客さんにご好評をいただきました」
自分のお店を開くときには、実家の鮮魚店の魚を使うことも決めていました。
「ナポリピッツァの大会で賞をもらったのは、魚を使ったものでした。僕の看板メニューでもある魚を使ったピッツァには、親父の魚を使いたいと思っていたんです。でもそれを京都市内で出してもあまり意味がないと感じました。この場所で、ここで獲れた魚ですと言って食べてもらえばなんの説明もいらないし、よりリアリティーを感じてもらえる。必然的にここでお店を開くべきだと思えました」
2017年に鮮魚店を改装し、〈uRashiMa〉をオープン。地元の旬の魚や野菜を取り入れてつくるピッツァは地元の人にも大好評。今では、遠くからもお客さんが訪れています。
「振り返ってみると、昔から友達を京丹後市に連れてきたりして自慢の地元だとずっと思っていたんです。食材も水もおいしいし、ここでお店を開くのは僕にとって自然なことだったのかもしれません。地元の人は、お盆や正月など人の集まるタイミングにたくさんのピッツァをテイクアウトしてくれます。そういう機会にみんなが笑顔になる手助けができていると思うとうれしいです」
地元の人にとっての懐かしの味を提供したい
藤原さんの目標は、地元の人にとってなくてはならない店になること。
「最初の頃はメニューを増やすなどいろんなことをやっていましたが、最近はちょっと思考が変わってきたんです。新しいことや流行りを追いかけたり、都会の真似をしたりするのはちょっと違うなと感じました。あれやこれをやるよりも、1つのことを極めたい。例えば40年間毎日豚玉を焼いたおばちゃんのお好み焼きと、ちょっとモダンに飾った写真映えするお好み焼きがあったら、僕はおばちゃんの方を食べたい。自分のつくる料理もそうありたいんです。そのためには新しいものをどんどん取り入れるよりも、同じことをやり続けることが大切。もちろん季節ごとに採れる食材は違うのでメニューはその時々で変わってしまうのですが、日々ピッツァを作り続けてどこまでクオリティーを上げられるか。この考え方をベースにしています」
もうひとつ、〈uRashiMa〉には、グラッファという人気のメニューがあります。グラッファとは、じゃがいもを練り込んだ生地をあげて砂糖をまぶしたドーナツ。ナポリの伝統菓子の1つです。このメニューは、地元の人の日常に寄り添う味を提供したいという思いで作っています。
「地元に、おばちゃんが焼いている『平和焼き』という大判焼きを売っているお店がありました。みんな大好きで親しまれていたのに、閉店してしまったんです。コンビニに行けばあんこの入ったお菓子は買えますが、あの慣れ親しんだ味はもうないことが悲しくて。素朴で懐かしさを感じるようなあの味に代わるなにかを作れたらと思い、グラッファを揚げています。僕の子供も大好きですし、近所の子供たちが買いに来てくれています。ピッツァもグラッファも子供の頃から食べていた味を、大人になっても懐かしいといって喜んでくれる。そんなお店を目指しています」
「郷土愛」を育むために、生活を楽しむ
懐かしい味を追求する理由、それはイタリアで感じた「愛」でした。
「イタリアでは、多くの人が郷土愛を持っていました。地元の人にその土地のことを聞いたら、魅力を全部紹介してくれるんですよ。それって素敵なことですよね。京丹後市は今、移住する人やUターンも多くお店も増えていて注目されている街だと思います。だからこそ、ただのブームで終わらせずに郷土愛を持つ人が増えてほしい。僕も京丹後市が大好きだから、その愛を伝えていきたいと思っています」
そのためには、住んでいる人たちがこの場所での生活を楽しむことが大切だと藤原さんは語ります。
「天橋立でビーチサイドバー〈Les Pins〉というイベントを毎年開催しています。京都や兵庫県の但馬エリアの飲食店が集結してバーを開くイベントです。大事にしているのは実行委員や出店者がまず楽しむこと。そしてその精神は日常でも同じ。東京や都会に憧れたってここはそうじゃない。この土地にしかないものを楽しんでいれば、『楽しそうだな』と他の地域から人が見にくるんです。イタリアにもポルチーニ祭りという世界的に有名な祭りがあります。ポルチーニの収穫を祝う祭りで、世界中から人が集まりますが、あくまでも住人が楽しむための祭りで、観光に来てもらうためのものではないんです。人を呼びたいからといって外向けばかりになってしまうと、僕の大事にしている『愛』からは遠ざかってしまうんじゃないかと思っています」
愛する京丹後市について、今後どんな街になってほしいかを語ってくれました。
「今、新しいお店もどんどんオープンしていて仲間が増えている実感があってすごく楽しいんです。だからこそ1つの場所で完結してしまうような、なんでもある店が増えるのではなくて、専門店が立ち並ぶ場所になったらいいなと思います。大きいスーパーでなんでも食材がそろうのではなく、豆腐は豆腐店、肉は精肉店で買うといった街が理想。飲食店も居酒屋でなんでも食べられるというよりは、ピッツァはうち、ラーメンはここ。そうなっていったらもっと楽しい街になるんじゃないかな」
藤原さんは郷土を誇り、楽しみ、そしてその愛をピッツァを通して伝え続けています。
〈uRashiMa〉
【編集後記】
郷土への愛、郷土に住まう人たちへの愛、食材への愛、つくられるものへの愛。隅々までゆき渡る、愛にあふれるお話をありがとうございました。
京都というと京都市内を中心とした観光地としてのイメージを持たれる方も多いと思いますが、南のほうは豊かな川や田園風景が広がり、日本海側は海や山など自然が豊かで素晴らしい地域です。食を通じて京都を改めて見つめ直せたことはとても新鮮でした。
潮の香りがする街でいただくその土地の素材を使ったピッツァ、今も未来も揺るぎなくおいしいことでしょう。ソウルフードが〈uRashiMa〉のピッツァやグラッファな子供たちが心からうらやましいです。
(未来定番研究所 内野)
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