2020.01.14

これからの5年で変わるもの、変わらないもの

第5回 「百万年書房」代表・北尾修一さんの場合

今起きている”変化”の中から5年先の未来の種を探してきたF.I.N.。変化を追い続けてきたからこそ、これまで目を向けてこなかった、”変わらないもの”の中にも未来の種の可能性を感じるようになりました。そこで、2019年から2020年へと移り変わる今のタイミングで、ビジネス、カルチャー、ライフスタイルなど、各分野を牽引する方々にご登場いただき、「これからの5年で変わるもの、変わらないもの」について伺っていきます。

今回お招きしたのは、出版社「百万年書房」代表・北尾修一さん。出版業界の第一線で活躍した後、一人出版社「百万年書房」を立ち上げ、書籍の出版や記事が24時間で消えるwebメディアを運営。「自らが<文学>と信じるもの」を自由に販売するフリーマーケット形式のイベント「文学フリマ」への出店も話題に。変わらない人間の欲求をテーマに、これからの働き方を提示する北尾さんに、「これからの5年で変わるもの、変わらないもの」についてお話しいただきました。

イラスト:tent

5年先に変わっているもの:「大体のことすべて」
5年先も変わらないもの:「お金・食べるなど人間の欲求」

約26年間、編集という仕事をしていますが、今の状況は5年前、10年前には考えられなかった。出版業界全体で言っても、雑誌やコミックがこれほど衰退するとは誰も思っていませんでしたし、そんな中でまさか自分が出版社を作るとは想像すらできていませんでした。だから、今から5年後がどう変わるかなんて、想像できるわけがない。今の自分の予想は必ず外れる、という確信だけが強くある(笑)。そういう意識で本づくりをしています。

 

ただ、一方で思うのは、これからどれだけ世の中が変わってしまっても、人間の根源的な欲求は変わらないと思っています。だからこそ書籍を作る時は、「食」や「お金」など、人間誰しも無関係でいられないテーマを取り上げています。これらのテーマは普遍的なので、既に類書がたくさん出ていますが、そこでこれまでとは違う視点を提示できれば、末永く必要とされる本になると思っています。例えば、『ブッタボウルの本』。ブッタボウルはアメリカ西海岸発の菜食丼(サラダ・ボウル)で、世界的にはメジャーですが日本ではまだあまり紹介されていなかった。またお金の本なら、「こうやったら楽して儲かりますよ」という切り口がほとんどですが、『なるべく働きたくない人のためのお金の話』は逆で、いかにお金に執着せずに豊かに暮らすかというのがテーマ。古今東西、老若男女、人間とお金は切り離せない関係だし、私もそうですけど、なるべく働きたくないと思っている人は必ず一定数いる(笑)。そうやって風化しないテーマを違う角度で作っていけば、5年後10年後もずっとロングセラーになっているんじゃないかなと思っています。

 

出版不況の中、「なぜ一人出版社を?」と聞かれることも多いのですが、海が荒れている状況では大きな船に乗っているよりも、それを降りて一人で小さい船を手で漕いでいた方が、むしろその船は転覆しないと思ったんです。一冊目に作ったZINEは、「文学フリマ」にブースを出して、手渡しで売りました。立ち上げた時に、最初の一冊は自分で作って手売りして本を出そうと思っていたんです。今は書籍を自分で作って、自分でプロモーションして、自分で営業もしています。長く売れる本が増えていけば定収入になるし、そうすれば自分が働かなくてもよくなるかもしれない(笑)。自分が寝ている間に既刊書籍が勝手に売れてくれている状況が、5年後の自分の目標です。もちろんそれだけじゃないし、「百万年書房LIVE」と題して記事を発信しているのは、雑誌的なことも何かやりたいとも思ったから。24時間で消えるあぶく(流行)のような情報と、根源的テーマのロングセラー書籍。この両方を扱うことで、自分の中のバランスが保たれていますね。

Profile

北尾修一/編集者

編集者。出版社『百万年書房』代表取締役。1993年に株式会社太田出版に入社し24年間在籍。『Quick Japan』の編集長や2006年には松尾スズキをスーパーバイザーに迎えた文芸誌『hon-nin』を立ち上げるなど、編集者として第一線で活躍した後、独立。2017年9月1日、出版社『百万年書房』を立ち上げる。自身のwebサイト内で、24時間 で消える記事「百万年書房LIVE!」も話題になっている。

編集後記

取材の中で、北尾さんの発想は開放的な印象をうけました。

多様化した価値感という大海原を横断できる「欲求」というシンプルなテーマを題材にする事で、時代、思想を超えて、読み手の心に残るものを生み出している。

仕事のスタイルも一人でできる分の対価を得て、多くは望まない。

そうすることで、自由で共感できるアイデアを作り出せる環境ができている。

これが、「百万年後?」も残る持続可能な生き方の一つなのかもしれません。

(未来定番研究所 窪)