二十四節気新・定番。
2020.06.15
アート活動を経て、家業である鎌倉・大船にある杉本薬局を受け継いだ、3代目店主の杉本格朗さん。漢方をより身近に感じてもらうため、自身が学んだ染色の技術を生かし漢方の生薬を使った染め物や、お茶や薬膳スープなどの漢方商品の開発、心と体のつながりを伝えるワークショップなど、さまざまな形で漢方のある暮らしを提案しています。そんな杉本さんに、未来の生き方とメンタルケアについてお話を伺います。
見て、知って、触れて欲しい。
漢方薬の素晴らしさ。
F.I.N編集部
杉本さんが漢方薬局のお仕事以外に、ワークショップなどの活動を始めたきっかけについて教えてください。
杉本格朗さん(以下、杉本さん)
僕が漢方の勉強を始めたのが25〜26歳くらい。勉強すればするほど、漢方薬の効能はもちろん、奥深さや素晴らしさに改めて気づかされました。同時に、なぜみんなもっと漢方薬を使わないんだろう、きちんとした形でもっと知って、触れる機会を作るにはどうすればいいだろうかと考えるようになったのがきっかけです。僕は物心ついた時から漢方薬を飲んで育ったので馴染みがありますが、飲んだことがない人は、「漢方薬局は敷居が高い」「苦そう」「効果を感じるまで時間がかかる」といったイメージを持つ方が多いと思います。最初はとにかく友人たちに漢方の良さを話していたのですが、20代にはなかなか響かなくて。それが、だんだんとみんな年齢を重ねたり、世の中に少しずつ自然療法が知られてきたりして、ワークショップやトークイベントなどに呼んでもらうことや一緒に何かやろうと声をかけてもらうケースが増え、今に至ります。
F.I.N編集部
世の中の風潮も相まって、活動の場が広がったのですね。薬局ではどんなお客さまが多いですか?
杉本さん
女性が圧倒的に多いのですが、最近では男性も増えています。漢方薬局は内科、眼科、婦人科など全て受け付けているので、症状も多岐にわたりますが、最近では、冷えや腰などの痛み、皮膚湿疹などの相談でいらっしゃる方が多いです。あとは、毎日忙しく夜遅くまで働くのが当たり前で、イライラしてしまう、眠れないといった悩みの方も増えています。そういう方のほとんどは、気になりながらもそれが当たり前になっていて、改善したいと思いつつなんとかやり過ごしているという状況です。また、今は新型コロナウイルスの影響による生活スタイルの変化で、精神面を整えるのが難しい状況でもあります。散歩をしたり運動したり、歌を歌ったりできると、気分転換になっていいですよね。先行きや経済的な不安などで、イライラしたり、気持ちが不安定になったりするという方も多いと思います。
心と体は繋がっている。
メンタルケアで、毎日を健やかに。
F.I.N編集部
毎日を健やかに暮らす為に、なぜメンタルケアが必要なのでしょうか?
杉本さん
心と体は一体と考える東洋医学では、五臓六腑と感情がリンクしていると考えられています。例えば、怒りと肝臓、喜びと心臓はリンクしています。内蔵と目や鼻、爪といった体の器官も、リンクしています。何か嫌なことがあったあとに、眠れなくなった、食欲がなくなった、お腹が痛くなったという人や、引っ越して知り合いが周りにいない状態になって体調が悪くなったなど、症状が出たきっかけが精神面というケースは多いんです。
F.I.N編集部
心と体はリンクしているのですね。両方の不調に対処するために、大切なことを教えてください。
杉本さん
病院に行くほどではないと感じる不調ってありますよね。そういう時こそ、漢方薬局を活用してもらいたいと思います。僕自身も、26歳くらいから薬局に入って、出来ない自分に苛立つことも多く、フラストレーションが溜まっている時期がありました。そういう時に、気持ちを落ち着かせてくれたり、気分を高めてくれたりするような漢方薬に助けられた体験があるので、お客さまの話を聞いてとても共感する部分もあり、自分の体験なども交えながらおすすめしています。大切なことは、自分の体の癖を知っておくこと。嫌なことがあるとお腹が痛くなりやすい、毎年この時期にこんな症状が出るなど、自分の体の癖を知っておくと、予測して事前にケアすることができます。そのために、体のことを何でも相談できる薬局や病院を持つことも、これからは必要なことだと感じています。
F.I.N編集部
杉本さんの日々の習慣で、メンタルケアになっていることを教えてください。
杉本さん
1つは、「しっかり眠れる環境を作る」こと。よく眠れて、朝スッキリ起きられて、ご飯が美味しく食べられるって、幸せですよね。自分の体のいい状態がわからない人は、まずはそこを目指すといいと思います。眠れる環境作りというと、例えば、携帯を寝る直前まで見続けない、部屋の明かりを白熱灯に近いものを使う、湯船や食事のタイミングなど、気をつけるべきことはたくさんありますが、すべて完璧に実践できないのが現実です。だから無理にやろうとせず、僕は眠りの質を上げてくれるような漢方薬に頼っています。もう1つは、「自分のカウンセラーを1人持つ」こと。もう10年くらい同じ人に相談しています。カウンセラーは、まだ日本では馴染みがないかもしれませんが、欧米ではもっと気軽に相談できる環境が整っていますよね。
F.I.N編集部
新型コロナウイルスの影響で、生活がガラリと変わった人も多いと思いますが、今後増えそうな心と体の不調はありますか?
杉本さん
在宅で仕事が出来てしまうことで、通勤をしなくなるし、体を動かす機会が減る可能性があります。食べる量は変わらないのに、動かないので代謝が落ちて、生活習慣病になるというケースは増えるかもしれません。精神面に関しては、時間のコントロールをきちんとしないと、夜遅く寝て朝遅く起きてしまい生活リズムが変化する恐れもあります。それによって自律神経も乱れる可能性もあるので。心も体もケアしていく必要がありますね。
F.I.N編集部
日常で具体的に気をつけるべきことはありますか?
杉本さん
国内外問わず、人が繋がって仕事がしやすくなり、よりやりたいことにチャレンジできるようになるという良い面はあるけれど、パソコンやスマホの画面を見すぎている人も多いと思います。目が疲れて、それによって頭痛がするといった不調も考えられます。目の周りの筋肉や神経に影響が出たり、目の疾患は増えてくるかもしれません。漢方の世界では「五労」といって、生活習慣が内臓に影響を与えるという考えがあります。例えば、目を酷使すると、心臓に影響を与えて、精神が不安定になりやすくなるという感じです。また長時間座り続けていると消化器系に悪影響だとも言われています。目を休ませるケアはもちろん、精神や胃腸を整える工夫や漢方薬も大事になってくると思います。
心の不調=体の不調
もっと共感して、寄り添える社会に。
F.I.N編集部
5年先の未来について、どう考えていますか?
杉本さん
日本では、メンタルの不調に対して「弱者」「自分に甘い」という考えがどうしてもあります。でもこれは「心の苦痛」。足や腰が痛いというのと同じことなんです。目に見えないので他人に気づかれづらいですが、もっと理解されるべきだし、もっと心の不調に共感できるようになっていった方がいいのかなと思います。カウンセラーが増えていくとか、メンタルケアの話が気軽にできる世の中になっていって欲しい。バーやレストランを紹介し合うのと同じくらい、「あなたのカウンセラーは誰?」と、当たり前に話せるようになるかもしれません。医療においても、個々人に合うものを提供、選択できる社会が理想です。日常で漢方薬などの自然の力を借りる健康法を選ぶ人が少しずつでも増えてくれるといいですね。
杉本格朗さん
1950年創業、杉本薬局(鎌倉市大船)の3代目。登録販売者。大学でテキスタイルデザインや現代アートを学ぶ。敷居が高いイメージの漢方をもっと身近に感じてもらおうと、さまざまなイベントに参加し、漢方にまつわるワークショップやトークイベントを行っている。また、生薬を使ったお茶やスープなど、商品開発にも携わっている。
杉本薬局
編集後記
カラダとココロは一体であるという「五行説」のお話がとても印象に残りました。目を使いすぎたり、気を使いすぎたり、自分の中のどこか一部を酷使しすぎてしまうと、カラダもココロも疲れてしまいます。「ZOOM疲れ」なんていう言葉もよく聞くようになった昨今ですが、これも目やココロを使いすぎた結果、バランスが崩れて生じてくる疲労かもしれません。自分の中の一部だけを使いすぎるのではなく、全体の“バランスを整える”ということが、これからの時代を健やかに生きていくためのキーワードになってくるように思いました。
(未来定番研究所 菊田)
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