2021.12.31

未来命名会議

第4回 哲キャラ

連載『未来命名会議』は、まだ言葉になっていないけれど、未来の定番になるかもしれない事象に名前を授けていく企画です。各分野に眠る事象を、その道の識者とF.I.N.編集部が対話しながら「命名」を行います。

第4回は「漫画」について。SNSで人気の漫画家やイラストレーターをプロデュースするMintoコンテンツプロデューサーの武本英里香さんにお話を伺いました。

(イラスト:megumi yamazaki)

最近の漫画では「癒し」にプラスαの要素を持つキャラクターが人気です。

 

代表的なのは「ちいかわ」。猫、うさぎ、ラッコなどの「なんか小さくてかわいいやつ」が出てくる漫画ですが、キャラクターの圧倒的な可愛さにプラスして、時折見せる厳しい世界観やクセのある表情などのシュールさがあります。ほかにも「ちこまる」や「コアラ絵日記」など、かわいいだけでなくどこか可哀想な要素を兼ね備える“不憫かわいい”キャラクターも増えています。

 

その背景には、SNSやアプリ、動画配信サービスなどの台頭によりコンテンツが爆発的に増えたことで、「悲しみ」「痛み」など自分の感情に深く刺さるものが選ばれるようになったことがあります。すごく「前向き」な性格よりも、悲しい感情も持っているキャラクターや作品のほうが共感し自己投影しやすいですよね。私自身、そうしたキャラクターのほうが印象に残りやすく、コンテンツプロデュースでも必ず負の側面を入れ込むようにしています。

 

アイドルと同じで、かわいいキャラクターはたくさんいます。でも、ファンから熱烈に支持されるアイドルほど、かわいくて強いだけではなく悲しい部分や本当は弱いみたいな部分を持っていますよね。漫画のキャラクターに置き換えても、そうした多面性を持っているというのは大前提で、さらに生い立ち、親・友達の影響、そこから出てくる発言と性格が一つの線にならないとコンテンツとしての強さが出てこないしヒットしません。

 

今の時代に負の側面が求められているのは、『週刊少年ジャンプ』の主人公像の変遷を見てもよく分かります。2000年代までは『ドラゴンボール』の悟空や『ワンピース』のルフィのように、自分にはできないことを表現してくれる憧れの存在が主人公でした。

 

一方で、近年の人気漫画は『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『チェンソーマン』など、どれも基本的にマイナスからスタートしています。「失われた30年」と呼ばれる時代を過ごしてきた今の子供たちは、きっと夢を見るということにリアリティを持てないのだと思います。

 

個人的に”不憫かわいい”というシーンの次は驚くほど我が道を行く漫画のキャラクターが出てくる可能性もあるのでは?と考えています。

 

その具体的な兆候として「コジコジ」の存在があります。20年以上前の漫画なのに近年再び人気に火がつきました。コジコジって見た目は癒し系ですが、すごく自分を持っていて我が道を行くキャラクターで「こういう考え方ができたらいいな」と思える本質的な発言をするんですよね。

 

先述の「不憫かわいいキャラ」と、コジコジ的な「我が道をいくキャラ」の台頭を見ると、もしかしたら今後は哲学的だったり、文学的だったりする漫画やキャラクターが増えてくるかもしれません。文学とは、人間ってこうだよね、と見つめる学問ですよね。

 

外食チェーンやサブスクにより「生きていくためのコスト」が極端に下がった今の時代は、生きるためにどうするかという悩みがなくなり、どう生きるのかを考える傾向にあることも関係してきそうです。

 

SNSで話題になった『100日後に死ぬワニ』も、いかに生きていくかの提案になっていましたよね。ニーチェの本や『君たちはどう生きるか』、太宰治の『走れメロス』などの文学が漫画化されてヒットするのも同じ理由だと思います。

 

今挙げた例は「文学の漫画化」ですが、漫画自体が文学的なエッセンスを含んでいくということも考えられるのではないでしょうか。

 

私たちMintoでは今、漫画をモチーフにミュージシャンが楽曲を書き下ろし、ミュージックビデオを制作・配信する「ヨムオト」という企画をやっています。この場合、漫画が音楽の原案を作っていると言えます。漫画は、もはや旧来の「漫画」にはない奥行きを備えている。このプロジェクトはそれを実証しているひとつの例かもしれませんね。

 

 

F.I.N.編集部は、武本さんの最後のお話にあった「文学的なエッセンスを含む漫画」について非常に興味深く感じ、これを取り巻く事象に名前を与えることにしました。

 

文学的な漫画だから「文漫」と言ってみてはどうか。もしくは、コジコジのように自分の哲学(フィロソフィー)を持っている主人公を「フィーロー」と呼んでみてはどうか。

 

文学的な漫画だから「文漫」と言ってみてはどうか。もしくは、コジコジのように自分を持っている哲学このように命名会議を続ける中で、武本さんに「分かりやすくていいですね!」というお言葉をもらったネーミングがありました。その名も、ずばり、「哲キャラ」。哲学とキャラクターを掛け合わせたシンプルなネーミングですが、本質を突いた発言・行動が読者を唸らせます。

意味:漫画に文学的なエッセンスをもたらす独自の哲学を持ったキャラクター

用例:「あの漫画の哲キャラのセリフ、毎回学びが深いよ」「新しく出てきた哲キャラは太宰と同じ行動原理だよね」

 

 

第4回目の未来命名会議。またひとつ、世の中の新しい事象に名前を与えることができました。今後、子供から大人まで楽しめる「哲キャラ」が増えて、より豊かな読書体験ができることを願って。その動向に、皆さまもぜひご注目ください。

Profile

武本英里香さん

Minto コンテンツプロデューサー

1993年奈良県生まれ。立命館大学産業社会学部スポーツ社会専攻。大手人材会社にて新規事業のHRテック立ち上げに携わった後、2020年wwwaap(現Minto)入社。SNSキャラクターのプロデュースやInstagram、Twitter、TikTokのコンテンツ企画と運用を行う。 ※wwwaapは2022年1月よりクオンと経営統合し、Mintoへ。

【編集後記】

日本は、アニメ・マンガのキャラクターの種類が世界アニメと比べて多いそうです。時流に合わせ、読者の気持ちに寄り添えるキャラクターを、作者たちは試行錯誤しながら、丁寧に作り出しているようです。

そんな作り手の繊細さが、読者の心に響くヒット作を生み出しているのかもしれません。哲キャラの次に登場する○○キャラも楽しみです。

 

(未来定番研究所 窪)

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