もくじ

2021.03.19

マニアに聞く、ジョイフル・ジャーニーへの道。

鉄道編 ローカルジャーナリスト・田中輝美さんの、自分との対話時間

「ジョイフル・ジャーニー」とは、移動をどこかへ行くための手段として捉えるのではなく、移動という体験自体に喜びを感じるような新しい旅の価値観のこと(*1)。移動が制限されている今、「ジョイフル・ジャーニー」の視点を持つことで、これからの旅はもちろん、日常生活のちょっとした移動にも新鮮さを感じるのではないでしょうか。

 

そこで、これからの旅の定番になりうる「ジョイフル・ジャーニー」を解明すべく、自転車や車、鉄道といった移動を実際に楽しんでいる方々に、移動の魅力をお聞きしていきます。

 

第2回目にお呼びしたのは、 ローカルジャーナリストとして地元・島根県を拠点に取材や発信をしている田中輝美さん。大学生の頃に鉄道旅にハマり、「完乗(かんじょう)」と呼ばれるJR全線の乗車を達成した田中さんに、鉄道移動の醍醐味について伺いました。

 

*1 ジョイフル・ジャーニー

ロイヤル・カレッジ・オブ・アート大学インテリジェント・モビリティ学科の教授デール・ハーロゥ氏が提唱した新しい旅の価値観。デール氏によれば、「人々は単に移動をどこかへ行く手段と考えるのではなく、移動そのものの価値を重視するようになっていく」という。(出典:『AXIS』207号)

田中さんが、JR羽越本線で撮影した写真。車窓から日本海が見える。

「カタンカタンという心地よいリズムに揺られながら、缶ビール片手に、ほろ酔いで本のページをめくる。ふと窓の外に目をやると、いつもと違う風景が流れていく……」これは、著書『ローカル鉄道という希望』(河出書房新社)のあとがきに書いた一節ですが、私が思う鉄道移動の醍醐味はこの一文に詰まっています。現代人は日々の生活に忙しく、ゆっくり本を読んだり、考えごとをしたりする機会が減っているように思います。鉄道に乗って、移り変わる景色をただボーッと眺めるだけというのも、とても贅沢な時間の使い方ではないでしょうか。私の場合、缶ビール片手に本を読むのはもちろんですが、自分自身について考えを巡らせることも少なくありません。鉄道に乗りながら、「私はどんなふうに生きていきたいのだろう?」「今の私は目指す方向に向かっているのだろうのか?」と自問自答することで、その時々の自分が見えてくるような気がしています。鉄道に乗っている時間そのものが、私を強くしたと言っても過言ではありません。

それから、その土地のローカリティを感じられるのも、鉄道移動の魅力だと思います。鉄道は全国どこにでもあり、地域に根ざした乗り物です。地域の人々の足として、高校生やおじいちゃんおばあちゃんなど、その土地で暮らすさまざまな人が乗車します。少し観察してみると、「この土地の方言だ」「これがこの地域の学校の制服なんだな」など、小さな発見があります。ですから、鉄道に乗っている間は、何かを使って時間を潰すというよりも、耳を澄ませたり、想像したりして、その土地に流れている空気を楽しむようにしています。

19歳で鉄道旅に目覚め、約20年かけて、北は北海道・稚内から、南は鹿児島・枕崎までJR全線を完全乗車(完乗)しました。乗り鉄(*2)の中では、「完乗すると燃え尽き症候群のようになる」と言われていて、もれなく私も同じ運命をたどりましたが(笑)。今なんとなく楽しんでやっているのは「駅そば」巡り。なんてことないおそばなのに、ホームで発車アナウンスを聞きながら食べると、本当においしくなるから不思議です。

 

*2 乗り鉄

俗に鉄道ファンのうち、主に鉄道に乗ることを楽しむ人のこと。(出典:スーパー大辞林(三省堂))

Profile

田中輝美さん

ローカルジャーナリスト。島根県生まれ。大阪大学文学部卒業後、地元の山陰中央新報社に入社し、報道記者として地域づくりや政治、医療、教育など幅広い分野の取材を行う。2014年同社を退社し独立。著書に『ローカル鉄道という希望』(河出書房新社、第42回交通図書賞奨励賞受賞)、『すごいぞ!関西ローカル鉄道物語』(140B)など。

http://www.tanakaterumi.com/

編集後記

筋金入りのペーパードライバーである私。自由に車を乗りこなし、時間に縛られず移動できる人を羨ましく思っていました。しかし「レールの上を走る電車に乗らないと、見ることのできない景色がある」と田中さんに教えていただき、電車内の時間がワクワクするものに変わりました。

電車に乗って景色を楽しみ、到着した先では自転車でサイクリングを楽しむ、なんていう合せ技もいつか実践してみたい!と夢は膨らむばかりです。

(未来定番研究所 菊田)

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