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2019.04.01

F.I.N.的新語辞典

第36回| シェフ・イン・レジデンス

隔週でひとつ、F.I.N.編集部が未来の定番になると予想する言葉を取り上げて、その言葉に精通するプロの見解と合わせながら、新しい未来の考え方を紐解いていきます。今回は、料理人を地域に迎え、働いてもらいながら、料理人ならではの視点で地域の可能性を見出そうとする取り組み、シェフ・イン・レジデンスをご紹介します。

写真:浜田智則 雛形

シェフ・イン・レジデンス【しぇふ・いん・れじでんす/chef in residence】

 

国内外の料理人が一定期間滞在して土地の食材に触れ、その食材を使った食事会などを通じて地域の人々との交流を図ること。

 

アーティスト・イン・レジデンスとは、ある土地に招聘されたアーティストが一定期間その土地に滞在しながら作品制作を行うことですが、シェフ・イン・レジデンスはその料理人版ともいえる取り組み。地方創生の先進地としても知られる徳島県名西郡神山町で20年以上続くアーティスト・イン・レジデンスを参考に、同地で“地産地食”を軸に活動する株式会社フードハブ・プロジェクトが始めた自主企画です。その具体的な内容について、株式会社フードハブ・プロジェクトの支配人、真鍋太一さんにお伺いしました。

「基本的に我々が提供しているのは滞在場所と食事で、お金のやり取りは一切ありません。里山の農的暮らしの“日常”を体験できること、食のイベントを通じて他の地域へも旅ができることが特徴で、いわゆる観光とはひと味もふた味も違った多様な文化交流になっていると思います。我々が提供する経験との交換として、食堂のお昼ご飯のメニューで自己紹介するランチイベントや、地元の食材を使った加工品を、地域の人たちと関係性を続けていくための彼らの“作品”として残してもらうことをお願いしています」

 

このプロジェクトにはこれまでイタリア料理家の川本真理さん、NYのシェフ、ダニー・ニューバーグさん、デイブ・グールドさんが参加。例えば現在、神山町に滞在しているデイブ・グールドさんは「デイブの神山トマトソース」を“作品”として発表しました。「トマトの風味をより深めるためにトマトの葉を加えたり、紫蘇を入れて煮込んでいるのが特徴です。彼がフードハブの加工チームにレシピを教え、今では自社で製造しています」

 

では、シェフ・イン・レジデンスを通じて真鍋さんをはじめとするフードハブ・プロジェクトが目指すものとは何なのでしょうか。

 

「神山のシェフ・イン・レジデンスには、文化人類学的な側面があると思っています。CIRの活動テーマを“小さな食料政策”としているのも社会的な視点を意識して取り組んでいくためです。日本の田舎で一定期間暮らし、働くことで見えてくるリアルな日常の風景。それを料理人独自の視点と技術で捉え、“食べる”ことを通じて世代や立場、国籍を超えて多くの人を繋いでいく。料理人を中心にアーティストや研究者など分野を横断する実験の場であり、学び合いの場になっていけばと考えています」

 

昨年は尾道や鹿児島、与謝野などで、期間限定イベントとしてのシェフ・イン・レジデンスを開催したのだそう。「今は神山町でこの活動を定着させていくことを最優先に考えつつ、他の地域とも連携してシェフ・イン・レジデンスに取り組んでいければと考えています」

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