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2021.10.08
目利きたちと考える、季節の新・定番習慣。<全10回>
日本には、年間を通して伝統や文化に根付いた行事や習慣が多く存在します。中には、他の行事と比較すると、人々の関心が薄まりつつある行事も少なくありません。「未来定番研究所」では、そうした伝統行事を未来に繋いでいくためにも、各界で活躍している方々にお話を伺いながら、新しい行事や習慣の在り方を探っていこうと思います。
第6回目にお招きしたのは、国立天文台天文情報センター普及室長の縣 秀彦(あがた・ひでひこ)さんです。書籍やラジオ、動画等を通じ、天文学の魅力を発信している縣さんに、未来のお月見の可能性について伺いました。
(イラスト:小林寛)
日本人というのは、世界的にみても、月が好きな民族なんです。十五夜の後、およそ一か月後に十三夜を祝うのは、世界でも日本だけです。十五夜はまん丸の月ですが、十三夜は満月前のぶどうの房のような形の月。侘び寂びの文化なので、十三夜の月も愛でるのではないかと言われています。それから、日本にはプラネタリウムが350館以上あり、これはアメリカに次いで多い数字です。年間では950万人以上の人がプラネタリウムに足を運んでいるんですよ。
そもそも現在のお月見文化はどこからきたかというと、平安時代に中国からきた習慣です。中国では今でも中秋の名月(十五夜)が盛大に祝われ、月餅(げっぺい)というお菓子を食べます。日本では穀物の実りを感謝して、お団子やすすき、栗や芋などをお供えしますよね。最近では、スーパームーンや皆既月食がプチ流行し、また月に注目が集まっているように感じます。
月と人類との関係を見ていくと、これからは月に人間がちょくちょく行く時代になると思います。1969年にアメリカのアームストロング船長のアポロ11号が人類で初めて月面着陸をしたことは有名ですよね。2023年には、イーロン・マスク氏が率いる宇宙関連企業「スペースX」が月観光旅行を計画しています。これに参加するのが日本の起業家の前澤友作氏です。いよいよ民間人による宇宙旅行が現実化してきましたね。また、2024年には、約50年ぶりに人類が月に降り立つ予定です。これはNASAによる「アルテミス計画」。この計画では、月を周回する国際宇宙ステーション「ゲートウェイ」を建設し、持続可能な月面調査を行うと発表されています。また、アルテミスとは、ギリシャ神話で太陽神アポロの双子の兄妹である月の女神のこと。月に着陸する最初の2名のうち、1名は女性の宇宙飛行士が含まれることになっています。将来はこのゲートウェイを利用し、火星を目指すことも視野に入れているので、あと数年後には月に人がいることは珍しくないという状態になるでしょうね。
月にいる人間からは、地球見(ちきゅうみ)もできます。地球からはもちろん月が見えますので、お月見の晩には双方間で眺め合うということが叶いそうですね。今から約30年前には、NASAの探査機ボイジャー1号が、約60億km先にある冥王星の軌道付近から地球を撮影することに成功しました。その時の写真は「ペイル・ブルー・ドット(淡く青い点)」と呼ばれています。月と地球の距離は38万kmなので、このときよりずいぶん短くなります。さすがに地球にいる人までは映りませんが、月からの「セルフィー」というのも楽しい催しになりそうです。どういうことかと言いますと、例えば、毎年十五夜になったら、月と地球をライブで繋ぎ、月にいる宇宙飛行士が「今から地球を撮りますよ〜」と声をかけて撮影。人の姿は写っていなくとも、その星の上に確かに自分は存在していますよね。毎年十五夜のある時間になったら、世界中の人が月に手を振るなんて面白そうじゃないですか? 地球全体のイベントになるかもしれません。それに、月から撮った地球の写真を見たら、「自分たちは地球人なんだ」ということを再認識できるのではないでしょうか。アポロ8号が月面から昇る地球を撮影した時、地球のか弱い姿にみんなびっくりしました。地球は本当に丸くて小さくて壊れやすいものなんだとわかったんです。その理解がなかったら、地球の環境問題はもっとひどくなっていたでしょうし、SDGsやサスティナビリティという概念はあり得なかったかもしれませんね。同じ星に住む仲間なのに、戦争や政治でギスギスすること自体ばからしいことなんです。月は世界中どこからでも見ることができます。お月見や地球見を通して、分断されがちな世界に連帯感が生まれたらいいなと思っています。
縣 秀彦さん
1961年、長野県出身。教育学博士。東京学芸大学大学院修了後、中学・高等学校教諭を務め、1999年より国立天文台勤務。2003年より普及室長。宙ツーリズム推進協議会代表、日本天文学会の役員等も務める。著書に『面白くて眠れなくなる天文学』(PHP研究所)、『ヒトはなぜ宇宙に魅かれるのか―天からの文を読み解く』(経法ビジネス新書)、『日本の星空ツーリズム 見かた・行きかた・楽しみかた』(緑書房)など多数。NHK<ラジオ深夜便>に月1回出演中。
【編集後記】
人によっては気に掛けない人もいるかと思いますが、何気に空を見上げた時に月を見つけて、和む方も多いのではないでしょうか。
懸先生のお話は地球規模(これでも十分大きいですが)を超えた、壮大なお話で夢や未来への希望に満ち溢れ、聞いているだけでワクワクする内容でした。
十五夜に世界中の人が月に手を振る未来、それを実現するために、自分たちが何を選び・実行していく必要があるのか、改めて考えさせられました。
皆さんも月を眺めながら、地球の問題について思いを馳せるのはいかがでしょうか。
(未来定番研究所 織田)
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第6回| 〈国立天文台天文情報センター〉縣 秀彦さんに聞く、未来のお月見。
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