2021.03.22

地方を巡り、食を届ける。 「旅する喫茶」発起人に聞く、あたらしい旅のカタチ。

「旅する喫茶」は、カレー職人とクリームソーダ職人が運営する、全国出張型喫茶店。出向いた先々の食材を使ったその土地ならではのカレーとクリームソーダを提供するスタイルで、2019年4月から今までのあいだに13都道府県22ヶ所で開催を重ねてきました。旅先で開発されたレシピは、東京・高円寺の実店舗にて期間限定で提供することにより、地方と東京を繋ぐ役割も果たしています。今回はそんな「旅する喫茶」を主催するクリームソーダ職人のtsunekawaさんと、カレー職人の玉置さんに、各地を回りながら「旅する喫茶」を続ける理由や、おふたり考えるこれからの「旅」について、お話を伺いました。

(撮影:YUKO CHIBA、玉置直樹)

カレーとクリームソーダと巡る、

47都道府県の旅。

F.I.N.編集部

おふたりの出会いと「旅する喫茶」を始めたきっかけについて教えてください。

玉置直樹さん(以下、玉置さん)

僕は昔からカレーを作るのが趣味で、自宅でカレーを振る舞う会を催していました。そこにtsunekawaさんがやって来てくれたのが出会いです。その頃から彼はクリームソーダを作っていて、お互い旅好きでもあったので、旅とカレーとクリームソーダを掛け合わせたら面白いんじゃないかと盛り上がり、そこからスタートしました。

本日のカレー(チキン/炙りチーズキーマ)2種盛り¥1,300、青空のクリームソーダ¥900。カレーは、定番のチキンともう1種は週替わり。

(撮影:千葉裕子)

tsunekawaさん

僕はファッションデザイナーとしても活動しているのですが、常々ファッションは洋服だけ作っていればいいわけではないなと考えていて、食の分野で何か伝えられることはないかと考えたのが始まりです。名古屋出身で、小さい頃から喫茶店文化に慣れ親しんでいたのですが、老若男女さまざまな人が集まる喫茶店には、どんなことでも包み込んでくれる懐の深さがあると感じていました。そんな空間づくりができたら、僕が考える衣・食・住をうまく繋ぎ合せられるのではないかと考えました。そこで、まず自分でできることから始めてみようと、喫茶店メニューの中でも昔から好きだったクリームソーダを作り始めたんです。

F.I.N.編集部

そういった経緯があったのですね。47都道府県をまわろうと考えたのはどうしてですか?

tsunekawaさん

店舗を構えてしまうとその場所でしかできないので、47都道府県をまわって全国の方に、自分たちがつくる空間ごと届けようと思いました。SNSを利用すれば、その場に実際に行かずとも、写真やテキストなどから情報を得ることはできます。しかし、僕たちは直接体験していただく機会や現地の空気に触れることを大事にしたいと思っていたので、とりあえずやってみる価値はあるのではないかと。

鹿児島県で、たんかん農家さんを訪れた時の様子。

F.I.N.編集部

最初はどこからスタートしたのですか?現地ではその土地の食材を使ったカレーとクリームソーダを作っているそうですね。

tsunekawaさん

当時2人とも高円寺に住んでいたので、“旅とは玄関から1歩出た先”という捉え方で、まずは高円寺を起点として、古民家を借りてみたのが始まりです。

玉置さん

その次が、香川県です。僕の地元でもあり、プライベートでも仕事でも知り合いがいたので、自然と「香川でもやってみよう」という話になり。香川県では、瀬戸内レモンを使用しました。知人の紹介で生産者さんと直接出会い、今でも繋がりがあります。

香川へ行った時の「旅する喫茶」で販売した、瀬戸内レモンを丸ごと使ったクリームソーダ。tunekawaさん作。

F.I.N.編集部

印象に残っている土地はありますか?

玉置さん

印象に残っているのは鹿児島県。甘味が強い南国の柑橘たんかんと桜島大根を使用したのですが、たんかん農家さんへ直接伺ったり、桜島大根は桜島まで出向いて仕入れたりしたのもいい思い出です。大きくてかなりインパクトのある大根なんですよ。

鹿児島県・桜島まで出向いて購入した桜島大根。鹿児島での開催時にはこの大根を使った、玉置さん特製カレーを販売。

どんどん惹き込まれていく、

“旅”しながら喫茶店をするということ。

F.I.N.編集部

イベントにはどんなお客様がいらっしゃいますか?

tsunekawaさん

口コミが多かったです。どういうわけか、「誘われて来ました」と仰る方が意外に多くて。SNSが盛んな今の時代に、そのアナログ感がいいなと。ある程度僕たちのことや世界観をSNSで知って足を運ばれる方が多くなるだろうと思っていたのですが、それ以外にも自分たちの知り得ない範囲の方々に、純粋にその場を楽しんでご満足いただけました。続けていくうちに段々と、旅をしながら喫茶店をすることの魅力に惹き込まれていました。

F.I.N.編集部

さまざまな人との出会いがいい刺激になりそうですね。現地では場所を借りたり、飲食店を間借りしたりしていますが、世界観を伝えるための空間づくりとしては、どんなことを意識していますか?

tsunekawaさん

食事が美味しいというだけでなく、食と空間、その場にいる人などあらゆる要素が混ざり合った、いわば“総合芸術”のようなものを大切にしています。体験すべてがお客さんにとっての思い出になると思うので、トータルで提案できるよう意識しています。その場所の条件にもよりますが、例えば、「テーブルではなく、あえて縁側で食事をしてもらう」など、その時間自体をいい思い出として届けられるためのテーマを、毎回なんとなくではありますが設定しています。

F.I.N.編集部

そこでの時間がより特別になりそうですね。旅を通じて思うことはありますか?

tsunekawaさん

始めた当初は、「旅をしながら何かをする」ということについて、この試みを続けることが正しいのか、確証が持てない部分がありました。でもやっぱりやってよかったと、回数を重ねるごとに実感しています。まだ47都道府県をまわりきるには4、5年はかかるかと思いますが、長いスパンでやっていく活動でもあるのかなと思っています。

玉置さん

東京に憧れて上京して約4年。今でも東京は好きなのですが、いざ東京から地方へ行ってみると、地方もすごく熱いなと感じています。地方では、現地の方にアルバイトとしてお手伝いいただくのですが、人も本当にあたたかくて救われています。また地方をまわる中でさまざまな活動をされている方と出会えることも、刺激になっています。

F.I.N.編集部

ポップアップイベントだけでなく、観光PRもされているのはなぜでしょうか?

常川さん

1つは、僕たちが地方へ出向いてその土地の良さを肌で感じているので、純粋にそれを伝えたいという気持ちから。もう1つは、イベントをして終わりではなく、協力いただいた地方の方々に少しでも貢献できたら、という気持ちからです。県外からいらっしゃる方にその町の観光をより楽しんでもらいたいし、僕たちが発信する写真や文でその土地の魅力を知ってもらうきっかけになればと思っています。

F.I.N.編集部

3月に実店舗がオープンしましたが、どんな場所にしていきたいと考えていますか?

実店舗の入り口。扉を開けて、階段を上がった2階が店舗に。

tsunekawaさん

新しいことをするというよりは、これまで続けてきたことの延長線というイメージです。お店ができて完成ではなく、これがスタート地点。どんどん変化していけるお店でありたいと思っています。今まで東京でも間借りをしていたので、毎日営業するのは難しく、空間もこだわりきれない部分がありましたが、実店舗では、より空間全体で僕たちの活動目的や伝えたいことを理解してもらえるのではと考えています。

玉置さん

旅を通して出会った食材やその土地の魅力を、東京に住む人たちにも実店舗を通じて知ってもらえると嬉しいです。東京と地方を繋ぐ架け橋のような存在に、そしてここで知らない土地へ興味を持ち、この場所を拠点に全国を旅していくようなプラットフォームにもなれたらと思っています。

F.I.N.編集部

5年先の未来、どのような活動をしていたいですか?

tsunekawaさん

今のペースでいくと、47都道府県まわる活動の終盤に差し掛かっている頃だと思います。僕たちの「旅する喫茶」という1つのテーマ、47都道府県を旅するという意味で、旅の終わりに近づいている予定です。次のステップとしては、最近冗談半分で言っていることなのですが、「日本全国に村を作りたい」と考えています。いろいろな活動をする人たちが集まれる1つの拠点であり、新しい観光のあり方を生み出す場所にもなれたらいいなと。これはかなり長い目で考えていて、次の世代にも繋げていけるような活動ができたらと思っています。

玉置さん

僕も村を作るという野望に乗っかっていきたいなと思っています(笑)。コロナ禍で、地方への需要も高まってきていると感じますし、そういう拠点が全国にたくさんできたらいいですよね。

五感で感じる体験、

予期せぬ出合いが旅の魅力。

F.I.N.編集部

最後に、移動しづらい状況下ではオンラインでの旅なども注目されていますが、おふたりとってリアルに旅することの魅力と、その未来についてお聞かせください。

tsunekawaさん

オンラインだけになると、どうしても視覚情報がメインになってきます。一方で、リアルな旅では、肌に当たる風が冷たいとか、触った海の温度がどのくらいかとか、実際に訪れてみないとわからない五感で感じる体験が魅力。オンラインが増えているからこそ、そういった感覚をもっと伝えていかないといけないと感じています。そうしないと、行く意味がなくなってしまうし、行かなくてもできる体験が増えてしまう。その結果、土地ごとの文化が廃れてしまうような未来に繋がってしまうものだと思っています。そうならないよう、可能な範囲で直接足を運んで楽しんでもらえるような旅の魅力を発信したい。また、村づくりにも繋がりますが、各地の伝統工芸や歴史を遡って、古いものでもリデザインすることで現代にも受け入れられるような新しいプロダクトを生み出していきたいです。そんな風に今ある魅力を再構築して、発信を続けていけたらと思います。

(撮影:千葉裕子)

玉置さん

自分の五感で感じることもそうですが、人とのふれあいも現地へ足を運ぶからこそ体験できること。特に人との出会いは予測できないことが多く、行った先々で意外な繋がりが生まれたり、想像もしていなかったようなイベントが起こったりする。リアルな旅の魅力は、予期せぬ出来事に出会えることですね。僕もまた、旅先での人やものとの出会いをインプットとして、活動を通じてアウトプットするまでをひとつの循環と捉えているところがあります。これからは観光地を訪れるだけでなく、足を運ぶからこそ生まれる価値を求めて旅に出る方も増えるのではないでしょうか。あと個人的なことですが、温泉が好きなので、温泉に浸かるためにもやっぱり直接現地を訪れたいですね。

(撮影:千葉裕子)

〈旅する喫茶〉

住所:東京都杉並区高円寺南4丁目25−13 2階
営業時間:12:00〜20:00(L.O .19:30)
定休日:月曜日

Website:https://tabisurukissa.com/

Twitter: @tabi_suru_kissa

※現在は1日に2回、WEBでの事前予約制。詳細は公式Twitterからご確認ください。
※営業時間外の取材時に限り、マスクを外した状態で撮影させていただきました。通常時には、感染対策を徹底した上で営業しています。

編集後記

「旅する喫茶」は「茶の湯」と似ている、と思いました。

提供するメニューはカレーとクリームソーダという「型」を守る。食、空間、人とのふれあいなど一期一会の「体験」を提供する。毎回テーマを設定する。など、両者の共通点をいくつも発見したからです。

オンラインでなんでも疑似体験できてしまう昨今ですが、「旅する喫茶」と「茶の湯」の共通点の中に、「魅力的なリアルの場」づくりのヒントが隠れているように感じました。

(未来定番研究所 菊田)