2020.11.20

わたしが通いたいお店。<全6回>

第5回| グラフィックアーティスト・ステレオテニスさんの場合

インターネットの普及により、どこにも出向くことなく、欲しいものが何でも手に入るようになった今の時代。一方で、「あの店員さんのおすすめを聞きたい」「このお店に行けば、必ず欲しいものに出会うことができる」などの理由で、どうしても足を運んでしまうお店が、誰にでもきっとあるのではないでしょうか。各界で活躍する方々に、頻繁に足を運んでいるお店をお聞きすることから、未来に残したいお店について一緒に考えていきます。

 

今回お招きしたのは、グラフィックアーティストのステレオテニスさん。80年代のノスタルジックな時代感覚と、現代のリアルさを共存させたデザインを特徴とする数々の作品は、多くのアーティストや企業から支持を得ています。そんなステレオテニスさんが足繁く通うお店とはどんなところでしょうか。

門前仲町の駅を出てすぐのところに、大きなのれんが印象的で、店独自の“掟”が逆に心地いい居酒屋、〈魚三酒場(うおさんさかば)〉があります。新鮮な魚とお酒が低価格で楽しめる庶民的なお店で、門前仲町方面に行く時は帰りに寄れるように予定を組むのがお決まりのパターン。あくまで店主優先で、決してお客さん第一主義ではないのが、このお店の大きな特徴です。暖簾をくぐったら、すぐに声を掛けるのではなく、まずはそこで待たなければいけないのが〈魚三酒場〉の掟。お店の方がフォーメーションを組んでくれるまでは勝手に席に座れません。席に座ったら、メニューを頼むタイミングも従業員の隙を見てこちらが合わせるのが鉄則です。他にもさまざまな暗黙のしきたりやルールみたいなものがあって、それに従っている自分が好きなんです(笑)。おすすめは「カップ酒」と「ピー天」。コップの下に小さいお皿が敷いてある日本酒と、ピーマン天ぷらのことなんですが、こういう独特の料理の呼び方があるのもいいですよね。常連さんや他のお客さんが頼むところを観察して、「あ、そうやって呼ぶんだ!」っていう発見もありました。

ノスタルジックな風情や歴史が感じられるお店ですが、決して気取っていないところも好きですね。時代が変わって、お客さんが変わっても、お店のポリシーが変わらない。そんなところが、普段の制作活動における自分の美学にも通ずると思っています。この〈魚三酒場〉と同じように、時代に添いながらも、自分らしさを大切に続けていきたいなと思います。

魚三酒場 富岡店

住所:東京都江東区富岡1-5-4

電話番号:03-3641-8071

営業時間:16:00〜22:00

定休日:日曜・祝日

Profile

ステレオテニスさん

グラフィックアーティスト/アートディレクター/イラストレーター。80年代の時代感を現代と融合させたデザインが特徴。電気グルーヴや木村カエラ、ハローキティ等さまざまなアーティストへのグラフィック提供やコラボレーションをしている。2017年より東京と九州の2拠点で活動。

Website:https://www.stereo-tennis.net/

編集後記

ステレオテニスさんの”魚三酒場愛”を存分に浴びた直後、もう居ても立っても居られずに現地へ…。お伺いしたとおり、「お店ならではのお約束」がいくつかありましたが、それらは決して排他的なものではなく、店員/お客さまといった従来の社会的役割を超えて、一緒に場をつくっている共通言語のようなものに感じました。もちろんコロナの感染防止対策はとられつつも、店内は性別や年齢層さまざまなお客さまたちで賑わっていたことが、なによりもそれを表していたように思います。時代を問わない心地よい生活のヒントを垣間見た気がしました。(未来定番研究所 中島)

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