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  • 第1回

    その土地でしか学べない技術を学ぶ

2019.10.09

若い世代を惹きつける、職業訓練校の今

第1回 その土地でしか学べない技術を学ぶ

働き方が多様化している現在、大学を卒業して就職活動をし、定年まで勤める働き方は必ずしも標準ではなくなってきています。一度就職した会社を辞めて畑違いの業界に飛び込むという人も増えるなかで、スキルを身につける場として機能しているのが職業訓練校。PCの技能や、職人の技術を身につけるなど学校によって様々な特色を有するなか、全国から木工の仕事を志す人が集まる職業訓練校に注目が集まっています。長野県にある上松技術専門校は木工に特化した職業訓練校です。作り手として生きていくこと、田舎で生活することなど、この学校には未来の生き方のヒントが詰まっていました。

(撮影:和田裕也)

木工の基礎だけでなく

地域の伝統工芸も学べるカリキュラム

長野県の木曽谷にある上松技術専門校。木曽ひのきの産地として有名な上松町で73年の歴史を持つ職業訓練校です。現在は木材造形科と木工科の二つのコースがあります。多数の木工作家や職人を輩出し、今も全国から生徒が集まるその理由は何でしょうか。主任訓練指導専門員である池田義一先生に話を聞きました。

F.I.N.編集部

上松技術専門校の特色を教えてください。

池田先生

職業訓練校は、1つの学校に建築科や機械科やコンピュータ関連の科、最近では介護福祉科(介護士養成)など、分野の違う学科が集まって設置されていることが多いのですが、当校は木工に特化した学校と言えるでしょう。

F.I.N.編集部

どんな方が入学されるのですか?

池田先生

今期の入校生は、年齢は18歳から60歳まで、北海道から沖縄までまさに日本全国から生徒が集まりました。木工未経験の方が多いですが、その他にも木工や建築の設計の分野に携わってきたけれど自分で作ってみたいと入校される方、家具の工場に長年勤めていたけれど、工場のなかでは家具作りの一部の工程にしか関われなかったのでゼロから学び直したいと入校した方もいます。

F.I.N.編集部

なぜ、日本中から人が集まる人気校なのでしょうか。

池田先生

木工に特化した技術専門校は全国でも少ないです。時代のニーズに即した木工分野への就職を目指す学科の木工科と、伝統的な木工分野への就職を目指す学科の木材造形科の二つのコースが選べます。

F.I.N.編集部

木工科で学ぶ時代のニーズに即した木工とはなんですか?

池田先生

現在の木工家具は、住宅事情の変化によってコンパクトで軽量で安価なものが好まれる傾向にあります。木を切り出して板状に加工した無垢材を使う無垢の家具ではなく、紙などの芯を木目のシートで覆うフラッシュ家具が主流になりました。木工科では主にフラッシュ家具の制作を学びます。一方、特注で自分の好みの家具を作りたいというお客さんもいます。デザインだけではなく、どんな樹種で、どんな塗装をしてと、細かく指定をするお客さんもいるんです。今は情報が手に入りやすくなった分、ものづくりの裏側を多くの人が知ることができるようになり、知識を持って家具を選ぶ人も増えたのです。どちらの家具が良い、悪いではなくて、好みや状況に合わせて好きなものを選べることが重要になります。木材造形科では無垢の家具の制作を学び、木曽地方の伝統工芸も学びます。

F.I.N.編集部

伝統工芸を学びたいという人も多いのですね。

池田先生

基本的な木工の技術のほかに、木曽地域の南木曽のろくろ細工、木曽平沢の木曽漆器などの伝統工芸を実習のなかに取り入れています。これは当校独自のカリキュラムです。上松の近隣地区には伝統工芸の地場産業があります。地域の特色である伝統的な技術を学べることも、生徒にとっては魅力なのかもしれません。

今の作り手に必要な心構え

F.I.N.編集部

生徒に授業のなかで伝えたいことはなんですか?

池田先生

3月に行われる技能祭では、生徒たちが1年間作った実習作品を販売します。昨年は、450名以上のお客さんが来校され作品は完売しました。生徒たちが日々作っているものは「実習作品」ではなくお客さんの手に渡る「製品」だということ。その意識が大事です。そして良品を作っているという自信を持ってそれを如何に発信していくかが課題でしょう。SNSを介していろんな物が売り買いされている昨今、作り手が製品に対する想いを語れること。出来上がるまでにかかるたくさんの工程を知ってもらうこと。お客さんに製品が渡るまでの接客まで気を配ること。お客さんは作り手の人間性も含め発注してくる場合があることを意識し、売り方に今以上の工夫が必要だと思います。職人は良い物だけを作っていればいいという時代ではなくなってきました。技能祭でお客さまと直接触れ合うことを通してそういったことも学んでほしいです。作り手の発信力も今後の課題になるので学校でもインスタグラムのアカウントを開設しました。生徒も日々の学びを学校のブログで発信しています。

F.I.N.編集部

都会から引っ越してきて、山のなかの木曽で一年間生活するという生徒もいると思います。田舎での暮らしの良さとはなんですか?

池田先生

木工をするには田舎が最適です。木工機械の音や塗装の設備、排気のことを考えると都会ではなかなか難しい。現在はSNSなどのツールを使って、どこにいても発信することができます。田舎でものづくりをしてインターネットで発信していくことが可能になります。木工を仕事にすることにおいて、田舎は都会より不便という状況は昔より少なくなっていると思います。

池田先生は、インターネットやSNSなどのツールの発展はものづくりをする人たちにとってプラスになると教えてくれました。志の高い生徒が全国から集まり、一年間学ぶ職業訓練校。ここから未来の作り手が生まれているのです。

長野県上松技術専門校

長野県木曽郡上松町大字小川3540

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ブログ:http://agematsugisen.blog.jp/

次回は在校生のインタビューと、自然豊かな土地に集まった生徒たちが、田舎で暮らしていくこと、ものづくりをしながら生きていくことを選択できる環境作りに取り組む卒業生の取り組みを取材します。