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2024.08.05

F.I.N.的新語辞典

第93回| 漁網リサイクル

F.I.N.編集部が未来の定番になると予想する言葉を取り上げて、その言葉に精通するプロの見解と合わせながら、新しい未来の考え方を紐解いていきます。今回は「漁網リサイクル」をご紹介します。

 

(文:大芦実穂)

漁網リサイクル【ぎょもうりさいくる/recycled fishing net】

海洋プラスチックごみ削減のため、使用済みの漁網を再生させる取り組みのこと。回収した漁網は洗浄し、海藻や鱗の付着物を取り除いてから、米粒状の再生樹脂「ペレット」に加工される。そこから糸や生地を作り、さらにかばんや衣類、雑貨などの製品へと生まれ変わり、エンドユーザーに届く。

世界の海に800万トン以上存在するといわれている海洋プラスチックごみ。日本だけでも年間2〜6万トンが海岸に漂着しており、そのうち漁網やロープなどの「漁業ごみ」が占める割合は約3割にのぼります。「漁業ごみ」が自然分解されるには約600年かかるという試算もあり、世界でも深刻な問題になっています。

 

今回は、2020年から廃漁網リサイクルに取り組む団体「ALLIANCE FOR THE BLUE(アライアンス・フォー・ザ・ブルー)」でアライアンスコーディネーターを務める堀口瑞穂(ほりぐち・みずほ)さんに、漁網リサイクルの現状と課題を伺いました。

 

 

「港に置いていたものが台風でさらわれたり、海の上で網の交換をしている時にうっかり落としてしまったり、漁網が海洋ごみとなってしまう理由はさまざまです。また現代の漁網はナイロンやポリエステルなどの石油由来の樹脂でできていることから、修理するよりは新調したほうが安く、廃棄量も年々増えている状態です」

 

「アライアンス・フォー・ザ・ブルー」は、地元の漁業者や、産業廃棄物処理業者、化学メーカー、日用品メーカーと恊働して漁師さんから使わなくなった漁網を集める仕組みを整え、集まった漁網をペレット(合成樹脂)に加工し、製品へとリサイクルするという一連の流れを実現しています。この製品が売れた際には、価格の2〜5%を藻場の再生プロジェクトに寄付し、海洋環境へのよりよい循環を目指しているそうです。

「アライアンス・フォー・ザ・ブルー」では、2021年に日本一のかばんの生産地である兵庫県豊岡市の地域ブランド〈豊岡鞄〉とともに、廃棄漁網由来の再生生地を使用したかばんを発表。また、ステーショナリーなどで知られる〈コクヨ〉とも漁網を再利用したペンケースを製作している。

「アライアンス・フォー・ザ・ブルー」では、2021年に日本一のかばんの生産地である兵庫県豊岡市の地域ブランド〈豊岡鞄〉とともに、廃棄漁網由来の再生生地を使用したかばんを発表。また、ステーショナリーなどで知られる〈コクヨ〉とも漁網を再利用したペンケースを製作している。

 

 

2024年には海外のハイブランドでも漁網由来の素材を使用したバッグが発表されるなど「漁網リサイクル」が広がりをみせる一方で、「まだ課題はある」と堀口さんは話します。

 

「毎年出ている廃漁網の量からすると、B to Cではリサイクルが間に合っていないのが現状です。これからは積極的にB to Bの取り組みをしていく必要があると考えています。例えば、企業がイベントで出すのぼり。こうした一度で捨てることも多い装飾品を漁網リサイクルでつくってもいいかもしれません。最近はのぼりにプリントされたインクを真っ白に脱色できる技術もあるので、再利用することで総合的にCO2排出量を減らすこともできます」

 

最後に、少し先の未来では漁網リサイクルがどのような立ち位置になっていると思うか聞いてみました。

 

「上場企業などでは2030年をベンチマークに、CO2排出量やリサイクル材の使用率などの目標を立てています。そうした成果の要因の中に漁網リサイクルが関与していたら誇らしいですね。それから、港にはコンビニに置いてあるようなごみの分別ボックスが配置され、漁網を使う漁師さんたち自らごみを分別するようになっているのではないでしょうか」

 

堀口さんによると、プロジェクトが始動した2020年に比べて、さまざまな企業や、大学生などからの問い合わせが増えたと話していました。国内外のあらゆる業界の企業が参入しはじめ、定番になりつつある漁網リサイクル。将来を担う若者たちが引き継いでいってくれると、地球環境の未来は少し明るくなるかもしれません。

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