2020.09.07

”自学”高校生・梅田明日佳から学ぶ、 声を残し続ける先にあるもの。

調べたことやレポートなどを記録する「自学ノート」を小学3年生から続けている高校3年生・梅田明日佳くん。人知れず「自学」を続けていたことが世に知れ渡ることになったのは、中学校を卒業して間もなく。自学の経緯をつづった原稿を北九州市が主催する「子どもノンフィクション文学賞」に応募したところ、見事、大賞を受賞。選考委員の児童文学作家の那須正幹氏や、ノンフィクション作家の最相葉月氏、リリー・フランキー氏など、さまざまな人との出会い、さらにはNHKスペシャル「ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険~」で紹介されるなど、数々の“奇跡”を起こしました。そんな彼に、自分自身の声を聞き続けることの意義や、未来に残したい「自学」について伺います。

(撮影:中村紀世志)

見たい! 知りたい! という

好奇心から始まった自学ノート。

F.I.N編集部

自学ノートとはどういうものですか。

梅田明日佳くん(以下、梅田くん)

新聞記事の感想や展示会のレポート、コンテストに応募した自分自身の絵や作文の解説、そして「ぼくのあしあと」「ぼくの10大ニュース」と名付けた“自分史”のページ……とにかくその時々で調べたことや興味を持ったものを記録しているので、中身はごちゃごちゃです(笑)。

小学2年生(2011年)の3月に”通っていた幼稚園”で取材し、まとめたもの。できたものをコピーし、幼稚園の先生方にプレゼントした。表紙は、幼稚園の夏・冬の制服のイラスト入り

F.I.N編集部

自学ノートを始めたきっかけは何だったんですか?

梅田くん

「何でも好きなことをやっていい」という小学校の宿題がきっかけです。小学2年生の時は、自分が通っていた幼稚園に取材したことを画用紙にまとめて提出しました。思えばこれが僕の「初取材」です。はじめて新聞記事を取り上げたのは、小学3年生の時。ぼくの地元であるJR小倉駅前に設置された小倉祇園太鼓像のバチが盗まれたという記事(2011年6月)に、「とった人は、ばちがあたるぞ〜!!」という一言を添えました(笑)。その時から今も変わらず、5mmの方眼ノートを使っています。

小倉駅南口にある小倉祇園太鼓像。当時、高く振りかざした右手のバチが盗難に遭った

F.I.N編集部

すでに新聞を読んでいたんですね。

梅田くん

今はほぼ全面に目を通すようになりましたが、自学ノートを始めるまでは4コマ漫画の『コボちゃん』しか読んでいませんでした。小倉祇園太鼓像のバチの記事を読んで以来自分が住んでいる場所の記事が気になるようになったので、まずは「地域面」から。それからどんどん読む範囲を広げていきました。

F.I.N編集部

小倉祇園太鼓像の記事について“その後”を追いかけようと思ったのはどうしてですか?

梅田くん

そんなにかっこいいことではないんです。ただ単に「バチがない像を見てみたい」という野次馬根性から、証拠写真を撮りに行ったというだけで(笑)。友だちから「バチの代わりにすりこぎがはめられていたよ」という情報を聞くと、それもまた気になって見に行く。そんなことを続けていくうちにいつの間にかすべてを追いかけることになってしまいました。バチを見に行ったことがぼくの人生を狂わせたんです(笑)。

先生との交換日記が

知識の交換日記になるまで。

梅田くん

小学生のころは、自学ノートは担任の先生との交換日記のようなものでしたが、中学生になってからは資料館の方々との橋渡しをしてくれるものになりました。みなさんからいただくコメントが嬉しくてどんどん書いているうちに、いつの間にか自学ノートが僕の世界を、自分でも信じられないほど広げてくれていました。

勉強机に向かって自学に取り組む梅田くん。ずっと三菱鉛筆の2Bを愛用しているのだそう

F.I.N編集部

ノートにまとめる時に工夫しているところを教えてください。

梅田くん

誰かに読んでもらうことを前提にしているので、ビジュアルには気を使っています。写真を貼る場所を工夫したり、蛍光ペンで印をつけたり。文章についても何度も読み直し、もっと面白いのが思いついた時は全部書き直すことも。かっこいい言葉でいうと「全訂(ぜんてい)」っていうみたいです(笑)。

F.I.N編集部

続けることは想像以上に大変だと思うんですが、どうして続けられていると考えていますか?

梅田くん

僕のノートを読んだ方が「面白い」「もっと読みたい」と言ってくださるからです。実際にノートに感想を書き込んでくれたり、「こういうことは知ってる?」「この本読んでみたら?」と課題をもらったりすることがあるので、知識の交換日記のようになっています。いつの間にかそんなサイクルが出来上がり、自学ノートを続けることに少しプレッシャーを感じながらも、続けることの意味というのを感じられるようになりました。おかげでさらに興味の幅が広がり、頭の中が忙しい(笑)。ノートの中身に統一性がないと言われてしまいそうですが、本当に全部に興味があって絞りきれないんです。

これまでに完成させた自学ノートたち。ずらりと並べると圧巻のひとこと

梅田くんのとある日の「自学ノート」。左ページは「安川みらい館」に遊びに行った時のレポート、右ページは朝日新聞出版「サバイバル壁新聞コンテスト」に出品したもの。文系の進路を選んだが、ものづくりへの憧れは今も持ち続けている。(梅田くんの著書『ぼくの自学ノート』P.62-63より)

F.I.N編集部

ちなみに、梅田くんが特に印象に残っている「自学」ノートのページを教えてください。

梅田くん

中学2年生になったばかりのころ、北九州市若松区に今では全国でも数えるほどしか残っていない軍艦防波堤があることを読売新聞朝刊で知りました。その記事について記したページが特に印象に残っています。

僕はこの記事に出会う少し前、広島県呉市の大和ミュージアムを訪れていたので、響灘の荒波から洞海湾を守るため着底させた三隻のうちのニ隻が、戦艦大和を護衛した駆逐艦「凉月」「冬月」だとすぐに気づきました。

ある日、外出中に突然、軍艦防波堤を見に行こうと思いつき、若松図書館で行き方を尋ねたことで、司書の古野佳代子さんと知り合いました。そのとき古野さんに、年に一度の「軍艦防波堤を語る会」が翌日にあることを教えていただき、今ではその会の方々の仲間に加えていただいています。僕は中学2年生のころから太平洋戦争末期に関門海峡に投下された機雷の研究をしていますが、その時代に詳しい方との交流の場ができたことがとても嬉しかったです。

梅田くんが実際に書いた自学ノート。「誰かに読んでもらう時に読みやすいように」と、書く文字の大きさや、新聞の貼り方ひとつにも工夫が。ちなみに右ページのイラストは、梅田くん自身を書いたものだそう。

(左ページ:2016/04/08読売新聞 朝刊、右ページの写真:『若松軍艦防波堤物語』(発行元:社団法人福岡県人権研究所)P.6から引用)

目標を立てることが

背中を押してくれることも。

F.I.N編集部

毎年のようにさまざまなコンテストに挑戦されていますが、常に目前の目標を立てることは意識しているんですか?

梅田くん

それはあると思います。小3から応募を続けた「子どもノンフィクション文学賞」の最後のチャレンジでは、受験勉強で絶望的に忙しい中、5ヶ月をかけて仕上げました。目標は、年中行事のようになっているものもあれば、突然目の前に現れることもあります。

F.I.N編集部

ちなみに、今の目標を教えてください。

梅田くん

とりあえず、大学に入ることです。今本当にピンチで……現状をひとことでいうと、「高校3年生」というよりも「高校ザンネン生」ってところです(笑)。

F.I.N編集部

大学生になっても自学ノートは続けようとお考えですか?

梅田くん

正直わからないです。大学に入ったらとにかくたくさん本を読んで勉強したいと思っているんです。中学2年生の時、戦争中に関門海峡に投下された機雷について調べていたのですが、当時のぼくの力では限界をむかえてストップしてしまったので、もう少し研究してみたいと思っています。

たくさんの本やプラモデルなど、好きなものに囲まれた梅田くんの部屋

F.I.N編集部

最後に、5年先の未来についてお伺いします。ご自身、そして日本はどうなっていると思いますか?

梅田くん

ぼく自身は、社会人になっているかもしれないし、まだ学生かもしれない。今はまったく見えないけれど、新聞記者や研究する仕事に就いていられたらいいなと思っています。

それから、今年は新型コロナウイルスが流行したり、九州を中心とした豪雨被害が発生したりと看過できないできごとがたくさんありました。この経験を無駄にしないよう分析・研究して、5年後に同じようなことが起きても対応できるようになっていたらいいなと思います。ぼく自身の力ではどうにもできないけれど、どういう状況だったかというのはノートにしっかりと残しておくつもりです。

自分に、ノートに、声を上げ続けること。それが自分を取り巻く世界に小さな奇跡を起こし、こんなにも楽しいものにしてくれるということを教えてくれた梅田くん。こつこつと自学を続け、それを残し続けることは、これからの未来を生きる私達にとっても大切なことなのかもしれません。

Profile

梅田明日佳

2002年、福岡県北九州市生まれ。現在、私立東筑紫学園高校の3年生。小学3年生から北九州市が主催する「子どもノンフィクション文学賞」への応募を続け、「ぼくんちは寺子屋です」で小学生の部大賞を、「ぼくのあしあと 総集編」で中学生の部大賞を受賞する。2019年11月に放送されたNHKスペシャル「ボクの自学ノート〜7年間の小さな大冒険〜」が話題に。

編集後記

「アレはどんなこと? 」ふと頭の中でちょっとした疑問の声が訪れる。だいたい私たちは目の前の事に捉われ、スルーしてしまう事が多い。

梅田くんのように、自分だけの疑問を丁寧に調べ、学ぶ事で、知識となり、それが自身の特性となる。

取材を通して、自分の声に耳を傾け、学び、声をあげて(発信)いく。そんな行動が、学生だけでなく、社会人になっても必要な事だと再確認できます。

(未来定番研究所 窪)