二十四節気新・定番。
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2021.08.13
目利きたちと考える、季節の新・定番習慣。<全10回>
日本には、年間を通して伝統や文化に根付いた行事や習慣が多く存在します。中には、他の行事と比較すると、人々の関心が薄まりつつある行事も少なくありません。「未来定番研究所」では、そうした伝統行事を未来に繋いでいくためにも、各界で活躍している方々にお話を伺いながら、新しい行事や習慣の在り方を探っていこうと思います。
第5回目にお招きしたのは、線香花火を中心に、デザイン性が高く、贈り物や観賞用としても親しまれる「おもちゃ花火*」の製造・販売をしている〈筒井時正玩具花火製造所〉の三代目・筒井良太さんです。筒井さん曰く、線香花火こそ、未来においても「定番」であり続ける花火なのだとか。
*=手持ち花火など、個人で楽しめる花火のこと
(イラスト:かとまり)
線香花火は、「一番地味だが、一番派手な花火」と言われています。手持ち花火は燃焼だけで終わってしまうのですが、線香花火は「燃焼」の後に「火玉」ができ、さらにパチパチと輝く「現象」へと変化します。この燃え方には、蕾、牡丹、松葉、柳、散り菊という花の名前もついているんですよ。気象状況や持ち手のテクニックによっても、火花の出方が変わるので、ちょっとした差でいろんな表情が楽しめます。広い場所を必要とせず、大きな音も出ないので迷惑をかけることも少ない線香花火は、時代が変わっても愛され続けるのではないでしょうか。そこで今回は、進化しつつある線香花火のかたちや、構想中のアイデアについて紹介します。
■ギフト花火
私たちの作った花火のデザインを気に入ってくださる人が多いからか、お中元や大切な人へのギフト、自分へのご褒美等に買われる人が増えています。中でも、手すき和紙を草木染めで染料し、花びらのように手寄りした「線香花火 筒井時正」シリーズや、クジラや龍などの形をした「どうぶつ花火」などは発売当初から人気の商品です。ギフトの可能性に気づいた私たちは、バラ売りの手持ち花火などをボリューム重視で詰め込んだ「お取り寄せ花火」というのも作りました。簡易紙バケツと着火剤、マッチがセットになっているので、届いたらすぐに花火ができるようになっています。
ちなみに、おもちゃ花火は、10年以上衰退の一途をたどっていたのですが、ここ数年でその価値が見直されてきています。日本のおもちゃ花火産業が衰退していた理由のひとつに、海外製の安い花火に市場を奪われていたことが挙げられます。我々は、海外製の花火と差別化するため、見せ方や伝え方を工夫することを学び、デザイナーと協働して自社の花火の新しい世界観を作り出していきました。
■循環型花火
最近では、線香花火の原材料から作る取り組みも行なっています。関西を中心に古くから親しまれてきた藁(わら)を使った線香花火というものがあり、これまでは米農家の方々に藁の部分だけ提供いただいていました。ですが、せっかくならば米づくりから始めてみようと、4年前から稲作事業に着手しました。稲を刈り取ったらすぐに乾燥させ、次に藁芯を抜くのですが、その際には障害者施設の方や刑務所に服役中の方に手伝っていただいています。藁の安定的供給はもちろんですが、自分たちが育てたお米が食べられるのは嬉しいですね。
■鎮魂花火
現在実験段階ですが、廃材を使った線香花火も企画中です。例えば、重要文化財に使われていた木材や、思い入れのある木などを炭化し、火薬の原料として再利用しようと考えています。他にも、古くなって行き場のなくなった千羽鶴などを紙に戻して、その紙を使って線香花火を作るなど、いろいろと「鎮魂」の種類はありそうです。火を焚くというのは、人間にとって意味のある行為。花火に火をつけることで、鎮魂の意味を高められたらいいですね。
■オーダー花火
例えば、捨てるに捨てられない手紙などを持ち込んでいただいて、線香花火の内側に巻き込むなんてこともできるかもしれません。ただしその際は、漉き直すなどして、薄葉紙に仕上げるような加工は必要かとは思います。現在は、企業さんなどを対象に、最低5000本からオリジナル線香花火の製造を請け負っているのですが、個人ベースでも対応できたらいいですよね。パーソナライズドされた花火はより特別感が増すんじゃないでしょうか。
新しい商品の開発はもちろんですが、私たち〈筒井時正玩具花火製造所〉では、おもちゃ花火を周知してもらう活動にも取り組んでいます。昨年は、9月の毎週土曜日の夕方に、 ギャラリー前で花火セット付きの区画を提供する「はなびあそび」という花火体験ワークショップを開催しました。今年の日程は未定ですが、数回開催予定です。全国の煙火製造・販売会社などが加入する〈公益社団法人 日本煙火協会〉でも、3 年ほど前から「おもちゃ花火教室」という体験教室を開催し、手持ち花火文化を存続させようと活動しています。最近は、規制によって屋外で花火ができないところも多く、花火遊びをしたことがないお子さんも増えているんです。そこで、花火を愉しむための宿「川の家」を福岡県八女市にオープンさせました。川のほとりに建つ築70年ほどの民家を改装し、花火のほかホタル観賞などもできます。
花火は夏の風物詩。風鈴が鳴る縁側で、スイカを食べながら線香花火、なんて聞いただけで「日本の夏」という感じがします。大切な夏の文化を後世に伝えるためにも、まずはつくり手である僕らが楽しんで花火づくりを続けていきたいですね。
筒井良太さん
1973年、福岡県生まれ。〈筒井時正玩具花火製造所〉三代目。妻・今日子さんとともに線香花火のデザインを再構築し、おもちゃ花火業界に新しい風をもたらす。以降、花火文化を次世代に継承するため、ワークショップや商品開発などさまざまな取り組みを続けている。
【編集後記】
誰しもが夏の夜に体験したことがある花火。花火大会で大きな花火を見上げるものいいですが、自分の手元で温かい光を放つ線香花火はなんとも言えない風情があります。
近年おもちゃ花火の需要が伸びているのは、身近なレジャーとして、また心を落ち着ける火の作用が求められているのだと思いました。
伝統的な製法で作られる花火に、デザインやメッセージ性を付加することで、ギフトという新しい花火の楽しみた方を提案されるなど、真摯に花火に向き合う筒井さんのお話を聞いていると、花火がしたくなってきました。
みなさんも線香花火をゆっくり見つめてみませんか?
(未来定番研究所 織田)
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第5回| 線香花火職人・筒井良太さんに聞く、手持ち花火の未来。
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