2022.01.28

目利きたちと考える、季節の新・定番習慣。<全10回>

第9回| 大掃除はゴールデンウィークに。家事ジャーナリスト・山田亮さん。

日本には、年間を通して伝統や文化に根付いた行事や習慣が多く存在します。中には、他の行事と比較すると、人々の関心が薄まりつつある行事も少なくありません。「未来定番研究所」では、そうした伝統行事を未来に繋いでいくためにも、各界で活躍している方々にお話を伺いながら、新しい行事や習慣の在り方を探っていこうと思います。

 

第9回目にお招きしたのは、家事ジャーナリストの山田亮さんです。自らを“スーパー主夫”として一家を支える山田さんに、5年先の大掃除がどうあるべきか、意見を伺いました。

(文:大芦実穂/イラスト:オオバヤシコマキ)

コロナ禍で、家を綺麗に保ちたいという人が増えたように思います。〈ダスキン〉が毎年実施している大掃除予定調査では、2021年の年末に“大掃除をする予定”と回答した人が72.1%でした。在宅時間が増え、身の回りを清潔にしておきたいと思うのは必然ですよね。僕も最近は、リモート会議中に映る背景部分にグリーンを置くなど、インテリアにも気を遣うようになりました。

 

掃除にはいい効果がたくさんあります。まずは、成果が見えやすいということです。一般的な会社の仕事では成果が見えにくいこともありますが、掃除なら一目瞭然。拭いたところが綺麗になりますからね。また、人によっては現実逃避にもなります。僕の妻は原稿の締め切りが迫ってくると、急に鍋磨きを始めるんです(笑)。やるべき仕事に向き合うための助走をつけるという意味合いもあるかもしれません。それから、忘れてはならないのが、掃除をすると「気持ちがいい」ということです。すっきりして、マインドのリセットにもなります。

 

大掃除にはどんな意味合いがあるんだろう、と考えてみたのですが、一番は儀式的な要素が大きいと思います。1年の汚れを落として、気持ちよく新年を迎えたいですから。ですが、俳句の世界では、大掃除は「春」を表す季語なんです。つまり2月頭から5月頭くらいまでの、立春から立夏を指しているんですね。ではなぜ大掃除=年末になったのでしょうか。答えは「専業主婦」の出現だと思います。夫は働きに行き、妻が家の中を守るというかたちが一般的になり、年末くらいしか家族が揃う機会がないので、普段はできないような大掛かりな掃除は年末にやろう、ということになったのではないでしょうか。

ですが、真冬に大掃除というのは合理的ではありません。なぜなら、冬は油汚れが落ちにくいし、寒さで体が固まって、怪我をするという恐れもあるからです。寒さが厳しいヨーロッパなどでは、大掃除は雪解けを待った春にやるのが一般的です。北日本でも雪が積もっているうちは掃除ができないので、春にやるところもあります。つまり、大掃除は冬にやるべきではないんです。

 

そこで僕が提唱したいのは、ゴールデンウィークかシルバーウィークに大掃除をしよう、というもの。初夏か秋の連休になるわけですが、12月末よりは暖かいので、換気扇などの油汚れも比較的落ちやすくなります。窓拭きもびゅうびゅう冬の風が吹く中でやりたくないですよね。暖かければ、水遊び気分で子どもも積極的に掃除に参加してくれるかもしれません。それに春は花粉や黄砂も飛来するので、冬に窓や網戸を掃除したところで、またすぐに汚れてしまいます。やはり春が過ぎた後にやるべきでしょう。ゴールデンウィークで休み過ぎてしまい、仕事に戻りたくないという人も多いのではないでしょうか。ですから、ゴールデンウィークの終盤に大掃除をすることで、徐々に仕事に戻るリハビリにもなると思います。5月病が少しは減るかもしれません。

例えば、ゴールデンウィークに大掃除、年末は中掃除、普段を小掃除とするのもおすすめです。冬は玄関やトイレなどの狭いエリアを集中的に掃除し、外掃除や油汚れが目立つところはゴールデンウィークに、そして片付けはこまめに行えば、年間を通じて無理なく家を綺麗に保てると思います。せっかくなら、大掃除は家族や仲間などと一緒にやってみてほしいです。ひとつの目標に向かって共同作業することで絆が生まれます。なかなか会えない昨今だからこそ、「ゴールデンウィーク大掃除」を一大行事にしてみてはいかがでしょうか。

Profile

山田亮さん

1967年、香川県高松市生まれ。家事ジャーナリスト/スーパー主夫/社会福祉士/佛教大学非常勤講師。妻は外で働き、夫は主に家事・育児を担当するという独自のライフスタイルを実践し、“スーパー主夫”の先駆者として注目を集める。全国の自治体や企業などで男女共同参画、ワークライフバランス、子育て支援、人権啓発についての講演を行っている。著書に『プロ主夫山田亮の手抜き家事のススメ』(宝島社)がある。

https://rakukajiseminar.com/

【編集後記】

子どものころから家庭でも学校でも年末の大掃除は当たり前で、子どもとしては全く心躍る要素のないものでした。

新年をきれいに迎えたいという心理は理解するものの、そもそも掃除に適した時期ではないという山田さんのお話がとても腑に落ちました。

普段から小さい掃除をこまめに行い、大掃除は心を整える一大イベントとしてゴールデンウィークに楽しく行われている未来。とても面白そうです。

 

(未来定番研究所 織田)