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2021.01.29

空想百貨店。<全17回>

第15回| 紫原明子さんが考える、誰かの人生に耳を傾ける百貨店。

様々なECサイトの登場、テクノロジーの進化により、買い物環境は日々変化しています。リテールビジネスの店舗はこれから、どんな場所になったらいいのでしょう。

 

私たち「未来定番研究所」は、大丸松坂屋百貨店の部署のひとつとして、未来の百貨店のあるべき姿を日夜考えています。この企画では、多様なジャンルで活躍するクリエイターの皆さんの力をお借りして、未来の百貨店を自由に空想してもらおうと思います。

今回お招きしたのは、エッセイストとして活躍する紫原明子さんです。家族や愛、生き方について、ご自身の著書や雑誌やウェブサイトなど数多くの媒体で執筆されるかたわら、対話を通して自分を深める〈もぐら会〉を主宰している紫原さんに、「これからの百貨店がどうあったら面白いか」、アイディアをいただきました。

 

イラスト:光家有作

私は普段、物書きの仕事と並行して、月に数回〈もぐら会〉というお話会を開いています。参加者がひとりずつ自分の話をして、他の参加者はただ頷きながら聞くというワークショップなんですが、これがすごく面白いんですよ。当たり前ですが、一人ひとりの人生はまったく違うものです。どなたの人生のお話も、その一部を聞くだけで、大切なものに触れられたような気がするし、話す側も、自分自身を受け止めてもらえた感覚になります。百貨店でも、そんな風に誰かの話を聞いたり、自分のことを話せる場所があったらいいと思うんです。というのも、百貨店は、子どもからお年寄り、障がいを抱える方や、様々なセクシャリティ、国籍の方まで、多様な人たちが集まる場所。いろんな価値観のお話を聞くことができそうです。お話会を続ける中でもよくあるんですが、誰かの話を聞いて視野が広がると、新しいことに挑戦したくなったり、新しい服が欲しくなったりするんですよ。道具や服って、自分の変化を何より強力に後押ししてくれるんでしょうね。百貨店でお話会が開けたら、終わってすぐに商品が選べるのもいいですね。また、ワークショップはテーマ設定が重要です。「これからの働き方」や「男の産休・育休」など、仕事やライフスタイルにまつわるテーマにすれば男性も参加しやすく、メンズフロア向きかもしれない。百貨店のスタッフも参加して「ダイバーシティ」をテーマにお話会を開けば、当事者の目線に立った店舗づくりのきっかけになるかもしれません。人間って一人ひとりが立体的なんです。その人の一面を知って理解したつもりになったらもったいないですよ。じっくり話を聞けば、自分にはない経験や考え方を知ることができるはずです。またそれによって自分が本当に望むものが何かも見えてくるかもしれない。百貨店がそんな機会を提供できたら、面白いんじゃないでしょうか。

Profile

紫原明子

エッセイスト。1982年、福岡県生まれ。男女2人の子を持つシングルマザー。個人ブログ『手の中で膨らむ』が話題となり執筆活動を本格化。『BLOGOS』『クロワッサン オンライン』『AM』などに寄稿、連載。その他『ウーマンエキサイト』にて「WEラブ赤ちゃん」プロジェクト発案など多彩な活動を行っている。著書に『家族無計画』(朝日出版社)、『りこんのこども』(マガジンハウス)など。

編集後記

人と自由に会う事がままならない今、人と人とがリアルにコミニケーションできる場の貴重さを再認識しています。百貨店が、「サロン」のような要素を持ち、人に自分を伝えたり、他の人の人生から新たに学んだりして、自分自身をリフレッシュさせてくれる場となれば、本当に素敵です。(未来定番研究所 出井)

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