もくじ

2019.10.23

若い世代を惹きつける、職業訓練校の今

後編 職業訓練校と生徒が町を作っていく

全国から生徒が集まる木工に特化した職業訓練校である上松技術専門校。前回は木工技術を教えている池田先生にものづくりの心構えを聞きました。

今回は都会での仕事を辞め、長野で木工を学ぶ在校生と、上松町の地域おこし協力隊として町に残り活動を続ける上松技術専門校の卒業生の活動を取材します。

(撮影:和田裕也)

作り手の視点から

デザインを考える。

木材造形科で学ぶ小松大知さん、昨年まで横浜でプロダクトデザイナーとして働いていました。なぜ、上松技術専門校に入校したのでしょうか。

F.I.N.編集部

入校を決めたきっかけはなんですか?

小松さん

日々の仕事の中で、デザインの商業的な側面にモヤモヤしていた時期に、作り手にまわってデザインを考えてみようと思ったのがきっかけです。また、デザイナーはプロダクトを最後までは作りません。デザインしたら、あとは職人さんや技術者の方にお任せします。一度、自らの手で最後まで作るという経験をして、そこからデザインを考えてみようと思ったんです。ちょうど春に技能祭が行われることを知り、足を運びました。学生が一年かけて作り上げたものがずらっと体育館に並んでいて。どれもしっかりと作り込まれていて、よく1年間でここまで作れるようになるなあ、と驚きました。美大の卒展のような目新しいデザイン提案があるわけではないけども、しっかりとした家具たちに感動し入校を決めました。

F.I.N.編集部

長野に住むという選択をしたんですね。

小松さん

ここに入学すると決めたのは環境の良さもひとつの魅力でした。ものづくりが盛んで、地域文化の根づいている長野県にはずっと興味がありました。

F.I.N.編集部

毎日の生活はどうですか?

小松さん

年齢やバックグラウンドが様々な人たちと、学校や寮生活で寝食、学びを共にしています。フラットな関係性でいろんな人生経験や、価値観を知るというのは、ただ技術を学ぶだけではなく人生のプラスになると思います。何かを考える時に知識の共有ができるのもいい。入ってみておもしろいなと感じました。

F.I.N.編集部

卒業後の進路はどのように考えていますか?

小松さん

長野県諏訪市にあるRebuilding Center Japanで働くことが決まっています。古材や古道具を活用して、新しい価値をつくり出していく会社で、製作やデザインを担当する予定です。物が身の回りに消費しきれないほど溢れるなかで、後ろを振り返ることなく作り続けていくデザインにずっと違和感と価値観のズレを感じてはいたので、この会社はとても魅力的に感じました。デザイナーとしての経験も、学校で学んだ木工の技術も活かせる職場だと思います。作り手・使い手・デザイナーの3つの視点から次の時代に必要な物を考えていきたいですね。

上松町を

木工の仕事ができる町に。

次に話を聞いたのは、上松町の地域おこし協力隊として活動する小林信彦さん。2年前に上松技術専門校を卒業しました。卒業後は上松町の地域おこし協力隊に参加し、上松町で生活を続けています。

F.I.N.編集部

小林さんはなぜ上松技術専門校に入校したのですか?

小林さん

ものづくりを仕事にしたいと思い、中学を卒業して高専に入りました。その後設計の仕事をしていましたが、パソコンに向かう毎日でものづくりをしている実感が全くありませんでした。しかしある時、同期の結婚式でウェルカムボードを作って欲しいと依頼され木で作ったボードをプレゼントしました。とても喜んでくれて、他の同期からも依頼が来るようになりました。幼い頃に自分で作ったものを褒められ、相手が喜んでくれて「ものづくりを仕事にしたい」と思った気持ちを思い出したんです。一年間上松技術専門校で学んだ後、ちょうど地域おこし協力隊の話があったのでやってみようと志願しました。

F.I.N.編集部

地域おこし協力隊の活動を教えてください。

小林さん

元々あった木工の工房をリノベーションしてAGEMATSU WOOD LIFE MAKINGという僕たちの工房をつくりました。今は卒業生4人が地域おこし協力隊木工部のメンバーとして働いています。ふるさと納税の返礼品を作ることや、上松中学校で木工を教える授業もあります。今年の授業では、生徒から意見を募って積み木を作りました。保育園やイベントで遊べる場所を作りたいという生徒の提案で生まれたものです。ノミやカンナなど技術の授業ではあまり使わない道具を使って作りました。僕たちの作品を展示するギャラリー兼コミュニティスペースも来年オープン予定で、今リノベーション作業を進めています。

F.I.N.編集部

上松技術専門校で学んだことを活かして、今度は町のために還元しているのですね。

小林さん

上松町の資源は豊富な森林資源や木曽ひのきと言われていますが、僕はさらに人も資源だと思っています。毎年、日本全国から木工をやりたい人が仕事を辞めて集まってくる。こんなに志が高い人たちが、この山奥にやってくるのです。しかし、卒業したあとここに残って木工を続ける場所がなく、みんな上松町から出て行ってしまいます。もしここに上松技術専門校で学んだことを活かして働ける場所があれば、上松町に残る人は増えるでしょう。そんな場所を作りたいと考えています。やりたい仕事がこの町でできる環境があり、上松町で育った子どもも将来ここで働きたいと思えるところがあったらいいですよね。それを目指して、皆が憧れて誇りを持って働ける木工所をこの町につくろうというところから活動の計画がスタートしています。建設中のギャラリーでは、県内外の楽しく働く大人たちをゲストに呼んでトークショーなど開催したいです。上松町の10代の若者が世の中の色々な仕事を知り、将来の生き方を見つける機会を作れたらと思っています。中山間地域でも自分がどんな未来をどんな風に生きていきたいか、真剣に考えられる場があれば将来希望を持って住みたくなる町になると思うんです。

F.I.N.編集部

上松町をどんな町にしたいと考えていますか?

小林さん

単純に「観光客がたくさん訪れる」、「経済的に潤う」ということは目指していません。住んでいる人がその町を好きになり誇りに思う。そんな町を作っていくことが地域おこしの本来の目的ではないかと考えています。町内で育つ10代の若者や、町外から来る人たちがやりたい仕事や生き方を見つけて、それを実現するために前に進むことが出来る。上松技術専門校と地域おこし協力隊という制度を組み合わせて、そんな場所や仕組みを作っています。

木工の技術を学び、伝統工芸を学び、それをその地で活かす。職業訓練校があることで全国から人が集まり、技術や知識をシェアする。そして今度はその学生たちがいることで町が栄えていく。技能に特化したことで、町おこしになるという理想的なまちづくりのモデルが上松技術専門校から生まれようとしています。

AGEMETSU WOOD LIFE MAKING

長野県上松技術専門校

長野県木曽郡上松町大字小川3540

https://www.pref.nagano.lg.jp/agemagisen/

インスタグラム:https://www.instagram.com/viva_agematsu/

ブログ:http://agematsugisen.blog.jp/

編集後記

長野県木曽の自然の中で、家具づくりの技術を磨く1年間
生徒達は自分のキャリアに「技術」という「生きがい」を探求します。
その「キャリア形成」という小さな一歩から
自然、近隣住民、子供、そして地域文化づくりまで関心が広がります。
そして、具体的な活動へ昇華していきます。

今回の取材を通して、
ものづくりとは、人づくりであり、社会づくりになり、そしてまたものづくりへとつながる。そんな循環を垣間見る事ができました。

木々が生い茂った、クリアな空気のなかで、職業訓練校は単なる技術学校という役割ではなく、それぞれ自分にとって、大切なものを見出す場として機能していました。
(未来定番研究所・窪)

もくじ

若い世代を惹きつける、職業訓練校の今

後編 職業訓練校と生徒が町を作っていく