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2025.02.19
地元の見る目を変えた47人。
「うちの地元でこんなおもしろいことやり始めたんだ」「最近、地元で頑張っている人がいる」――。そう地元の人が誇らしく思うような、地元に根付きながら地元のために活動を行っている47都道府県のキーパーソンにお話を伺うこの連載。
第34回にご登場いただくのは、愛知県名古屋市を拠点に映画の魅力を伝え続けている映画パーソナリティーの松岡ひとみさん。映画にまつわるイベントの司会やコラムの執筆などで数多くの作品を紹介。2022年からは「おいしい映画祭」を主催し、映画を観ることや、映画を創る楽しさを実感できる場を提供しています。
(文:宮原沙紀)
松岡ひとみさん(まつおか・ひとみ)
愛知県名古屋市出身。映画パーソナリティー。レポーター、テレビタレントとして活動し、映画の完成披露試写会などの司会を数多く担当。2000年からは映画パーソナリティーとして活動をはじめ、さまざまな媒体で映画を紹介。2022年から「おいしい映画祭」を主催する。
愛知県をもっと、映画が楽しめる場所にする
映画パーソナリティーの松岡ひとみさんは、テレビ、ラジオ、雑誌や新聞、Webなどで東海地区の人々にたくさんの映画を紹介しています。映画監督や俳優へのインタビューも年間100本以上を手掛けており、東海地区の「映画のおねえさん」として活動中。名古屋市で生まれた松岡さんにとって、小さい頃から映画は身近な存在でした。
「名古屋のとても活気のある中心地で生まれ育ち、家の近くに東映や松竹が運営する映画館やミニシアターもたくさんありました。気軽に映画が観られる環境だったので、楽しく過ごしていました」
しかし昔は、今ほど映画を観ていたわけではないといいます。
「父が映画『男はつらいよ』シリーズが大好きだったので、お正月は必ずその映画を観に行くという家族の行事がありました。あとは、ずっと私が真田広之さんのファンで。入り口はミーハーですが、その後映画好きになりました」
司会業やレポーターとして仕事を始めた頃から、映画に魅了されていきました。
「お仕事を通じて、東映の宣伝担当の女性に出会ったんです。その人からたくさんの映画を教えてもらって、その魅力にぐいぐいハマっていきました。観れば観るほど好きになっていったんです」
映画が好きになった松岡さんは完成披露試写会などの司会も多く手掛けるようになり、2000年から映画パーソナリティーという肩書きで活動を始めました。
「その頃は、大手配給会社の支社がまだ名古屋にもたくさんあって、新作が公開されると記者会見や舞台挨拶に監督や俳優が来てくれる機会が多くあったんです。でも映画がフィルムからデジタルに変わるタイミングで、名古屋の支社はどんどん減っていきました。令和に入り映画館もミニシアターも年々数が少なくなっていくなかで、映画文化が名古屋からなくなっていくのではないかと不安になり、名古屋の映画シーンを活気づけたいと勝手に使命感が芽生えたんです。名古屋に監督や俳優の方をお呼びして、自主的にイベントを開催したりしていました」
愛知県は映画づくりにも最適な環境だと松岡さんは言います。実は愛知県で撮影された映画も多いそう。
「有名な監督たちが名古屋で撮影をしたいと言ってくれるんですよ。ある監督に聞いたら、名古屋は道路が広くてアクションシーンが撮りやすいんだそう。そして街の人も撮影に対してみんなウェルカムで『どうぞどうぞ』と場所を貸してくれると聞きました。こんなに寛容な街はなかなか珍しいようです。名古屋には昭和期に建てられた市役所や公会堂が残っていて、ロケ地になることもあります。また犬山市には犬山城の城下町の近くに〈明治村〉があります。こちらは歴史的にも貴重な建物を保存していて、撮影が行われることも多々。豊橋市も映画撮影の誘致に力を入れています」
映画のロケ地になることは、町おこしにも繋がると考えている松岡さん。どんどん愛知県で撮影してほしいと望んでいます。
「最近、映画やアニメでも『聖地巡礼』といって、ロケ地を巡るファンの方たちも多いですよね。愛知県がロケ地になれば、映画を観た人が興味を持って足を運んでくれるかもしれない。そのために私は、撮影に来てくれた監督やスタッフの方々を美味しい名古屋めしにお連れして、また名古屋に来たいと思ってもらえるよう頑張っています(笑)」
映画とともに、映画館の魅力も伝え続ける
松岡さんが伝えたいのは映画そのものの魅力はもちろん、映画館で鑑賞する楽しさです。
「コロナ禍で、映画館に足を運ぶ人たちが減ってしまいました。配信で映画を観ることが一般的になり、現在も高齢者の方たちがあまり映画館に戻っていません。映画館の朝の時間帯はシニアの方に支えられていたのですが、そんな光景も少なくなってしまいました」
映画館で映画を観ることは、どんなメリットがあるのか教えてもらいました。
「最大のメリットは、映画だけに集中できることですね。私は同じ映画を映画館で3回観ることをおすすめしています。1回目はストーリーを追う。2回目はより細部が見えてきます。3回目は音に集中してほしい。映画館は音がいろんな方向から立体的に聞こえてきます。これは家の音響ではなかなか再現できません。リバイバルで昔観た映画を観るのもいいですね。同じ映画でも18歳の時と48歳の時で観るのでは感じ方が全然違う。また、ほかの人と同じ空間で同じ映画を観て、同じところで笑ったり泣いたりする体験は映画館ならではのものです」
食事のシーンをテーマにした「おいしい映画祭」
2022年から、「食」を軸にした映画作品を上映する「おいしい映画祭」を始めました。
「コロナ禍で感じた危機感が映画祭を始めたきっかけです。その頃は、エンターテインメントは二の次で、映画館も次々に閉まってしまいました。私もテレビの映画番組のレギュラーがなくなり、舞台挨拶もインタビューもなく時間がかなりあったんです。クリエイターの方たちも、作品制作の現場が止まってしまうという事態が多発。撮ったのに上映できない作品もたくさんあったので、映画祭という形で上映したいと半年ほど妄想していました」
パワフルな松岡さんはコロナ禍に準備を始め、たった2人で2022年に「おいしい映画祭」を実現しました。
「『この時期に映画祭を開催するのか』というお声があったことも事実。でも監督や俳優の方々に声をかけたら『スケジュールが空いている』と快諾してくれました。物理的な理由のほかにも、私の思いに皆さんが共感して集まってくれたんです」
「おいしい映画祭2022」のパンフレット。
この映画祭のテーマは「食」。なぜこのテーマを掲げたのでしょうか。
「食をテーマに映画を紹介するコラムを13年ほど毎月寄稿しています。劇中に出てくる料理も再現して、レシピも載せています。その積み重ねもあって、ごはんが出てくる映画が得意分野になっていたんです。我ながらいいコラムを書いていたなあと思って、そのまま映画祭にしちゃえと思ったわけです。食事のシーンって印象に残りますよね。何を食べているかとか、食べ方などでキャラクターの性格が一瞬にして分かります。食事のシーンを大事に描かれている監督も多いです」
食事のシーンが入った映画の招待上映のほかに、コンペティションも開催。選ばれた作品が映画祭で上映されるなど、クリエイターの育成にも力を入れています。
「コンペティションは学生と一般部門に分かれています。『おいしい』シーンを1つだけでもいいから作品に入れてもらい、5分から20分の短編映画を全国から募集するものです。1年目はまだまだ知名度もなく40本ぐらいしか応募が集まらなかったのですが、2年目は80本、3年目は160本になりました」
最初は「東海地区の食」をテーマに募集しており、名古屋の個性的な名物料理、手羽先や味噌カツ、きしめんなどを撮った作品が多く集まりました。2024年からは、全国のご当地ごはんで募集をしています。
「おいしい」シーンがある映画は、名古屋めしの魅力発信にも一役買っています。
「2023年の映画祭の一般の部コンペティションで、グランプリを取った山口晃三郎さんに名古屋市にある芸能プロダクション〈サンミュージック名古屋〉から依頼があり、プロダクションの所属俳優が出演する映画を撮ってもらいました。名古屋の有名中華料理店である〈矢場味仙〉にご協力いただいて、『台湾ラーメンリハーサル』という、台湾ラーメンがキーになる作品を作ってくれました。このように映画祭の場が、次世代のクリエイターを育てる場になっていることがうれしいです。
この『台湾ラーメンリハーサル』を去年の映画祭で上映したところ、それを観たお客さんから台湾ラーメンが食べたくなり、その後〈味仙〉に走ったという話を聞きました。ほかにも、今話題作である『侍タイムスリッパー』の安田淳一監督が制作した『ごはん』を上映した際はおにぎりのキッチンカー、狩猟生活をしている俳優の東出昌大さんのドキュメンタリー『WILL』の上映時は名古屋のジビエ料理店に出店していただきました。映画の上映後はたくさん売れたそうです。映画で観ていると食べたくなってしまいますよね」
「おいしい映画祭2024」出展作品「台湾ラーメンリハーサル」のポスター。
2025年の映画祭開催、そして未来にむけて
第4回目となる映画祭の準備も着々と進めています。
「今回は去年より仲間がどんどん増えている実感があります。また今回は映画館周辺の街の人たちと公園でのマルシェも開催したいと考えています。キッチンカーを出店していただき、名古屋のおいしい「食」を楽しめる場を広げていきたいです。もう1つ、これから挑戦していきたいのが子供たちに映画を作ってもらうこと。子供たちが自分で監督やヘアメイク、演技もしてもらって1本の映画を作ります。最終的には映画祭で上映できるように準備しています」
これからも映画祭や、映画の紹介をすることを通じて愛知県の魅力を多くの人に伝えていきたいと語る松岡さん。
「愛知県は昔からものづくりが盛んな地域。映像も例外ではなく、愛知県出身の映画監督も実はたくさんいるんです。あの憧れの監督が地元出身と聞くと、一気に親近感が湧きますよね。だからそういう人たちと触れ合える場をたくさんつくっていきたい。身近に頑張っているクリエイターがいるんだよ、ということを地域の人たちに伝えていきたいです。そこからまた若いクリエイターが生まれ、素敵な作品が誕生するきっかけになったらうれしいです」
「おいしい映画祭〉
Instagram:@0141cinema
【編集後記】
「横の繋がりが意外と少ないんですよ」。ふとおっしゃった、実際に動かれている方ならではの言葉。映画を作るチームに結束があるのは想像に易いですが、俳優と監督の関係や撮影場所探しなど、松岡さんがハブとなって色んな人同士や場を結びつけたりスパークさせておられる行動力、身近にいると頼もしすぎると思います。コロナ禍を経て、今、楽しいモノやコトをつくりあげ、温かく包む地元愛に、心からエールを送ります。そして、映画は映画館で観ます。
(未来定番研究所 内野)
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