2022.08.04

前篇|すごい旅人・片岡力也さんに聞く、「旅×シゴト」で叶える新しいライフスタイル。

旅の楽しみ方が観光地巡りから滞在型へと変わり始めている今、その価値観や捉え方を再定義する人たちが出てきています。そこで今回は、滞在型でありながら新しい旅の楽しみ方をしている人たちのインタビューを前後編に渡ってお届け。前篇では、新婚旅行の世界一周中にコロナ禍に見舞われ、アフリカの島国・カーボベルデで1年3カ月働きながら暮らしたという、映像クリエイターの片岡力也さんに話を伺います。

 

(文:船橋麻貴)

Profile

片岡力也(かたおかりきや)さん

1990年生まれ。旅人だった祖父の影響を強く受け、大学在学中にバックパック旅に没頭。海外駐在に憧れ本田技研工業に入社するも、国内担当の部署に配属となり4カ月で退職。その後は、飲食店のプロデュース、東京に旅人限定のシェアハウス「ハクナマタータ」を経営、大手メディアの公式ライター(取材・撮影・執筆)、ドローンを駆使した動画制作などを手がける。2019年12月より世界一周へ出発。新型コロナウイルスの影響によりカーボベルデで足止めとなるも、その環境を活かしカーボベルデ政府とのパイプを構築し、活躍の幅を世界に広げている。現在は、SNSを使って沖縄の赤字化したホテルを建て直す「ど素人ホテル再建計画」に挑戦中。

https://www.instagram.com/rikiya_trip/

https://www.instagram.com/4610_hotel/

何にも縛られずに旅を続けるため、

旅先でもできるようなシゴトを選ぶ。

旅先でシゴトをすることで、クライアントからリターンを得ながら旅ができる、シゴトのマッチングサイト〈SAGOJO(サゴジョー)〉で、優れたスキルや実績を持つ「すごい旅人」として認定されている片岡力也さん。旅に目覚めたきっかけは、旅人の祖父の存在が大きいのだそう。

 

「亡くなったおじいちゃんが旅が大好きで、旅先の海外からポストカードを必ず毎回送ってくれていて、幼い頃から旅自体にすごい憧れがあったんです。それで、僕が小学5年生のときにイギリスとフランス、小学6年生のときにオーストラリアへ2人旅に連れて行ってくれて。その後の学生時代はサッカー一筋で旅には出られなかったんですが、おじいちゃんとの2人旅の刺激的な体験がずっと記憶に残っていて、大学に入学したら世界一周に出ようと高校生の時点で決めてました」

学校に行かずに海外を旅していた大学時代の片岡さん

幼い頃に体験した祖父との2人旅が起爆剤となり、片岡さんは大学時代に約60カ国を巡る世界一周旅へ。人の生死や危険な場面に直面し、自身の価値観も大きく変わり、若いうちに世界をもっと見たいと思うように。そして、海外で働ける会社に就職するも海外赴任が叶わず退職。フリーランスで働きながら、中米や西アフリカといったディープな場所へ旅を続けていきます。

 

「日本にいたらなんでもない1日が、海外では何かのコンテンツか?ってくらい刺激的な1日に変わります。社会人になってからは65カ国ほど訪れましましたが、僕の旅は行き先も宿泊場所も滞在日数もノープランが基本。だって、おもしろい出会いがあっても、出国日を決めてしまったら一緒にいられない。それはもったいないじゃないですか。とくに中米や西アフリカで出会う旅人や現地の人は、おもしろくて刺激的な人が多いですし。明日飲みに行こうと誘われたらさっと行けるくらい、今夜泊まって行けば?と誘われたら喜んで泊まれるくらい、身軽に旅をしていたいんです」

 

あえて計画を立てずに、フレキシブルに旅を楽しむ。それが片岡さんの旅のスタイルですが、旅はお金がかかるし、身軽な状態で旅を続けるには仕事の存在が足枷にならないのでしょうか。

 

「もう10年くらい前から掲げていることなんですが、何にも縛られることなく旅を続けていくことが僕の理想なんです。『明日海外行こうよ!』と誘われても、常に行ける状態にしておきたくて。好きな時に好きなところに行きたいから、場所や時間の制限がある仕事は引き受けないようにしているんです。フリーランスの映像クリエイターになったのもそのためだし、SNS運用やWEB制作を請け負ったりと旅先で滞在しながらシゴトができるクライアントを見つけ、自分の旅のスタイルにあったシゴトの仕方を選んでいます。

 

旅をするにはお金を稼ぐのは必要不可欠ですが、仕事を引き受けすぎて旅する時間がなくなるのは本末転倒。お金を稼げば裕福になれますけど、僕が人生で大切にしたいのは旅。そこを掛け違わないように常に意識しています」

 

観光地巡りでは決して叶わない、

リアルと出会う滞在型の旅の魅力。

旅に必要なお金を稼ぎつつ、各国を転々としながらも、その土地に根付いて旅をしていく片岡さん。観光では味わえない、現地のリアルを楽しむのが滞在型の旅の魅力だと言います。

 

「数日間で観光地を巡るような旅だったら、絶対にその国や地域の本質には辿り着けないんですよね。なぜなら、観光客が少しの時間で満喫できるように作られたのが観光地だから。人によって作られたものだから、そこにはリアルさはないんですよね。本当に現地の深い部分に触れられ、その土地のことを理解し始めるには、最低でも1カ月以上の滞在は必要だと思います。だから、数日間の滞在でその土地のことを好きか嫌いか決めるなんて、すごく軽薄なことなのかなって。現地の人とたくさんのつながりを持つことで、少しずつその土地のことが見えてくる。それが滞在型の旅のいいところだと感じています」

 

滞在型の旅で現地の文化や人にすっと溶け込むには、どんな技術やコツがあるのでしょうか。

 

「う〜ん、現地の言葉で挨拶したり、お酒を一緒に飲んだりするくらいで、特別なことは何もしてないんですよね。しいて言うなら、サッカーの力は強いかもしれません。街でサッカーをしている人たちに加わってプレイしてみると、『意外とやるじゃん』みたいな感じであっという間に仲良くなっちゃう。とくにヨーロッパでは、サッカーをしている人たちが街のあちこちにいるので、『入れて』って声をかけて断られたことは一度もないですね」

現地の人と出会い、楽しい時間を共有していく一方で、拳銃を突きつけられたり、ケンカが目の前で勃発したりと、世界を巡る中で危険なシーンにも出くわしてきたと言います。それでも片岡さんが旅をやめないのは、失うものより得るものの方がたくさんあるから。

 

「旅はリスクよりリターンの方が明らかに多い。逆に、日本にずっと留まっていることのが、僕にとっては一番のリスクだと思います。日本は島国だから文化やしきたりも独特なことも多くて、僕ら日本人が当たり前だと思ってやっていることで、海外の人を傷つけてしまうことだってある。例えば、相手をおもんぱかって返事を曖昧にして、ノーと言わなかった結果、迷惑をかけてしまったり。相手を気づかうようで傷つけていることって意外と多いんですよね。旅をして広い世界を見ることで、自分の価値観が広がっていく。それができるから、僕は旅を続けているんだと思います」

アフリカの島国・カーボベルデに取り残され、

現地でシゴトを獲得し、東京オリンピックのアンバサダーに。

2019年12月、片岡さんは妻のあゆみさんと、「クレイジーハネムーン」と称して南アフリカスタートの新婚旅行に出発した

多くの旅人が旅を中断せざるを得なくなった、突然のコロナ禍の到来。2020年2月、片岡さんは、世界一周ハネムーン中に訪れたアフリカの島国・カーボベルデでその時を迎えました。帰国するにも飛行機の欠航が相次ぎ、2週間の滞在予定が最終的に1年3カ月もの間、カーボベルデで生活することになったのです。

 

「僕にとっても1年3カ月という長期滞在は初めての経験でした。カーボベルデは物価が高く、帰国の道が閉ざされてしまったので、現地でお金を稼がなきゃいけなくて。それで自分が得意とする動画制作でPR動画を請け負うことを目標にし、飲食店や観光スポットの動画を撮ってSNSに自主的に公開したり、現地のメディアにも連絡したりして。そういう活動をしていたら、ホテルや飲食店から動画制作の依頼が来始め、オリンピック委員会から東京オリンピックの公式アンバサダーの打診の話まで来て。自ら動いて現地でシゴトを獲得するのは初めてでしたが、言語もスマホの翻訳アプリを使っていたので問題なかったし、日本で働くのと変わらず楽しかったですね」

東京オリンピック カーボベルデ代表の公式アンバサダーに任命された片岡さん夫婦

日本から遠く離れたカーボベルデで働き、暮らした片岡さん。地域の住人となって現地に馴染むあまり、カーボベルデ人の笑いのツボまで熟知したそう。

 

「ずっとカーボベルデの人たちと一緒にいたので、彼らが好きそうなネタをSNSでアップしたらものすごくバスって(笑)。人口が約50万人の国なのに、その動画は100万回以上も再生されたんです。政治や経済などの情勢は調べたらわかるけど、笑いの感覚は長くその土地にいないと理解できない部分があるじゃないですか。笑いのツボという感覚的な部分、そこまで深く理解できたことは嬉しかったですね」

 

そして片岡さんは2021年5月に帰国。まだ海外への渡航のハードルは高く、旅に出にくい情勢となった現在だからこそ、旅の偉大さをより実感しているよう。

 

「カーボベルデから帰国して1年ちょっと。こんなに海外へ旅に出ないのは初めてです。旅がしにくくなった今言えるのは、旅は出られるうちに出ておくべきということ。コロナ禍があけて自由に旅ができるような世の中になり、もし旅に出るかどうか迷っているなら、まず一歩を踏み出してほしいですね。とにかくやってみないと何も始まらないし、何も得られません。ダメだったら帰ってきちゃえばいいし、現地でほかに楽しいことも見つかるかもしれません。だから、一歩を踏み出せず迷っているなら、とにかく旅に出てみてほしいです」

現在、片岡さんは沖縄の大赤字リゾートホテルから経営再建を託され、「ど素人ホテル再建計画」というプロジェクトに挑んでいる

■片岡さんに聞く、2weekの滞在で楽しむ旅のポイント

・無駄な時間を省くため、あえてノープランにする

「僕にとって2週間はめっちゃ短い(笑)。だから、1秒も無駄にしたくありません。一番柔軟な行動を取るためには、何も計画を立てないことが大事。自分の感覚を頼りに、その場で決めて旅をニュートラルに楽しみます」

 

・市場で現地の情報をチェック

「現地の情報が一番集まっているのは市場。例えば、青いバナナが売られていたらそのバナナは料理に使われているのだなとわかるように、そこで売られている野菜や果物を見て、その土地の風土や気候がわかります。市場は現地の人が使うものなので、その土地の物価の感覚も見て取れます」

 

・現地のおいしいものは、リカーショップに尋ねる

「現地のおいしい食に出会うには、飲食店とつながりのあるホテルやタクシードライバーではなく、フェアな目線で飲食店を教えてくれるリカーショップに聞きます。アルコールを飲食店に卸しているだけあって、現地のおいしいお店の情報をたくさん持っているので、まずはリカーショップに聞くのがおすすめです」

■F.I.N.編集部が感じた、未来の定番になりそうなポイント

・計画を立てずに、フレキシブルに旅を楽しむことで、ガイドブックには無い、その土地の魅力を自分なりに見つける楽しみ方。

・旅しながら働くことで、非日常と日常の境界線が無くなっていくライフスタイル。

【編集後記】

今回の取材。片岡さんは、みんなに喜んでもらいたい一心に、わざわざ、沖縄の砂浜から、リモートで登場していただきました。途中、直射日光に照らされた、スマホが何度かダウンするトラブルもありながら、編集部も画面越しに、綺麗な海を見て、癒されながら、素敵な取材となりました。

片岡さんは、人に楽しんでもらうことの大切さが、数々の旅を通して、身についているようです。旅は、名所や、史跡、絶景を巡るだけでなく、人との交流や、感動を味わうことで、より良い経験になる、そんな時間だと教えていただきました。

(未来定番研究所 窪)

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