2021.02.16

「レジリエンス」も「オリジナリティ」も学校の外にある。 ストリートが育む、新しい学び。

私たちの学び場は、学校だけではありません。学生時代の放課後の遊びや、インターネット上の仲間たち。学校以外のコミュニティで学ぶあれこれが、後の人生に大きく影響を与えていることが多々あります。互いに密な関係を築くことで独自のスタイルを育んでいった歴史のあるストリートカルチャーには、学校では教えてくれない学びがたくさんあるのかもしれません。今回は、平日の夜でも大勢の利用者で賑うパーク〈TRINITY B3 PARK & SHOP〉を運営し、スクールの講師も務める佐藤圭介さんに「ストリートカルチャーから学べること」をテーマにお話しを伺いました。

放課後や週末の集合場所。

東京都板橋区には、夕方になると次々と人が集まってくる秘密基地のような場所があります。〈TRINITY B3 PARK & SHOP〉は、スケートボード、インラインスケート、BMXのパーク兼ショップとして、2013年にオープンしました。

各乗り物のデッキや自転車を抱えてやってくるのは、子どもから大人まで世代はさまざま。

「4,5歳の子どもから、最年長は70代までが集まるパークです」と語るのは、代表の佐藤圭介さん。2011年に埼玉県の戸田でショップを開き、移転のタイミングで実際にスポーツも楽しめるようにとパークを併設しました。

 

スケートボード、インラインスケート、BMXは3つを合わせて “B3スポーツ”と呼ばれています。佐藤さんは、施設名にもその呼称を入れました。この場所をつくったのはなぜでしょうか。

「B3スポーツは、文化とスポーツ両方の側面を持っています。以前はマイナーなものだったからこそ、始めたくてもやり方がわからないという方が多かったのも事実。その第一歩の手助けになりたいと思い、ショップを始めました。このスポーツは道具選びが、実はとても重要です。サイズや規格を自分にあったものにしないと、上達しないどころか安全に滑ることもできません。正しい知識を広めることで、B3スポーツを楽しむ人を増やしたいと思っています」。

 

週末にはスクールも開講しています。各ジャンルのプロの方が講師を務めており、毎回多くの人が受講する人気のプログラムです。

「特にスケートボードは、キッズの受講が多いです。昔は親御さんが好きだから     子どもにも習わせるパターンが多かったのですが、最近は流れが変わってきています。親御さんには何の知識もないけれども、子どもがやりたいと言うから連れてきたという方がほとんど。オリンピックの種目になるなどメディアに取り上げられることも増え、知名度も高くなったので興味を持つ子どもが増えているんだと思います」。

子どもの習い事としても、スケートボードは人気が出ているようです。

 

佐藤さん自身が、B3スポーツにはじめて触れたのはいつだったのでしょうか。

「僕は16 歳の頃に、インラインスケート(*1)を始めました。当時     はスクールなんてなかった     ので、ひたすらかっこいいスケーターのビデオをみて研究、練習を繰り返す毎日。滑る場所も今のようにたくさんはありませんでした。その後20代でBMX、30代でスケートボードを始め、先輩に教わりながら仲間と切磋琢磨してできるようになっていったんです。僕が独学で遠回りをした分、今の子たちにはスクールや遊べる場所が選べて、より安全に、より効率よくB3スポーツを楽しんでもらえるようになったらいいなと思っています」。

佐藤さんは、ストリートのスポーツがメジャーになってきている潮流を感じています。今後B3スポーツが浸透していくためにも、正しく広めることの大切さを実感しているそうです。

 

*1 インラインスケート

アイススケートの刃の部分がローラーになっているスケートのこと。コンクリートの上などで滑るのが一般的。

B3スポーツで養える力とは。

生徒たちと接するうえで最初に佐藤さんが教えること、それは礼儀です。

「このパークはそこまで広くはないので、限られた空間のなかで多くの人が気持ちよく滑るためにはルールやマナーが必要不可欠。順番を守る、挨拶をしっかりするといった基本的なことを大切にしてほしいです」。

人との繋がりが重視される場所だからこそ、礼儀を持って人と接することを忘れてはいけません。

「B3スポーツは基本的には個人プレーなので、ひとつの技を完成させるためにひたすら自分で練習を繰り返します。トライ&エラーの繰り返しですし、派手に転ぶこともあり失敗には痛みが伴う。自分に打ち勝たないと成功できないので、精神的にも鍛えられます。そして個人プレーだからこそ、周りの人との関係性がとても大切。誰かが技を決めたときに、他の人が自分のことのように喜んで盛り上がるんです。仲間の存在がなければ、なかなか続かないスポーツだと思います」。

佐藤さんは、この場所で技に失敗したときの悔し涙、完成したときの喜びの涙や笑顔、たくさんの表情を見てきたといいます。そして〈TRINITY B3 PARK & SHOP〉 は、3種のスポーツを同時に楽しめるパーク。スケートボードを滑りに来た人がBMXに興味を持つなどより幅広い交流ができる場所になっています。年齢も体格差もハンデにならないスポーツだからこそ、年代も住んでいる場所も違う人たちが、B3スポーツを通して交流が生まれる拠点になっています。

そしてもうひとつ、B3スポーツで鍛えられるのは「想像力」だといいます。

「B3スポーツは技の完成度だけではなく、技の独創性や、技と技の繋ぎ方で表現するスポーツです。大会などでは、決まった時間のなかで難易度とオリジナリティが評価されます。技の習得はもちろんですが、自分で表現を生み出すことも必要なんです」。

B3スポーツの未来。

「かっこいい」という憧れから始める人が多いB3スポーツ。それは心と体を鍛えるだけでなく、人との交流を大切にすることまで教えてくれるものでした。学校以外の場所でコミュニティをつくる。スポーツに熱中する。自由に自己表現をする。そんな力が自然と身に付くのでしょう。

「単純に楽しさや喜びを得るためにスクールに通う人たちばかりですが、結果的にそれぞれ何かを学んでくれていると嬉しいです。〈TRINITY B3 PARK & SHOP〉で身につけた礼儀やマナー、適応能力、創造性、コミュニケーション能力、目標に向かって努力することなど、ここで学んだことが社会でもかならず役に立つ時がくると思います。5年後には年代も性別も関係なく、このスポーツを楽しんでくれる人がもっと増えていたらと願っています。現在の人気ぶりを見ていると、ゆくゆくは学校の部活になるくらいメジャーなスポーツになっていくかもしれませんね」

人間の総合力を育めるB3スポーツだからこそ、今まで自然と培われてきた文化的な側面と同時に、スポーツとしての注目度もますます高くなるかもしれない。これからますます競技人口は増えていくだろうと佐藤さんは考えています。

 

取材中も幅広い年代の方がたくさん集まってきて、パーク内には滑る音が響いていました。

「この場所から、オリンピックに出場するような選手も出てくるかも」そう言って佐藤さんは笑います。活気に溢れた〈TRINITY B3 PARK & SHOP〉から、未来のスターが生まれる日も遠くはないかもしれません。

〈TRINITY B3 PARK & SHOP〉

住所:東京都板橋区舟渡4丁目12−20
営業時間:14:00〜23:00

定休日:無し
Website:https://www.trinitytokyo.com/

Instagram: @trinitytokyo
YouTube : TRINITYTOKYO skate&bmx

編集後記

ストリートカルチャーとは無縁の人生を送ってきたわたしにとって、TRINITYさんのパークはとても新鮮でした。スケートボードに乗った小学校低学年と思しき子たちが高低差の激しいコースに繰り返し挑み、技磨きに没頭している様子は、見ているこちらの背筋が正されるような気持ちになります。

佐藤さんは「ストリートスポーツの結果は全て自分次第」とする一方で、「仲間のつながりも大切」とおっしゃっていました。それぞれがスキルを高めようと鍛錬している姿にお互いが鼓舞され合うからこそ仲間の存在も大きいのだな、とパークの小学生たちの姿から佐藤さんの言葉の意味を垣間見ることができた気がします。

(未来定番研究所 中島)