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2019.08.15

F.I.N.的新語辞典

第44回| スマートアグリ

隔週でひとつ、F.I.N.編集部が未来の定番になると予想する言葉を取り上げて、その言葉に精通するプロの見解と合わせながら、新しい未来の考え方を紐解いていきます。今回は、スマートアグリをご紹介します。

写真提供:日本農業情報システム協会

スマートアグリ【すまーとあぐり/smart agri】

スマートアグリカルチャー(スマート農業)の略語。ロボット技術やICTなどの先端技術を活用し、生産管理や品質・生産効率の向上などを実現する新たな農業のこと。

農作業の自動化やデータ分析による栽培管理、ノウハウのデータ化など、スマートアグリの取り組みは多岐にわたります。スマート化を図ることで日本の農業の活性化に貢献したいという志をもった企業・個人からなる団体、一般社団法人日本農業情報システム協会(JAISA)で代表理事を務める渡邊智之さんに、いま特に注目している取り組みを教えていただきました。

「株式会社笑農和(富山県滑川市)が開発・提供している稲作農業生産者向け水位調整サービスpaditch(パディッチ)です。これは、水門取水口に設置することでリアルタイムで水温や水位を測り、あらかじめ指定した水位や時間に自動開閉することができるIoT水門。開閉はアプリで遠隔操作でき、モグラによる被害などを通知する機能も備えています。将来的には、蓄積されたデータをAIが解析し、人間が水門を開けようとするときに『今は開けてはいけない』とレコメンドしてくれるようになります。単なる労力の低減だけではなく、タイムリーに管理することで水温などの調整も精緻に行われ、米の食味ランクにも影響するといいます」

作業の省力化や生産効率アップなど、さまざまなメリットが得られるスマート農業。今後ますますの発展が期待されますが、「政府の考える“スマート農業”は、イメージ上“ロボットやAIを使った楽する農業”に舵を切っているように誤解される危険性があると感じています」と渡邊さん。「確かにロボットやAIで作業は楽になりますが、農業生産者自身を成長させるような賢い農業の実現には直結しないと考えます。異業種とは違ってメカニズムやロジックが解明されていない部分の多い農業においては、先進的な農業生産者が必死に自分たちならでは手法を確立しようと、日々、試行錯誤や創意工夫を繰り返しているのが実情です。“スマート農業”で急ぎやらなければならないのは、日本の素晴らしい農業技術の承継です。そのためには農業者が日々蓄積するデータが重要になりますが、まだそれらが不足していることが一番の課題だと思います」。

最後に、スマートアグリの普及により日本の農業はどう変わるのか、渡邊さんが思い描く未来像について教えていただきました。

「昨今メディアで取り上げられるスマート農業の多くは生産過程におけるICT化事例ですが、フードバリューチェーン(サプライ・チェーン・マネジメント)全体で考えることで、“農林水産業”の枠から大きく飛び出した多様なビジネスモデルの創造が想定されます。現在、大手流通・小売と取り引きしている農業生産者はシステム上で日々の作業の記録(主に農薬・肥料の散布履歴)の入力を義務付けられていますが、それは大手流通・小売サイドのトレーサビリティを意識したものであり、蓄積されたデータを農業生産者が活用することで生まれるメリットまで想定した仕組みにはなっていません。近い将来、グローバルにフードバリューチェーン全体のステークホルダーが個々に役立つ情報が得られるプラットフォームが形成されていくのではないかと思います」

12月13日、『スマートアグリ・シンポジウム2019 in あおもり』が、青森で開催されます。スマートアグリに取り組む企業が農業ITの未来について語り合うこのイベントには、渡邊さんも登壇予定。これからの農業に興味のある方は、ぜひチェックしてみてください。詳細は一般社団法人日本農業情報システム協会のHPから。

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