2024.02.27

「働く」の解放

元日本一有名なニートのphaさん、働くことの意義って何ですか?

副業やパラレルワーク、ワーケーション、リモートワークなど、さまざまな働き方が出現している近年。こうした潮流からも見て取れるようにその価値観は、これまでの「一つの仕事を長く続ける」「一生涯働く」に、「自分らしく働く」「より良く働く」も加わり、さらに多様的に。従来の「働く」の価値観が解放され始めている今、F.I.N.ではその根源を問いながら、「働く」について改めて考えていきます。

 

今回ご登場いただくのは、元日本一有名なニートのphaさん。幼少期から労働意欲が少なく、大学卒業後は大学職員として働くも3年で退社。以降は、「できるだけ働きたくない」という思いから決まった仕事には就かず、シェアハウスの運営や作家活動などを続けてきました。ところが、2023年4月より、東京・高円寺の〈蟹ブックス〉の書店員に。長らく定職に就くことを避けてきたphaさんに何が起こったのでしょうか。「働く」の価値観の変化を探るため、いくつかの問いをphaさんに投げかけます。

 

(文:船橋麻貴/写真:米山典子)

Profile

phaさん(ファ)

文筆家、書店員。1978年大阪府生まれ。京都大学総合人間学部を卒業後、大学職員に。3年後に退職してからは「ニート」を自称。2008年にギークハウスプロジェクトを開始後、定職に就かずシェアハウスで長年暮らす。11年続けたシェアハウスを2019年に出て今は一人暮らし。著書に『持たない幸福論』『がんばらない練習』(幻冬舎)、『しないことリスト』(大和書房)、『人生の土台となる読書 ーーダメな人間でも、生き延びるための「本の効用」ベスト30』(ダイヤモンド社)などがある。

X:@pha

Q.いつ頃から「できるだけ働きたくない」と思い始めたのですか?

「小さい頃から働きたいと思ったことがありませんでした」

小さい頃からずっとやりたいこと以外はしたくない、という気持ちが強くて、仕事は全くやりたいと思わなかったんですよね。ひたすらゴロゴロしたり、ゲームをしたり、読書をしたりしていたい。そんな風に思っているような子どもでした。

高校生時代のphaさん

そもそも人とコミュニケーションを取るのが苦手で、学校の集団行動も不向き。大きな組織の中の一員として存在しているのが不得意なんです。子どもの頃は友達があまりいなかったですし、なぜ学校に行かなければいけないんだろうと感じていて。それは大人になってからも変わらず、特に仲がいいわけでもない誰かと一緒に働くのは疲れるし、人の言うことを聞くのも、自分の言うことを聞かせるのも嫌。組織が苦手だから、会社に入って働くことにもピンときていませんでした。

 

「できるだけ働きたくない」という思いは、周りの人に言っても理解されることはあまりなかったのですが、大学卒業後、焦りもあったので一旦就職しました。だけど、結局仕事に1ミリも興味を持てず、この仕事を何十年も続けていくのは無理だなと。それで3年後の28歳の時に退職しました。

大学卒業後、phaさんは大学の職員になるも3年後に退職することに

Q.仕事を辞めることに、怖さや後ろめたさはありませんでしたか?

「仕事を続けることの方が怖かったです」

大学を退職することを決めた時、新しい会社に転職することも考えられませんでした。だけど、社会に絶望したかというと、そうではありません。退職後はニートを自称しながら、働くことに対する違和感をブログに書くようになり、インターネットで出会った人たちと遊ぶようになりました。2007年当時、ネットの世界は「しのごの言わずに働け」と言われていた現実とは違い、自分と似ているダメそうな人がいっぱいいた。現実社会には自分の居場所がなかったけど、ネットでは仲間がつくれて、その輪が広がっていったんです。仲間ができることで、こういう生き方もありじゃないかと自信が持てて、自分の世界が少し開けた気がしました。

 

ひたすら文章を書いたり、独学でプログラミングをしたり、シェアハウスを作ったり。別に誰に頼まれたわけでもなく、みんなやらなくてもいいことを勝手にやっているという、当時のネットの周りの自由な空気感がすごく好きでした。お金を稼いでいなくても働いていなくても、とにかく楽しかったですね。

Q.「社会への貢献」や「人の役に立つ」という実感は、仕事以外でも得られるものですか?

「好きなことが誰かの役に立つことだってあるはず」

う〜ん……。仕事じゃなくたって好きなことをしていれば、人の役に立ったり、社会に貢献したりすることにもつながると思います。僕の場合、好きなことは文章を書くことでしたが、昔のネットは別にお金にならないのに異常な熱量の文章を書いている人とかがいっぱいいて、その雰囲気が好きだったんですよね。ちゃんとお金が回った方が全体的にいいことになる、というのも今ではわかるんですが、僕が大金持ちだったらお金にならないけど面白いものをずっと無償で提供し続けていたい、という気持ちがありますね。

Q.自分の生き方の理想を追求できるのはなぜですか?

「我慢ができないだけなんです……」

理想を追求したいというより、僕は人よりも体力も精神力もないので、こういう生き方しかできないんです。子どもの頃から、自分が楽しいと思う範囲を超えて何かをやろうとすると、すぐにいっぱいいっぱいになってパニックに陥ってしまう。頭も体も動かなくなる。自動的にストッパーが効いて頑張りすぎることができないんです。もちろん、死ぬか働くかだったら「働く」を選びますが……。

Q.〈蟹ブックス〉で働き始めたのはどうしてですか?

「10年前なら考えられなかった。だから、老化なのかもしれません」

昔は同じ場所に長時間いること自体が耐えられませんでした。実際に毎日違う街に行って、用もないのに喫茶店で過ごしたりして。だけど、40歳を過ぎてからはそういう気持ちがなくなったんです。ふらふらしていても楽しくないというか、面倒になっちゃって、同じ場所に長時間いるのも平気になってきた。これは心境の変化というより、あちこちウロウロするエネルギーが減っただけなのかもしれません。じっと座って店番ができるようになったのはそのおかげですね。ちょうどその頃に、〈蟹ブックス〉店主の花田菜々子さんから声をかけていただいたんです。「辞めるスタッフの代わりにどう?」って。花田さんとは元々友達で、〈蟹ブックス〉にも頻繁に遊びにきていたんですが、本屋の仕事も面白そうだな、と思っていました。

本を注文したり、売ったり、お客さんと話したり、イベントを開催したり。正直、楽しいことをやっているだけであまり働いている感覚はないですね。楽しくやれているのは、店主の花田さんが自由にやらせてくれているからだと思います。大きい組織にいると、他の人たちに合わせなくちゃいけなくて個人のペースを守るのが難しいですが、ここは小さいお店なので自分のペースを守りながら動けるのがラクですね。いい感じの空間を作って、そこにいろいろな人がふらっと遊びに来てくれる、という意味では、11年運営していたシェアハウスと似ているんですよね。ずっと続けていたことの延長にあるというか。もともと本と本屋がすごく好きなので、店番をしながら、どんな本を仕入れようかなと考えたりするのは楽しいですね。好きなことと仕事がうまく噛み合ったのかな、と。

Q.「働く」の価値観は変わりましたか?

「何かを探し続けることはやめました」

「できるだけ働きたくない」という価値観は大きく変わっていませんが、昔はずっと、ここにはない何か別のものを探していたように思います。もっと自分に合った何かがあるんじゃないかと、常に新しいものを探していた。だけど、歳を重ねて40代になって、そういう気持ちがなくなってきましたね。

今はわりと現状に満足しているというか、こうやって〈蟹ブックス〉にいるのが好きで、別に嫌なことをせずにお金がもらえるのはうれしいですね。そういうものを見つけられたのは運がよかったのかもしれません。

Q.phaさんにとって「働く」とは?

「好きなことかつお金がもらえること」

今でも「働く」ってよくわからないですね。まぁ「お金がもらえること」なんじゃないんでしょうか。自分の場合は、嫌なことをひたすら避け続けてきたら、それでもなんとなくやっていける感じになった。だから、ワガママでいることが大事なのかも。周りの目とかを気にしすぎて、自分の気持ちを押し殺して働いている人も多いと思いますが、「嫌なことは嫌」と、ワガママを貫き通しても意外と大丈夫なんじゃないですかね。

Q.「働く」の価値観を変えた本を教えてください。

「『だめ連の資本主義よりたのしく生きる』(‎現代書館)など」

大学時代に影響を受けた、社会の変革とオルタナティブな生き方を提唱した『だめ連』の1冊。それから、俗世を離れて暮らす様子を綴った『20代で隠居 週休5日の快適生活』(K&Bパブリッシャーズ)、好きなことで生きていく理論と実践の書『バイトやめる学校』(タバブックス)、10万円で小屋を作って生きていく『自作の小屋で暮らそう Bライフの愉しみ』(筑摩書房)など、本には「できるだけ働きたくない」という自分の生き方の参考になるものがたくさんあります。

Q.この先の「働く」について、どう思いますか?

「小さな商売を守っていきたい」

世の中の動きに疎いので社会全体のことはよくわからないのですが、この先もそんなに変わらないんじゃないですかね。ひょっとしたら経済効率がいい大きな企業が成長していって、小さな仕事はどんどん飲み込まれていって、ささやかだけど好きなことでお金がもらえるような仕事は減ってしまうのかも。でも、僕みたいに、個人のペースで働ける小さな商売に救われる人は多いはず。だからそういう生き方を守っていけたらいいですね。

【編集後記】

『「好きなことかつお金がもらえる」仕事に出会うには、ワガママになること』というphaさんの言葉に、「ワガママになっていいんだ」という気づきを得た一方で、実践するハードルを感じてしまいました。小さい頃から「ワガママを言わないように」と、利己的で周りに迷惑をかける行為だけでなく、周りとちがう自分の想いを通すことさえも抑えられてきた経験を持つ人は、わたしを含め少なくないのではないでしょうか。もしかしたら、その教えを忠実に守るあまり、自身の素直な気持ちに鈍くなっていることもあるかもしれません。しかしphaさんのお話を伺い、この「ワガママ」のハードルを取り除くことで自分の好きな生業に出会えたり、あるいは現在の仕事との相性のよさを改めて実感したりでき、自身の人生をより楽しむことにつながるのだと思いました。従来の働き方が解放されている今だからこそ、自身の「ワガママ」と向き合うことがとても重要だと感じました。

(未来定番研究所 中島)