2021.05.28

選ぶことに疲れたら。 ImageClubと考える、運任せのモノ選び。

モノと情報にあふれた現代。何を選び、何を買うにも選択肢がありすぎることから、時によっては「選ぶこと」そのものに疲弊してしまう人も少なくないはず。そこで今回は、「Googleストリートビューを自動操縦して、永遠にさまよい続けるページ」や「バーチャルろくろ」などを発明し、“やらなくてもいいことを本気で考え、実装する”クリエーター集団ImageClubの東信伍さんと高田徹さんに、モノ選びにおける迷いを和らげるポイントや、私たちの「選ぶこと」の手助けとなる未来のモノ選びのアイデアについてお話を伺いました。
(撮影:河内彩)

迷いを打破するちょっとした“後押し”が、「選ぶ」ためのポイント。

F.I.N.編集部:お二人が日々過ごす中で、何かを「選ぶこと」に対して悩んだり煩わしさを感じたりするのはどのようなときですか。

 

東信伍さん(以下、東さん):例えば、何か一つのものを買うにしても、選択肢の数が多く、それでいて性能が似たり寄ったりのものを選ぶときには結構な労力を使いますし、悩ましいなという気持ちになりますね。

Image Club主宰を務める東信伍さん。「Googleストリートビューを自動操縦して永遠にさまようページ」「バーチャルろくろ」などを発明。

高田徹さん(以下、高田さん):そうですね。私は先日Amazonで電源不要の小型除湿機を買おうとしたのですが、見た目や性能が似たり寄ったりな製品がたくさんヒットしてしまいまして。ハズレは引きたくないので私なりにリサーチしたりレビューを比較したりしてみたのですが、なかなか選びきれず。最終的には勘で選びましたが、なんだかどっと疲れてしまいましたね……。

高田徹さん。これまでに「新鮮な乱数直送サービス」「Eマウント対応レンズ TETTOR 105mm F4」などを発明。

東さん:インターネットを使えば、商品の写真や、性能、価格、実際に購入した人からの口コミなど、買う前からあらゆる情報を入手できるのが今の時代の当たり前になりました。消費者が多くの情報にリーチできるようになったことで確かにあらゆる買い物における選択肢は広がったと思いますが、その一方で、キャッチできる情報があまりに多いことが現代人の選ぶことへの迷いを生み出してしまっているのではないでしょうか。

 

F.I.N.編集部:ではどうすれば、その迷いから抜け出すことができるのでしょうか。

 

高田さん:そもそも何かを買うか買わないか迷っている時点で、その人の中で「欲しい」という気持ちは明確にあるわけです。だけれど、自分一人でその気持ちに踏ん切りをつける勇気がないから、迷いが生まれる。なので、何かひとつを決めたり、買うことを決意したりするための“後押し”があるかどうかが肝になってくると思いますね。

 

東さん:そうですね。“後押し”になりうる存在でいうと、例えば家電量販店の店員さん。数ある商品の中から気になるものを手に取って買うかどうか迷っているところに「実はその商品、実は新しく出たばかりで。ここが設計上変わっていまして……」と細かなスペックを教えてもらうと、「自分の目は間違っていなかった、この商品で間違いない」という自信になって、購入に至ることってありますよね。時と場合によっては、ある程度信頼できる人からの“口車に乗せられたい時”ってあると思います。だから例えば、家電量販店や百貨店など、きちんと丁寧な接客をしてもらえるお店には、買うかどうか迷っていて最後のひと押しが欲しいお客さんが自主的に着けられる「口車に乗せられたいバッジ」を店内の至る場所に置いておくと、買い物に迷う人が減って良いかもしれない。

「口車に乗せられたいバッジ」の手描きイメージ(東さん作)。

高田さん:そうそう。極論ですが、買う決断の“後押し”になりうるものならなんでもいいんだと思います。例えば「1か2が出たら、この商品を買う」と先に決めておいて乱数発生装置 (*1)を使うとか。もしくは、「隣にいる友達がサイコロを振ってもし偶数が出たら、家を買う。友達が家を買うなら、自分も購入するかどうか迷っていたパソコンを買う」といったように、選択の“相乗り”をするのも、決めることを自分だけで背負わないことで物事を選びやすくするひとつの方法かなと思います。

 

*1 乱数発生装置

高田さんが今年2月に開発した、「新鮮な乱数直送サービス」のこと。LINEの専用アカウントでメッセージを送ると、高田さんの自宅にあるサイコロが実際に転がされ、その様子を映した動画が届くというサービス。

占いを使った運任せ。八卦×バーコードで叶えるあたらしい「選び方」。

F.I.N.編集部:未来の「モノ選び」をより迷いなく、楽しく行うためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。例えば、百貨店の店頭で今後実施できそうなアイデアがもしあれば、教えていただきたいです。

 

東さん:つまりは、与えられる情報が多いことこそが迷いをもたらす大きな原因です。なので、パッケージや商品の性能といった情報の量をあえて減らし、代わりに「占い」を各商品に紐づけ、その結果を見ながら商品を選んでもらうのはどうでしょうか(※実際にアイデアを試してみた様子を収めた動画はこちら )。

バーコードを読み取ると八卦に紐づいた卦辞が壁に出現する仕組み。

東さん:各商品には必ずひとつバーコードが付いていると思いますが、このバーコードと八卦(*2)を結びつけるというアイデアです。まず店舗の一角に、商品を一人ひとつだけ買うことができる売場をつくります。この時、各商品は大きなバーコードがついたパッケージに統一しておくのがポイント。商品を買いたいお客さんは、まずスマホの専用アプリを使ってバーコードを読み取ります。すると、「自分の生年月日からの経過日数」と「バーコードの商品ID」の掛け合わせで作られた卦辞(*3)が売場の壁に出現します。そして出現した卦辞に合わせた今日の運勢を、売場に座っている占い師が教えてくれる。つまりは、その占い結果の良し悪しによって商品を選ぶというものです。「今日のラッキーワインは、どれかな?」と売場をうろつきながら、ひとつの商品を買ってもらう。具体的な商品の中身については、封を開けないとわからないという、ランダム性を楽しんでもらう選び方ですね。

店頭での実施イメージ(東さん作)。

F.I.N.編集部:このアイデアは、例えばどのような商品を選ぶときに使うのが良いのでしょうか?

 

東さん:僕たちは今回ワインで試してみましたが、他にも小説やボードゲーム、香水など、運任せのランダム性を楽しみやすいジャンルの商品で実施するのが良いと考えています。ちなみに今回僕たちが考えた、情報をあえて減らすことで買い手の想像を膨らませるという売り方は、以前にも新宿の紀伊國屋書店で、本の書き出しのみをブックカバーに印刷して販売する「ほんのまくら」フェアでも実施されていました。このようなある種の運任せ的な選び方が、今後さまざまなジャンルの小売店でも行われていくようになるのではないかと思います。

試作時には、ラベルを大きなバーコードで覆ったワインを使用。

*2 八卦

八卦(はっけ、はっか)は、古代中国から伝わる易の基本となる8つの図形。「乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤」からなり、自然界・人間界のあらゆる現象を象徴しているといわれる。また一般的には、八卦を組み合わせることで作られる六十四卦が占いに用いられる。

 

*3 卦辞

卦辞(かじ)は、六十四卦の内容について説明したもの。

判断の責任を委ねていく、未来のあたらしい「選び方」。

F.I.N.編集部:今回考えていただいたような“運任せ”の選び方は、これからの私たちの「選ぶこと」に対してどのような影響を及ぼすでしょうか。

東さん:何かを「選ぶ」ということに伴う問題を解決するためのアプローチとして、現代人はあらゆる情報を集めて判断する方に偏りすぎているのではないかと僕は思います。情報の量が爆発的に増え、複雑化が進んでいく世の中では「AIが情報を分析してあなたに最適なおすすめを……」なんてやっていますが、本当に我々に必要なのはAIによる最適な判断ではなくて、テキトーな判断の責任を自分の代わりに取ってくれる上位存在なのではないでしょうか。そのような存在が生まれることで、私たちは日々の選択をもっと軽やかに、納得して行うことができるようになると思います。神様だって発明できた人類なのだから、それぐらいのものは自分たちで生み出せるはずですよね。そのうちのひとつとして、今回のバーコードのアイデアがより多くの人に広がっていけば嬉しいです。

 

高田さん:東くんも言っているとおり、あらゆる「選ぶこと」には責任が伴います。その判断材料や調べる方法が増えること自体は良いことだと思いますが、あらゆる情報手段があることで、それらのリサーチ作業がいつの間にか“やらなければならないこと”になってしまう。自在になればなるほど自由ではなくなる、というのはまさにこのことではないかと思います。そんな中で、今回僕たちが考えた八卦を利用するアイデアは少々極端なやり方かもしれません。しかしながら、軽やかな選択のあり方を世の中に実装するための補助線としての役割を果たすものになるのではないでしょうか。

 

「自分で吟味して何かを選ぶこと」以外のもう一つの選択肢として、運任せの選び方が5年先の定番になることで、これからの社会に“新しい気楽さ”が生まれ、私達の暮らしをより楽しく豊かなものになるのかもしれません。

Profile

東信伍さん

1991年生まれ。広島大学を卒業後、Webコーダーとして上京。Image Club主宰として、日々プリミティブな感動をベースとした作品・プロダクトを発表し続けている。Image Clubでは「Googleストリートビューを自動操縦して永遠にさまようページ」「2人以上が同時にアクセスしていないと読めないWebページ」「バーチャルろくろ」などを発明。やらなくてもいいことが好き。株式会社メルタに所属している。

http://sngazm.info/

 

Profile

高田徹さん

普段はプログラマーとして活動。主にJava,C++,C,Bashを使って開発を行う。これまでImageClubでは「スパコーン」「新鮮な乱数直送サービス」「Eマウント対応レンズ TETTOR 105mm F4」などを発明。

https://www.tettou771.com/

Profile

ImageClub

思いつきで何かを作ることを好むクリエーターが集う制作コレクティブ。主に東京、広島、ナイロビを拠点に活動している。

https://image.club/

編集後記

モノと情報が溢れ、選ぶことに疲れる人も多い昨今の世の中。

しかしながら、お二人はこの状況すら楽しんでいて、さらには捻りを加えて発展させていたのが、とても印象的でした。

選択の日々のなかで、お二人のようなスタンスで臨むことが5年先の未来においてのスタンダードになれば、「選ぶこと」に迷う人たちの助けになるのかもしれません。

(未来定番研究所 織田)