2020.06.08

リーマントラベラー・東松寛文さん、自分中心的な「会社員」術の行方。

平日は広告代理店で勤務する傍ら、週末で世界中を旅する“リーマントラベラー”こと東松寛文さん。あくまで会社員を続けながら旅人を続けることをポリシーにし、社会人3年目から70か国159都市に渡航。2016年には3ヶ月間毎週末海外旅行に行き、「働きながら世界一周」を達成。そんな東松さん。海外旅行ができない今はどんな暮らしを送っているのでしょう? 会社員を続けながらもできる、自分らしさを追求する生き方について話を伺います。

NBAのチケットから始まった、

働きながら旅をする生き方

F.I.N.編集部

働きながら旅を始めたきっかけはなんだったのでしょうか。

東松寛文さん(以下、東松さん)

2010年に新卒で広告代理店に入社し、しばらくは海外旅行も難しいだろうと思っていた社会人3年目のとき、たまたまLAで行われるNBAのプレーオフのチケットを手に入れたんです。現地に行けなくても記念になると思っていたんですが、チケットが届いたら「これは行くべきなのでは」という気持ちになり、上司に相談して思い切って休みをいただきました。

F.I.N.編集部

その時はどのくらい休まれたのですか。

東松さん

その年のゴールデンウィークが4連休で、それに有休を1日つけて3泊5日です。先輩たちはカレンダー通りに出社しているのに、部署で一番年下だった僕が休みを取るという、勇気のいる行動をバスケットボールのせいにして。上司に「プレーオフ観戦が小さな頃からの夢だったんです」と説明しました。

NBA観戦の風景

F.I.N.編集部

その旅によって何が変わったのでしょうか。

東松さん

LAで気付いたことが3つありました。1つ目は、英語がほとんど話せなくても全く問題なかったこと。2つ目は、3泊5日というアメリカ旅行としては短い日程でも十分に楽しめたこと。3つ目は、向こうでは自分の時間を楽しんでいる大人がたくさんいたことです。日本で平日と言えば、遅くまで仕事をして、終電になる時間まで仕事関係の会食や飲み会。深夜に帰宅して、翌朝に出社。自分の時間なんてないのが当たり前だと思っていたんですが、アメリカでは昼間からお酒を飲んでいたり、平日でもビーチにたくさん人がいたり、NBAの会場にも早い時間からファンが集まっていたんです。僕の知っている「社会人」とは違う人たちがたくさんいることに衝撃を受け、短い旅でしたが想像以上にリフレッシュできたんです。

F.I.N.編集部

そこから、旅の面白さに気付いたんですね…。

東松さん

旅に行く前の唯一の趣味は合コンだったんですけど(笑)、旅は合コンより10億倍くらい面白かったので、合コンをやめて週末や連休に旅に行くことにして。その翌年、正月の韓国を皮切りに8回ほど海外に行きました。

東松さん、韓国にて

働き方の意識を変えてくれた

キューバの「豊かな暮らし」

F.I.N.編集部

それが「リーマントラベラー」の始まりなのでしょうか。

東松さん

いえ、「リーマントラベラー」はもう少し後です。ずっと旅好きとして楽しんでいて、2015年にキューバに行きました。キューバは社会主義国の貧しい国と言われていますが、現地では見ず知らずの僕にご飯をご馳走してくれたり、ダンスパーティを開いてくれたり。誰も見返りを求めずに、もてなしてくれたんです。キューバではみんな自分らしく生きていて、心が豊かだと感じました。実は、その頃、仕事で悶々としていまして。新入社員の頃は与えられた仕事をクリアすることに夢中だったけれど、慣れてくると、これがやりたいことなのかと考えるようになりました。とはいえ、自分のやりたいことも見つからない。もしかしたら、旅行にヒントがあるかもしれないと考えてみたら、一番忘れられない旅がキューバで、そこにはいろんな生き方があったんです。

東松さん、キューバにて

F.I.N.編集部

旅はいろんな人生の価値観を教えてくれるんですね。

東松さん

無意識に選んでいた旅先の共通点は、世界遺産などの観光地ではなくて、現地の生活の中にある市場やレストラン、地元のクラブばかりでした。日本のサラリーマンという生き方しか知らない僕が、旅によっていろんな人生があると知ることができました。社会人になったら、年功序列、終身雇用というレールを最後まで走り切るだけだと思っていたのに、このタイミングでいろんな生き方があると気付いたのは奇跡かもしれない。それをみんなに広めたいと使命感が湧いたんです。サラリーマンという生き方しか知らずに仕方なくサラリーマンでいるより、たくさんの選択肢からサラリーマンを選んだら、前向きに働けますよね。それで2016年から「リーマントラベラー」として情報発信をしていくことを始めました。

東松さん撮影、ラオスの托鉢

F.I.N.編集部

サラリーマンのまま、活動するメリットはなんだったんでしょうか。

東松さん

忙しいサラリーマンに注目してもらうには、激務のサラリーマンが働きながら世界一周して、それを発信したらいいんじゃないかと考えました。それから「独立・転職組は自由に生きているけれど、大企業のサラリーマンはダサイ」という風潮に異議を唱えたかったことも理由です。サラリーマンは、総合力が高い人が多いんですよ。自分らしい生き方をするには、毎月収入があって、生活が保証されていることは重要です。資金がなくなったら、好きなこともできませんから。僕はサラリーマンに旅を勧めているわけじゃないんです。旅じゃなくても、自分の趣味をもう少し頑張ってみるとか、自分ができる範囲で一歩踏み出すだけで人生が変わると思うんです。それをサラリーマンの皆さんに伝えたくて発信しています。

 

旅を続け、「働く・休む」が

「生きる」に変わってきた

F.I.N.編集部

現在は仕事と旅のバランスを、どのように意識されていますか。

東松さん

今は、バランスを取ろうという意識はなくなりました。以前は、「働く」と「休む」が明確に分かれていて、会社で自分のやりたいことを実現するべきだと思っていたんです。今はそれが「生きる」に統一しています。会社の仕事の中で、必要ないと思ってしまう業務もあるじゃないですか。でも、僕はサラリーマンでいることによって、リーマントラベラーを名乗ることができて、皆さんに見つけてもらいやすくなる。「生きる」ためのメリット・デメリットで考えるようになりました。

東松さん、コンゴ共和国にて

F.I.N.編集部

「リーマントラベラー」の活動のために、仕事で気をつけていることはありますか。

東松さん

強いていうと「休みを取るのも仕事のうち」ということですね。休みは会社員の権利なんですが、自分が休んでいる間に働いている人もいるので、心遣いが必要です。通常の業務で成果を上げること、社内メールで休む期間を周知しておくことも大事ですが、なんといっても休み明けのお土産が重要です。一つひとつ個装になっている定番商品を、相手の目を見て感謝を伝えながら渡します。なるべく、すぐに消えるものがいいですね。旅先でテンションが上がって、変な木彫りを渡しても、デスクに放置されて迷惑がられますから。サラリーマンは根回しのスキルが高いんですよ。クライアントにプレゼンをするとき、相手の好みを調べるし、事前に入念な資料も準備するじゃないですか。それと同じです。上司の機嫌の良いタイミングを見計らって、休み明けに出社したらお土産を直接、手渡しします。すると、次の休みも気持ちよく取ることができるんです。

F.I.N.編集部

それでは、5年先の働き方、旅のスタイルはどんなふうに変わっていくと思いますか。

東松さん

今回の外出自粛期間中、YouTubeで世界各国の人との対談を配信したのですが、すでにアフターコロナの世界になっている国だったり、ロックダウン中だけど日本よりリモートワークが進んでいる国だったりと様々でした。今回、日本の企業もリモートワークを体験して、必要なこと、必要のない仕事が明確になりました。海外との交渉も、今後は出張ではなくリモートワークで時間短縮されるかもしれません。5年後は全員が効率化できて当たり前、その上で自分らしさを発揮して仕事のバリューを出す時代になると思います。サラリーマンは、これまでのように気合いは通用しなくなるでしょうね。だから、何かチャレンジして自分らしさを見つけることが、全てのサラリーマンに必要だと思います。個人的には、コロナが終息して渡航できる状況になったら、今までのように旅を続けていると思います。将来は地球を見尽くしたいし、宇宙にも行ってみたい。問題は、週末だけでは行けないところが発生したら、仕事はどうしようということですね。

Profile

東松 寛文

1987年岐阜県生まれ。神戸大学経営学部卒。広告代理店で働くかたわら、週末で世界中を旅する「リーマントラベラー」に。また、「休み方研究家」としても活動。2016年、3カ月で5大陸18カ国を制覇し、世界一周を達成。現在、70か国159都市に渡航。各メディアや講演会などにも出演。著書に『サラリーマン2.0 週末だけで世界一周』(河出書房新社)、『人生の中心が仕事から自分に変わる! 休み方改革』(徳間書店)。朝日新聞社にて『リーマントラベラーサロン』も主宰。

編集後記

仕事とやりたい事の両立を求められる状況は、誰もが経験します。

そのやりたい事を実現するにはどう仕事をするか?東松さんのように、真剣に向き合う事で、あらゆる局面で適応力が生まれると思いました。

そして、自己実現する度に、自分の思考も開放され、仕事と仕事以外の境界線も溶け合い、自分らしい希望ある人生を作れるのかもしれません。

(未来定番研究所 窪 耕太郎)

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