2022.03.22

未来命名会議

第8回| アレオレ観戦

連載『未来命名会議』は、まだ言葉になっていないけれど、未来の定番になるかもしれない事象に名前を授けていく企画です。各分野に眠る事象を、その道の識者とF.I.N.編集部が対話しながら「命名」を行います。

第8回は「スポーツ観戦」について。スポーツ・エンタメ業界のDXを推進するplayground 代表の伊藤圭史さんにお話を伺いました。

(イラスト:megumi yamazaki)

スポーツビジネスの国内外の事例を見る中で、僕は「応援の限界」を感じていました。日本のプロ野球でいえば、スタジアムの観客動員数はほぼ満席で、放映権のビジネスモデルのほか、リアルイベントの楽しみ方も追求され尽くされていてすでに頭打ち。ファンクラブにしても以前はそこでしか取れない情報が多くありましたが、今やSNSで選手やチームとの距離感が近づき、チケットを取るための手段になっているという状況が横たわっていました。

 

そのような業界全体の閉塞感から次の一手を模索する中で、技術変化として「Web3」が登場するとこの一年で一気にそちらへ流れ込んでいきました。Web3が盛り上がる契機となったのが、米プロバスケットボールNBAの「NBAトップショット」というサイトです。サイト上でNBAの選手や名場面の動画コンテンツがブロックチェーン技術による証明書付きのデジタル資産「NFT」化されると、高値で売買されました。Web3はブロックチェーン(分散台帳)技術によって実現する分散型のWeb世界なので、NetflixやDAZNなどのWeb2.0的なプラットフォームを介さず、スポーツチームやアーティストとファンという二者で直接やりとりできる。スポーツを含むエンタメと非常に相性がいいと言えます。

 

Web3を活用した5年先、10年先の変化の兆しはこのエンタメ領域から始まるはずです。具体的には楽曲や書籍、著作権とすべてがNFTで流通するようになり、その後に不動産取引や契約書の領域へと広がっていくと思います。

 

このようにWeb3時代に変遷する中で、スポーツファンは「応援する人」から「貢献する人」に変わるでしょう。すでに欧米ではすべてのメジャースポーツでNFT、トークンが発行され、その中で「ロゴの投票」「獲得選手の投票」、極端な例だと「アメフトの試合中の戦術の選択」「イベントプロデュース」など、新しい貢献型の取り組みが始まっています。

 

しかしながら、現在のNFTやトークン等の盛り上がりのほとんどが純粋な応援欲ではなく「値上がりするだろう」という投機欲によって支えられており、純粋な応援欲を持つ本当のファンは高騰しすぎたNFTやトークンを購入していません。投機欲で購入した人はもちろん「参加しよう」「貢献しよう」といった応援欲がないため、球団が本来の趣旨である貢献型の企画を実施しても閑散としたものになってしまいます。本質的な価値を伴わない今のNFTブームが廃れる未来はそう遠くないでしょう。ただ、むしろ本当の勝負はNFTブームが廃れてからで、将来的にはWeb3的なスポーツ観戦のスタイルが出てきます。それはゲームの世界でいう「Play-to-Earn(プレイ・トゥ・アーン)」です。

 

ゲームをプレイすればするほど、ゲームの中の財産が貯まり、それを換金できるから大金持ちになる。子どもの頃に夢見た世界がすでに始まっています。これと同じように、スポーツ観戦の中でもスポーツチームを支えたプロの応援団がお金を儲ける「Cheer-to-Earn(チア・トゥ・アーン)」の時代が確実にやって来ます。

 

例えばプロ野球ファンの中では、ロッテの応援は熱くてかっこいいと定評があります。噂ではかっこいい応援歌と迫力のある応援スタイルの応援のプロフェッショナルが加わったことがきっかけと聞きます。確かに90年代後半に応援スタイルや応援歌がかっこよくなり、(私もその一人ですが)ロッテファンがすごい増えたんです。後にそのプロフェッショナルはスカウトされて移籍し、他球団の応援がかっこよくなっていったといわれています。

 

でも、いまの応援のプロフェッショナルは全く儲かっていません。周りのファンから尊敬され、球団からは喜ばれ、チームに貢献しているにも関わらず。貢献しているなら正当な対価が支払われるべき、というのはファンの総意だと思います。ですから、NFTやトークンは今後、お金持ちが投機的に儲かるような世界ではなく、本当の意味で応援した者が評価されて、そこに対してきちんと還元されるような仕組みとして活用されていくのではないかな、と思っています。

 

熱心に応援してくれたファンに対価が還元される仕組みはまだ模索中ですが、直接的にお金を支払うというかたちにはならないと思います。なぜなら彼らは好きで応援しているわけで、それがお金のためになった瞬間、面白くなくなり応援しなくなります。ゲームにしても頭も時間を使うすごい労働なのにわざわざお金を払ってまでプレイしていますよね。でも、たぶん、お金払われるってなったら途端に冷めるんじゃないかな、と思うんです。

 

対価としてお金を支払うというよりは、チームが誕生したばかりの頃から観戦に行ったり、友達を連れたりなどして貢献していたという証明が価値になると思います。あるいは、広報活動を手伝っているとか、選手を口説いて発掘してきたでもいい。もともとプロ野球選手でドラフト外のすごい選手はファンが球団に推薦文を送って引き入れていたという時代もあるくらいですから。いずれにしても投機マネーが去った後に、本質的なチア(応援)のかたちが見えてくるはずです。近い将来、3年後くらいには「あの選手、オレが発掘したんだよね」ってアレオレ自慢を吹聴しながら観戦するファンをスタジアムのそこかしこに見かけることになるのではないでしょうか。(伊藤圭史さん)

F.I.N.編集部は、伊藤さんのお話にあった「プロの応援団がお金を儲ける『Cheer-to-Earn(チア・トゥ・アーン)』」の考え方を非常に興味深くお聞きし、名前を与えることにしました。

 

応援のプロフェッショナルが大金持ちになることにフォーカスして、「応援長者」はどうか。もしくは、ファンに特典が付く仕組みを「ファン得」と言ってみてはどうか。

 

このように命名会議を続ける中で、伊藤さんのお言葉にヒントをもらい「薄ら寒さがいいですよね(笑)」と盛り上がったネーミングがあります。その名も、ずばり、「アレオレ観戦」。「あの選手、オレが発掘した」「あのチームマーク、オレが一票入れたんだ」というアレオレ自慢を吹聴する様子をもじったネーミングです。

意味:スポーツチームのファンが自身の発掘した選手を自慢しながら観戦すること

用例:「あの人、アレオレ観戦が過ぎるよ」「応援席のアレオレ観戦が今日は一段と盛り上がっているなあ」

第8回目の未来命名会議。またひとつ、世の中の新しい事象に名前を与えることができました。今後、「アレオレ観戦」が広まり、スポーツ業界がさらに熱く盛り上がることを願って。その動向に、皆さまもぜひご注目ください。

Profile

伊藤圭史さん

playground代表取締役。上智大学卒業後、IBMにて戦略/ITコンサル業務を経験したのち起業し、2.5年で売却。 2017年、エンタメ業界のDXを推進するplayground 株式会社を設立。エンタメDXクラウド「MOALA」(SaaS)を展開し、電子チケットやライブ配信サービスをぴあ/吉本興業等に提供。究極の入場認証技術BioQRやスマホに押印できる電子スタンプ等、新技術開発にも注力。

【編集後記】

「応援した者が評価されて、そこに対してきちんと還元されるような仕組み」。伊藤さんのこの言葉に、”推し”がいる身として大変感激しました。対象に投じる金額だけでなく、費やす時間や提供する自身の労力やスキルも「応援」として可視化され、何らかのかたちで還元される。この仕組みが実現すれば、ファンにとって応援(貢献)のかたちが多様になる分、”推し甲斐”もますます感じるようになると思います。そして、なにかを応援することで得られる満足感がさらに高まれば、より充実した人生を送ることにもつながるでしょう。

まずはこの未来をなるべく早く到来させるべく、なにか応援できることはないかと考えを巡らせています。

(未来定番研究所 中島)