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2018.09.17

街の家事室〈喫茶ランドリー〉の秘密。

第2回 地域と作る、安心感のある場所。

東京・墨田区にある〈喫茶ランドリー〉は、訪れる人が使い方を決め、自由に時間を過ごせる場所。街の家事室として、大きめの作業台に、洗濯機、ミシンや裁縫セットも揃います。主婦の方が家事の合間にコーヒーを飲んだり、新聞片手のサラリーマンが休憩していたり、学生さんが勉強していたり……。細かくターゲティングされた店が多い中、幅広い年齢層の方に使われる店を目指した〈喫茶ランドリー〉。企画・運営を担当する、株式会社グランドレベルの田中元子さんにお話を伺いました。

(写真:鈴木慎平)

洗濯機のある部屋のコンセプトは「街の家事室」。とはいえ、主婦層をターゲットにしたお店というわけではありません。そもそも田中さんは、ターゲティングされすぎた昨今の店づくりに疑問を感じていたといいます。

「商業施設も公共空間も、ターゲットを狭めすぎていると感じています。特に東京にいると強く感じますね。20代女性のための、お年寄りのための、サラリーマンのための…というように。でも、例えば20代女性で、そのお店のターゲット通りの人間だったとしても、まさにその属性にあてはまる、それらしい瞬間って1日の中でほんの少しなんです。おじさんみたいな気持ちになることもあるし、子供みたいに泣きたくなることもある。いろんなモードがあるんです。いろんな気分があるというところを無視すると、多くの人がしっくりこない店になり、飽きられるのも早いと思うんです」。

田中さんがこだわったのは、『誰にでも居心地のいい場所』。それは、大人も子供も同じです。

「この場所は、ベビーカーも、車椅子も、子供が泣いているのもOK。極力ルールを作らないようにしました。そうすることで、自然と子供たちが増え、お母さんたちが安心して連れてこられる場所になったんです。彼女たちをターゲットにしたつもりはありませんが、結果お母さんたちに嬉しい場所になったのかなぁとは思っています。大人が楽しい時、子供は我慢しなきゃいけなくて、子供が楽しい場所は大人が我慢しないといけない、そんな状況にはしたくなかったんです。子供が来てもいい場所にはしたかったけど、子供騙しの場所にしない。それを大切にしました」。

〈喫茶ランドリー〉は、おしゃれなお店、というのもかっこいいお店、というのも少し違った、とにかく居心地のいい場所。田中さんが目指したのは「安心感」でした。

「この辺りは、東京駅や銀座、日本橋など、全部歩いていける。ちょっと出かければ日本の最先端に触れることができるんです。だから、『もっとおしゃれに』『もっとおいしく』と、上を目指すことはやめました。目新しさやセンスよりも、どこかで見たことがあるような安心感を作りたかったんです。誰もがネクタイを少し緩めてしまうような、通うたびにマスターや常連と少しずつ顔見知りになっていくような空気とか、そんな喫茶店の居心地の良さを再現したかった。ここに置いている机や椅子はすべて中古品。かかとがしっかり付く高さにこだわっています。椅子の高さは40cm以下、テーブルも70cm以下が日本人に合う寸法だとわかったので、それに定めて家具を選びました」。

「こんなもの初めて見た!というものは、極力置かないようにしています。例えば、壁に昔のこのビルの写真を貼っているんですが、写真だけ貼ってあるとちょっと緊張感があったんです。額縁シールを貼ることで、緊張感が解ける。そういう緊張をほぐすような、少し手を加えて崩すようなことをしています。ほかにも、お客さんやお店に縁のある人の手作りのアクセサリーやぬいぐるみ、子供の服を飾ったり売ったりしています。これも、もっとすごいものを作る人はたくさんいるけれど、ここではこの店の背丈にあった、安心感のあるものを置こうと決めています。ほかのお店、ほかの誰かと競うことは、できるだけしないようにしています」。

空間として居心地がいいだけでなく、このお店はフードメニューも人気のひとつ。しかし田中さんはオープン当初、コーヒーとトースト以外にメニューを増やす予定もなく、厨房も最低限しか用意していませんでした。

「いまここで働いてくれているバイトは全部で4人。みんなこの地域のママさんです。通ってくれるうちに、ここが好きになり働きたいと言ってくれました。そのママさんの一人が、調理師の免許を持っていて、こんなの出したいと提案をしてくれたので、この厨房でできることなら、と自由にメニューを開発してもらっています」。

 

そうして生まれたカレーやケーキは、人気メニューになっています。まさに街の人と一緒に作る場所。まるで公民館のような、街の人の待ち合わせ場所のような雰囲気もあります。

「町内会の集まりや、婦人会、勉強会なんかに使われる方もいます。あと、イベントもたくさん開催されていますが、それはすべてお客さん発信の企画です。ミシンがあるので、ミシンを使って使い方を教えあってものを作るイベントをしたいとか、秋田の物産展を開きたいという方もいました。たくさんの方に使ってもらうことを受け入れられる器になっている。私たちが望む形に近づいていると感じています」。

街の人が使いやすく、集いやすい場所。洗濯機があることで、誰もが足を運びやすい雰囲気を感じられます。街の家事室として、そして美味しいコーヒーとご飯がある店として、これからこの街の風景に、良い連鎖をもたらし続ける予感を感じます。

最後に田中さんは「一階に人が集う場所があることで、それまで真っ暗だった道に、ひとつ灯りがともる。それだけでも小さな違いを生み出せたと思っています。これからも街にささやかでも、いい風景を作っていけたらと思っています」。

喫茶ランドリー

東京都墨田区千歳2-6-9 イマケンビル1階

営業時間:10時〜20時

http://kissalaundry.com/

編集後記

編集部がお邪魔した際も、二人のお子さんがランドリースペースで仲良く遊び、一人のお母さんはスタッフとして働きながら、もう一人のお母さんはお茶をしながら見守っていました。と思えば一方では、新聞を読むおじさまも…。 ここはもしかしたら理想の百貨店の縮図かもしれないとも感じました。

周囲と断絶されたVIPサロンも良いが、これからは、開かれた場所に集う人たちを見て、参加したくなるのかもね、なんてお話もありました。

滞在できる導線を自然と引くことで、様々な人たちを許容するお店づくりが求められているのだと思います。

(未来定番研究所 佐々木)

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