あの人が選ぶ、未来のキーパーソン。<全4回>
2020.11.11
映像技術は日々更新されている。アニメーションとリアルの境界も曖昧になってきている今、映像表現は果たして今後どこへ向かって行くのでしょうか。音楽の構造や音の質感をアニメーションで表現する映像インスタレーションや、ミュージックビデオを制作し、東京工科大学で教鞭もとる映像作家の大西景太さんに、映像の未来を伺います。
撮影:猪原悠 (TRON)
可視化することで、より深く理解できる音楽の構造。
ソロユニット・コーネリアスやバンド・ハイスイノナサのミュージックビデオや、音楽と映像のインスタレーション作品などを発表する、映像作家の大西景太さん。NHK『名曲アルバム+(プラス)』ではパッヘルベルの「カノン」やバッハの「14のカノン」の映像も話題になりました。大西さんが音楽と映像がリンクした作品を作り始めたのは、学生時代の卒業制作がきっかけでした。
「元々、東京藝術大学に通いながら、バンドもやっていたんですが、卒業制作で自由に作品を作るときに、音楽を使って時間軸のある表現をやってみようと思いました。それ以来、音楽と映像にずっと携わっています」
大西さんがミュージックビデオを手掛けた、コーネリアスの「Audio Architecture」では、音の一音一音を立体的な図形に置き換えました。
「音を、固い、柔らかいと表現することがありますが、そのような音の触覚的印象を
形にして、あとは動きの速さを含めて考えて、丸い形、三角錐などの形の要素に行き着きました。ひとつずつの音を形と動きで表現するので、それだけでも要素が多くなり色は自然と無くなりました」
パッヘルベルの「カノン」では、音階を階段で表現し、そこに小さなキューブが移動していくことで、3つの旋律が追いかけ合うカノン構造を表現しています。
NHK名曲アルバム+(プラス)放映「バッハ/14のカノン」
「最初に名曲アルバムのディレクターの方から、ベートーベンの運命交響曲は実はひとつのフレーズが繰り返し重なってできた曲だという話を聞いて映像を作りました。カノンという曲も知っていたけれど、追いかける構造なんだというのは依頼時に初めて知って。それから曲の構造を映像で表現することが面白くなって、自分でもバッハの『14のカノン』という曲を探し出し14曲から7曲を選んで映像を作りました」
バッハの14曲は「無限カノン」と呼ばれ、ループ再生することができる旋律です。後追い、逆行、音階の反転などパズルのように組み合わされたメロディを、アニメーションでもいくつかのキューブや円錐が同じ階段を反対に進んだり、鏡合わせのように反転した階段を逆行しあったり。音階の規則性と複雑さが可視化され、バッハのカノンの面白さがより深く理解することができます。
ARやMRで映像表現も進化していく。
大西さんは、2019年度のメディア芸術クリエイター育成支援事業に採択されて、現在AR(拡張現実)を使った音のインスタレーション「Forest and Trees AR」、を制作中です。
「Forest and Trees AR」の元となった、「Forest and Trees」MOVIE
「異なる音が流れる複数の展示台にiPadをかざすと、その音がARアニメーションになった映像が見られるという作品です。今はiPadですが、ゴーグル型の〈ホロレンズ2〉で見ることができたり、音がスピーカーの間を様々な向きやスピードで移動して、それに合わせてアニメーションを動かしたりということも考えています」
ARは現実の風景や世界に視覚情報(=仮想現実)を重ねて、現実を拡張するという技術です。MR(ミクストリアリティ=複合現実)は、カメラやセンサーを駆使して現実と仮想現実を融合し、仮想物体に近づいたり触れたりすることができ、手術のシミュレーションなどでも活用が期待されています。これらの技術が進化することによって、映像表現も変わっていくと大西さんは語ります。
「今後、ゴーグル型のMRデバイスが新たなプラットフォームになるかもしれません。スマートフォンを前提とした映像やアプリが生まれたように、ゴーグルを想定した映像表現やサービス開発を皆で競うことになると思います。『音を見たい』という一心からこのような手法に行き着きましたが、個人の作り手としては今後どの程度プラットフォームとつきあっていくかという葛藤もあります。そういったことと離れた
その時、その場所でしか味わえない、親密で実感を伴うコミュニケーションもまた見直されるのではないでしょうか。」
それでは、大西さんが考える5年先の未来は?
「テクノロジーの進化は確実でしょうけれど、天変地異や疫病など大きな変化がいつ来るかわからず、5年先は予測できないですね。ただ、社会全体に困りごとが増えそうという予兆は常にあるので、何かその反対方向へ向かわせることに寄与したい気持ちが漠然とあります。
オードリー・タン氏がレナード・コーエンの詩(*1)を引用するようにテクノロジーだけではなくて人文科学や芸術もまた必要だと思っています。」
*1 There is a crack in everything and that’s how the light gets in」(すべての物にひびがある。そして、そこから光が入る)
大西景太
神奈川、東京を拠点に活動する映像作家。音楽の構造や音の質感をアニメーションで表現する手法を用いて、映像インスタレーション作品やミュージックビデオを制作。またCM、コンセプトムービー、モーションCIなど広告表現やTVコンテンツ制作にも携わる。東京工科大学デザイン学部講師。
編集後記
大西さんの映像作品を見ていると、とてもすっきりし、リラックスした気分になります。私たちが、音楽から感じている印象や感覚も人それぞれだと思うのですが、本当に心地よく映像に表現されています。すべてに人間に共通する共感を表現する事はすごいことですがテクノロジーの進歩は、パーソナルな個々人それぞれ違う感覚をも、映像に表現できるのではないか、という可能性のお話しにもなりました。パーソナルな情報をARで映像を作って頂き、宝石箱を開くと立体に映像が浮かび上がるようなギフトBOXや、手軽に持ち歩ける自分だけの現代アート作品など、未来に夢は広がります。(未来定番研究所 出井)