2022.01.21

未来命名会議<全9回>

第5回| テーブル家電

連載『未来命名会議』は、まだ言葉になっていないけれど、未来の定番になるかもしれない事象に名前を授けていく企画です。各分野に眠る事象を、その道の識者とF.I.N.編集部が対話しながら「命名」を行います。

第5回は「家電」について。家電+ライフスタイルプロデューサーの神原サリーさんにお話を伺いました。

(イラスト:megumi yamazaki)

これまでの家電には日々の家事をラクにする「時短」の要素が一貫して求められていました。しかし、コロナ禍により家で過ごす時間が長くなったことで、「家族でひと手間かけた料理を楽しみたい」「自宅でちょっと贅沢な食事を味わいたい」というニーズとそれを満たす家電が増えてきています。今起きているこの動きを私は「ネオ・丁寧な暮らし」と呼んでいます。

 

ネオ・ていねいな暮らしは、2010年代半ばからブームになった「丁寧な暮らし」のように全て手作りで丁寧にというこだわり派だけのものではなく、部分的にちょっとだけ丁寧に暮らすというもの。頼れるところは家電やテクノロジーに頼って、自分のこだわりや関心事の中から何か1つだけでも上質にしていくことを意味しています。

 

そんな暮らしのニーズを色濃く反映するのがキッチン家電です。そして、このネオ・丁寧な暮らしというニューノーマル時代の家電のキーワードは「ヘルシー」「おまかせ」「無駄なく」の3つだと私は考えています。

 

「ヘルシー」「おまかせ」を表す家電としては、エムケー精工の電気せいろ「TEGARU=SEIRO」が挙げられます。これを使えばタイマーをセットするだけで火加減の心配をせずにほったらかしで蒸し料理が出来上がります。蒸すことで野菜はビタミンを多く残せるし肉も柔らかくなる。しかも、テーブルの片隅に置けるような直径18cmのコンパクトサイズだからいちいちキッチンで調理する必要もありません。食卓にこのせいろを置いて食材を並べて蒸し上げるだけで、蒸したての食材をおいしくシンプルに楽しめるなど、ちょっと贅沢な気分を味わえます。

 

食材を「無駄なく」という意味ではレコルトの加熱式ブレンダー「ソイ&スープメーカー」がわかりやすいです。これを使えば、手作りするにはひと手間かかる豆乳が水を入れてボタンを押すだけで出来ます。しかも豆乳以外にも残り物の野菜と水や牛乳、鶏ガラスープの素、コンソメなどを入れたら簡単にスープも作れる。このようなフードロス削減を意識した機能は冷蔵庫をはじめ様々な家電にも多くなっています。食材を無駄にしないで美味しく食べ切る手立てになるという点で今後の潮流になると考えています。

 

このブレンダーは先述のせいろと同じように食卓に馴染む直径約10cm・高さ約21.6cmのコンパクトサイズで、一人暮らしや夫婦二人の家庭にぴったり。ネオ・丁寧な暮らしを送るための一人暮らし用の家電というのもトレンドの1つです。昨年12月に発売したハイアールの「ホットデリ」にしても、シャープのヒット商品「ヘルシオ ホットクック」が主にファミリー向け(※)だったのに対して一人暮らしにターゲットを絞っています。

 

※後に小容量タイプも発売

 

コンパクトサイズが多くなっているのは生活家電でも同じです。アックスヤマザキの「子育てにもっといいミシン」は幅29.4・奥行11.5・高さ26.5cm・重さ約2.1㎏と持ち運べるサイズ感。私もマットブラック一色のデザインと1万1000円(税込)というお手頃価格に惹かれて予約注文で購入した商品です。今はリビングの本棚に置いているのですが、インテリア性が高いのもうれしいポイントですね。

 

ACアダプターのほかに単三乾電池4本で使えるから持ち運びやすく、ダイニングテーブルに置いて気軽に使えます。ミシン初心者にとってあらゆる面でハードルが低い仕様になっていて、コロナ禍で品薄になったマスク作りをきっかけに大ヒットして各種デザイン賞を総なめにしています。

 

ミシンを使い家庭でものを作り大切に使い続けることは「無駄なく」にもつながりますよね。電気せいろや加熱式ブレンダーと同じで、自分が大事にしたい、一点だけ丁寧というこだわりを満たすためにもぴったりのアイテムです。

F.I.N.編集部は、神原さんのお話にあった「ネオ・丁寧な暮らし」という価値観を非常に興味深くお聞きしました。

ところで家電のトレンドと言えば、これまで「デザイン家電」や「おこもり家電」のように、●●●家電という言葉が生み出されてきています。本企画でも、それにならって次の家電のかたちを言葉にできないかと考えてみました。

 

少し贅沢な料理を味わうための家電だから「プチリッチ家電」と言ってみてはどうか。自宅で過ごす時間を豊かにするものだから「豊カ電」ではどうか。もしくは、食卓に置けるほどコンパクトな家電だから「ミニ家電」と呼んでみてはどうか。

 

このように命名会議を続ける中で出てきた言葉が、「テーブル家電」です。

コロナの影響もあり、家にいる時間をいかに豊かにしようかと改めて考えることも多くなった昨今、リビングやダイニングで過ごす時間が増えた人もたくさんいるのではないか。在宅ワークも増え、リビングで仕事をする人も実際増えています。つまり、家の真ん中にある「テーブル」で過ごす時間がこれまで以上に多くなり、調理家電やミシンのような趣味に寄り添う家電も、テーブルに集まってくるのではないかという仮説に基づいた造語です。

 

神原さんも「テーブル家電、確かに言い得ているかもしれませんね」と共感をいただいたネーミングです。

意味:ひと手間かかる作業を食卓で行えるコンパクトな家電。家族の中心であるリビングやダイニングのテーブルで使用することから、家族の団欒にも寄与する家電。

用例:「あのホットプレート、テーブル家電としては大きい」「一家団欒の時間には、やっぱりテーブル家電が必要だよね」

 

第5回目の未来命名会議。またひとつ、世の中の新しい事象に名前を与えることができました。日々の生活を彩る「テーブル家電」を手にして、少しでも豊かな時間を過ごせることを願って。その動向に、皆さまもぜひご注目ください。

Profile

神原サリーさん

家電+ライフスタイルプロデューサー

新聞社勤務、フリーランスライターを経て、家電+ライフスタイルプロデューサーとして独立。「企業の思いを生活者に伝え、生活者の願いを企業に伝える」べく、家電分野を中心に多数の連載コラムを持つほか、商品企画、コンサルティング等にも従事。東京・広尾に「家電アトリエ」を構え、キッチン家電を駆使したアトリエランチやYouTubeチャンネルなど、日々発信を行っている。

【編集後記】

長引くコロナ禍によって、家で活動する時間が増えると同時に自分を見つめ直す時間も増えました。現在進行形で、物理的制約を受けず利便性に特化した様々な商品・サービスが沢山生まれていることをひしひしと感じています。

ご紹介していただいた家電は「デザイン性」があり、家電がお部屋をちょっぴりお洒落にしてくれる「インテリア的要素」もありつつ、何にせよとても軽い!という共通点がありました。一家団欒の食卓で「テーブル家電」を使い、家族でちょっぴり贅沢な気分を味わう。家族との時間を見つめ直すきっかけにもなりそうです。

(未来定番研究所 小林)

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