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2022.10.13
地元の見る目を変えた47人。
「うちの地元でこんなおもしろいことやり始めたんだ」「最近、地元で頑張っている人がいる」――。そう地元の人が誇らしく思うような、地元に根付きながら地元のために活動を行っている47都道府県のキーパーソンにお話を伺うこの連載。
第6回にご登場いただくのは、宮城県でイベントプランナーとして活動する渡辺沙百理さん。仙台市を拠点に、食品ロスやプラスチックごみ削減、使い捨てない暮らしをテーマに、人と物が繋がる「場」を作っています。そんな渡辺さんがイベントプランナーとして活動を始めたきっかけや、場づくりにおいて大切にしていること、渡辺さんが考えるこれからの街づくりのあり方について伺います。
渡辺沙百理(わたなべさゆり)さん
イベントプランナー・〈PLANNING LABORATORY〉主宰。宮城県大崎市生まれ。東北芸術工科大学デザイン工学部生産デザイン学科卒業後、仙台市内のインテリアショップを展開する会社に入社。13年間店長職や本部職に携わり、店舗運営や企画、国内外の仕入れを担当。 2016年に退職後、知人が運営するコミュニティスペースにてイベント企画をスタート。半年後、フリーランスのイベント企画業〈PLANNING LABORATORY〉を開業。現在は〈量り売りマルシェ〉や〈tsugi〉などのイベントを運営する傍ら、行政や企業が主催するイベントの企画にも携わっている。
人と人や場所がゆるやかにつながる。
そんな「場」が心地よくて。
宮城県仙台市・北仙台にある料理教室のアトリエで、毎月開催されるイベント〈量り売りマルシェ〉。食品ロスやプラスチックごみ削減をコンセプトにしたこのマルシェでは、パンや野菜、ハム、お味噌などすべてを量り売りや1個売りで販売。お客さまは容器を持参し、必要なものを必要なぶん購入することができます。そして、食だけでなく先人の知恵を継いで使い捨てない暮らしを提案するプロジェクト〈tsugi〉。この2つのプロジェクトを企画・運営しているのが、イベントプランナーの渡辺沙百理さん。イベントを通して、捨てない暮らし、循環する暮らしのためのヒントを発信しています。
もともと、仙台市のインテリア雑貨を扱うショップに勤務していた渡辺さん。大学卒業後13年間、家具や雑貨の販売だけでなく、商品の制作を海外に依頼したり、仕入れなども経験したりと、充実した毎日を送っていました。そんな渡辺さんがイベントプランナーという仕事に興味を抱くきっかけとなったのは、知人が開催する小さなイベントでした。
「『イベントプランナーを始めよう!』という意気込みで会社を辞めたわけではないんです。もともと辞めることは考えていなかったのですが、ほかにも違う世界を見てみたいという気持ちはありました。そう考えていた頃、知人が開催していた小さなイベントに遊びに行ったら、人と人、人と場所がゆるやかにつながる空間がとても心地よくて。なんとなくお手伝いするようになり、そこに集う方達とのつながりも少しずつできてきた頃、『私もイベントを企画してみたい』とオーナーに相談し、実験的にやってみることに。そこでさまざまなご縁ができていって、気づいたらその半年後には開業していました」
初めて手がけたイベントは、
季節を感じる小さなマルシェ。
渡辺さんが初めて企画したのは、〈arne(アルネ)〉というコミュニティスペースで開催していた小さなイベント。毎月季節ごとにテーマを設け、暮らしが豊かになるヒントを届けることをコンセプトに、移動コーヒー屋や花屋、パン屋など5店舗が集まりました。実験的に始めたとはいえ、しっかりとコンセプトを練り企画書を作成、毎月のテーマや作りたい空間、出店者の選定理由などをオーナーにプレゼンするところから始まります。
イベントの企画・運営のノウハウはもちろん、イベントを形にしていく難しさや面白さも経験し、その後につながるかけがえのない貴重な時間だったと、当時を振り返ります。
「自分が仕掛けた場所、意図して作った場に人が集い、そこからまた人と人がつながっていく。そして『売り買いだけじゃない関係』が生まれる。そんな場が自分の街にあると、日々の暮らしがもっと楽しくなるきっかけになるはず」イベントを通して、そう確信したといいます。
暮らしのヒントを持ち帰ってほしい、
足を運ぶ意味のあるイベントに。
イベントプランナーを始めた当初から、日々の暮らしがちょっと豊かになることをテーマに、イベントを企画してきた渡辺さんが〈量り売りマルシェ〉をスタートしたのは、2019年6月のこと。フードクリエイターで料理教室〈紫山のごはん会〉主宰の佐藤千夏さん、食肉加工品メーカー〈有限会社ジャンボン・メゾン〉でハムのブランドを手がける髙崎かおりさん、そして渡辺さんの3名で主催。ある商談会で、髙崎さんから「ハムのオーダーカットをして販売したい」と相談を受けたのが始まりでした。
「スーパーでは、その人に必要な量なのかは関係なく、野菜も肉も魚も、決まった枚数や量でパッケージされて販売されるのが当たり前で、私もそれを無意識に手に取っていました。商品を流通にのせるためには必要ですが、持ち帰った瞬間ごみになるものがほとんど。包装材を仕入れるのにもお金がかかるし、売る側も、見方を変えるとごみを買っていることにもなる。そこで思いついたのが、〈量り売りマルシェ〉です」
曜日に関わらず毎月二十四節気に合わせて開催。スーパーに行けば季節に関係なく、何でも手に入る時代ではあるけれど、旬の食材に触れることで、季節の変化や自然の営みを考えるきっかけになって欲しいという思いからです。
もともと環境に対して意識が高かったわけではなかったという渡辺さん。イベントをきっかけに知識も深まり、回を重ねるごとに自身の暮らしも少しずつ変化していったといいます。そこで立ち上げたのが、〈tsugi〉プロジェクト。プラスチックフリー味噌づくりや洋服を補修するダーニング、金継ぎなど、先人たちの知恵を継ぐ、捨てない暮らしの知恵を共有するワークショップをはじめ、未来を生きる子どもたちに継いでいきたい、大切にしたい体験ができる場づくりの〈継ノ芽〉、作り手から直接購入でき、ごみの出ないお買い物を発信する〈継ノ市〉で構成されています。
どちらのプロジェクトでも、「ここにきたら、必ず何か自分の暮らしに持って帰れるヒントがある」そう思える場所を作ることを大切に考えています。「せっかくこの場所で人と人が介しているので、ただ必要なものを買うだけでなく、作り手から直接買ったり話が聞けたりすることでコミュニケーションが生まれると、わざわざ足を運ぶ意味が出てくる。それを感じられる、体験できるような場づくりを意識しています」
売り買いだけではない。
人と場がつながり、広がっていく。
〈量り売りマルシェ〉を始めて3年。スタート当初から、結局ごみになってしまう紙のチラシは一切作らず、告知はSNSだけでしたが、浸透するまで何度でも発信し続けることで、徐々に輪が広まってきたと実感していると話す渡辺さん。
「SNSでは、企画や出展者さんのお知らせをメインに、時々私たちの思いや届けたいことを、参加するメンバーみんなで発信していきました。SNSだけでどれだけ効果があるだろうと思っていたけれど、シンプルに自分たちが届けたい声を出して、呼びかけることで、それを純粋に受け取って応じてくれる方がいるんだなと、気づきがありました」
また、主催者だけでなく、出店者やお客さまの意識にも、少しずつ変化を感じているとのこと。
「毎月開催しているので、いらっしゃるお客さまの半分は常連の方。容器を持参する段階から考えて参加してくださるので、普通のマルシェに行くよりも頭を使うし、荷物も増えるけれど、それをお客さまご自身が楽しんでくれているのがわかります。毎月同じお顔をお目にかかれることも嬉しいし、まだ小さかったお子さまがどんどん成長していく様子も見られるのも楽しい。お客さま同士も顔見知りになって『また会いましたね』と会話する様子を見ると、売り買いだけではないつながりが生まれているなと実感します」
なかには普段の買い物でも、肉屋さんやパン屋さんに容器を持ち込んで「1人量り売り」にチャレンジしてくれる方もいて、「やってみたよ」と教えてくれるのだそう。また、参加してくれたお店の方も、自分のお店でも容器持参を呼びかけてくださるお店も増えているのだとか。
「仙台の老舗百貨店〈藤崎〉で、今年5月に量り売りマルシェを開催しました。バイヤーさんがイベントに足繁く通ってくださって、百貨店でもこういった取り組みを発信していきたいと声をかけてくださいました。包装が丁寧なことが魅力でもある百貨店で、こういった活動に共感してくださったこともすごく嬉しかったし、とても意味のあることだと思っています」
そのほか、ハウスメーカーが開催するイベント「いしのまき循環生活アパートメント」にも、企画から参加。石巻エリアの資源に着目し、持続可能な暮らしについて考え、触れる場を提供しています。自身の活動の枠を超えて、さまざまな場所へ渡辺さんの思いが浸透していきます。
暮らしの小さな積み重ねが
街やそこに暮らす人の生活をつくる。
自身の活動を続けると同時に、企業との取り組みや行政との街づくりプロジェクトにも関わることが多い渡辺さん。渡辺さんが考える街づくりについて尋ねました。「街づくりというと漠然としていますが、私はどちらかというと、日々の暮らしの積み重ねや小さなものの積み重ねがあって、それによって街ができていくというイメージで捉えています。その中で自分ができることとしたら、ごみを出さない暮らしを発信したり、それに共感して一緒に活動・発信してくれる仲間を増やしたりしていくことです」
渡辺さんがイベントやプロジェクトを企画する上で大切にしているのが、小さく集うこと。コロナ禍で、よりその大切さを感じたといいます。「大きなイベントより、日常に根づいていくような、日常に寄り添うような場所を作っていきたい。自分の感覚には、その方がスッと入ってきます。コロナ禍では、自分の思いと、大きく集うことは難しいけれど小さく集うことはできるという世の中の状況が、余計マッチしていったように思います。
また、自分たちの声が直接届けられる範囲で、小さく輪を広げていくのがいいよねとメンバーとも話していて。小さくてもきちんと声が届けようとすれば、お客さまはきちんと受け取ってくださるので、活動の輪自体も確実に広がっていきます」
イベントの企画を始めた頃は、素敵な空間を作ってそこで人やものがつながる場所を作りたいという感覚的にやっていたけど、それだけでは集客も内容も行き詰まる瞬間が出てくると感じたと、過去の経験を話してくれました。そんな経験から、「イベントのコンセプトや目的が自分の中で明確になっていると、お客さまもそれを感じとって目的を持って参加してくださる。素敵な空間を作ることももちろん大事ですが、いろいろなイベントを手がけてきて、軸となる目的をしっかり定めて、軸をぶらさず続けることがすごく大切だなと感じています」
ごみが出ないことが当たり前に。
これからの暮らし方と場づくりとは。
「まだまだ環境問題に興味を持っていない方、入り口にいる方の方が圧倒的に多いと思います。まずは入口に立って一緒にやっていきたい。私の周りには意識が高い方が多いけれど、一般的に広い目で見るとまだまだです。宮城県は生産者が多いという意味では、都会よりはそこからの発信を受け取っている方もいるけれど、一歩引いてみると循環が広まっている方が多いイメージはまだありません。
当たり前になっていることも、当たり前じゃない。〈量り売りマルシェ〉や〈tsugi〉の活動が、気づくきっかけになってもらえたら嬉しいです。量り売りで、ごみが出ないスタイルのお買い物が当たり前の世の中になるまでやっていきたいし、『あのとき頑張ってよかったねと言えたらいいね』と、メンバーとも話しながらやっています。そういう感覚や考え方が、日常的に浸透していくような暮らしが理想です」
2019年から始めた環境問題や持続可能な取り組みを日常の暮らしに落とし込んだプロジェクト。次のステップとして、生ごみを堆肥に変える「コンポスト」をツールにした循環する暮らし、捨てない暮らしをどんどん広げていきたいと考えているという渡辺さん。〈tsugi〉を始めたときから、コミュニティコンポストの構想がすでに頭の中にはあったといいます。
「食品ロス削減から、削減するだけじゃなくてそこから栄養循環の流れを作れたらいいなと考えています。畑をシェアして、作った堆肥を持ち寄って野菜を作ったり、花を育てたり。それで、地域の繋がりや人と人が交流する場を作りたい。そう思って、いまコンポストの講座を受講しています。コミュニティコンポストを目標に、これからも活動を続けていきたいと思います」
【編集後記】
渡辺さんのサステナブルなイベントは、参加するだけで、心が豊かになりそうです。 イベントの規模は小さくても、参加者へのメッセージをきちんと伝えていくという、イベント作り自体が、まさに持続可能性があり、環境にもやさしく、人々にも実感してもらえるような活動だと思えます。
このようなイベントが、日本全国、規模は小さいが、それぞれの地域で形を変えながら広がっているのは、人々とのふれあいや、モノを大切にする気持ちといった、現代では、希薄になりつつあった価値観に響く取り組みだからでしょう。
(未来定番研究所 窪)
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