2021.01.24

あの人が選ぶ、未来のキーパーソン。<全4回>

第3回| 中村勇吾さんが選ぶ、デザインの未来を支える人。

私たちの暮らしには、あらゆる分野の作り手たちによるさまざまなモノやコト、サービスが溢れています。それらを手掛けてきた各界の第一線で活躍する方々は今、5年先の未来を、どのように見据えているのでしょうか。この企画では、彼らに「未来の芽」とも言える次世代のキーパーソンを一人挙げてもらうことで、来たる社会について一緒に考えていきます。

 

今回お招きしたのはインターフェースデザイナーの中村勇吾さん。これまで「ユニクロ」のデジタルメディアのディレクションや、ビデオゲーム「HUMANITY」の開発などを手掛けながら、多摩美術大学美術学部情報デザイン学科の教授としても活躍する中村さんに、5年先の未来の担い手について伺いました。

(イラスト:星野ちいこ)

<中村勇吾さんが選ぶ、5年先の未来をつくるキーパーソン>
グラフィックデザイナー・岡崎智弘(おかざきともひろ)さん

Profile

岡崎智弘さん

1981年神奈川県生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業。2011年よりデザインスタジオSWIMMING設立。グラフィックデザインの思考を軸に、ブランディング/印刷物/映像/展覧会など、視覚伝達にまつわる領域を横断しながら、様々な制作活動を行っている。

swimmingdesign.com

 

岡崎智弘さんは、つくる楽しみや考える喜びを誰よりも体現しているデザイナーです。僕の中ではすでに巨匠のような存在ですが、夢中に作品を生み出し続ける彼は、ある面において未来のキーパーソンと言えるかもしれません。

 

2010年に僕が審査員を務めたタイポグラフィ作品のコンペティションで、初めて彼の作品に出会いました。賞こそ取りませんでしたが、コマ撮りしたタイポグラフィが生き生きと動くウェブサイトがとても印象に残っていて。僕が映像監修をしているNHKの『デザインあ』という教育番組が始まる時、真っ先にお声がけさせて頂きました。お願いしたのは、今や番組の人気シリーズでもある『解散!』。グレープフルーツやポテトチップスなど、身近にあるものがバラバラに解散していく様子をコマ撮り映像で表現し、物事を「構造」という視点から捉えよう、というシンプルなコーナーです。私たちが気に留めないような小さな出来事からイメージを広げ、すみずみまで分解していく彼独自の視点を用いることで、子どもだけでなく大人も楽しめるユニークな映像になっています。

また最近では、彼が日々のスタディとしてTwitterにあげているコマ撮り映像作品が、とても面白い。コロナ禍中に観たさまざまな作品の中で、一番印象に残っています。これらの作品ですが、制作視点で見ると、実はかなり異常なことをしていて。従来のクレイアニメなどのコマ撮りでは、キャラクターの目や腕といったパーツを動かしていきますよね。しかし、彼の作品では、キャラクターの代わりに身近な日用品が、見たことのない動きで、あり得ない姿に変化していきます。例えば、消しゴムを指でぎゅっと押し出すと、小さなサイコロ状のピクセルに分解される動画があります。これは1コマ1コマ消しゴムのカバーまでワンカットごとに作り直して撮影することで、現実ではあり得ないような現象を生み出しています。。

かなりの時間と労力がかかる手法ですが、ほとんど毎日のペースでこんな作品がアップされるのを見ていると、段々と感覚が麻痺してきます(笑)。ちなみに、企画会議をしても、ひとつの企画を決めるのに、当たり前のように数十案案持ってきて、にこにこしながら話してくれる。人それぞれに、「ここまで考えたらOK」というラインがあると思うのですが、彼は普通の人のラインをゆうに越えてきますね。

 

モダンデザインが始まった頃から、デザインには社会的な問題の解決や、未来に対して新しいビジョンを提示することが求められてきました。そして、デザインに関わる人たちはその期待に応えることを、何より優先してきた。しかし、これからはもっと個人的な動機からで、ものづくりやデザインという行為を楽しんでもいいのではないか。彼の作品には、そんな気持ちを抱かせる力がありますね。

<岡崎さんを教えてくれた人>

中村勇吾さん

1970年奈良県生まれ。ウェブデザイナー/インターフェイスデザイナー/映像ディレクター。東京大学工学部修士課程修了後、橋梁設計会社、ウェブデザイン会社を経て、2004年tha. ltd.を設立。ユニクロのウェブサイトデザインやCMディレクション、スマートフォン「INFOBAR」シリーズのUIデザイン、NHK Eテレ「デザインあ」映像監修など、活動は多岐に渡る。

編集後記

岡崎さんの数々のコマ撮り作品を見ていると、数秒の動画ですが、何とも言えない、心地よい安心感があり、知らず知らずに繰り返し見てしまいます。
この心地よさは、そのほかのキーパーソンの方にも共通してあるような気がします。
絶えず問題解決が求められ、何か問題を解決していないといけないような、世の中の風潮がありますが。
一旦リセットして、自分が楽しめる事は?自分が叶えたい事は?自問し実行するそんな活動が未来につながる一歩なのかも知れません。
(未来定番研究所 窪)

あの人が選ぶ、未来のキーパーソン。<全4回>

第3回| 中村勇吾さんが選ぶ、デザインの未来を支える人。