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2026.06.15

第46回| カフェを起点に板金技術の循環を目指す。東京・東村山〈和國商店〉内野友和さん。

「うちの地元でこんなおもしろいことやり始めたんだ」「最近、地元で頑張っている人がいる」――。そう地元の人が誇らしく思うような、地元に根付きながら地元のために活動を行っている47都道府県のキーパーソンにお話を伺うこの連載。

 

第47回にご登場いただくのは、東京・東村山の青葉商店街にあるカフェ〈和國商店〉代表・内野友和さんです。板金職人として地域に根ざしながら、職人技術の継承と商店街の活性化を願い、2024年1月にこのカフェをオープンしました。設計を手掛けたのは、世界的建築家の隈研吾氏。なぜ小さな商店街の一角に、隈研吾設計のカフェが生まれたのか。そして、この場所は地域にどんな変化を生み始めているのか、内野さんにお話を伺いました。

 

(文:大芦実穂/写真:西あかり)

Profile

内野友和さん(うちの・ともかず)

高校卒業後、父・國春さんのもとで建築板金の修行を開始。2014年〈株式会社ウチノ板金〉の代表取締役に就任。自社ブランド〈和國商店〉を設立し、建築板金の技術で作られた折鶴やペーパークラフトブランド〈Oxygami(オキシガミ)〉とのコラボレーション作品を手掛ける。2024年、隈研吾氏が設計したカフェを東村山市にオープン。

https://www.wakuni.shop/

東村山の新しいランドマークに

東村山駅でタクシーに乗り、「和國商店へ行きたいのですが」と伝えると、運転手さんは「ああ、和國商店ね」。住所を告げることなく、約10分ほどで、青いうろこのような見た目が印象的なカフェ〈和國商店〉に到着しました。

外壁を覆う青いうろこようなものの正体は、すべて銅板。施工は、内野友和さんが代表を務める〈ウチノ板金〉の皆さんが手掛けています。

 

「1枚1枚、接着剤を使わずに釘で固定しています。神社仏閣にも使われる『ハゼ』という技法ですね。下から順番に組み合わせていく必要があって、シンプルに見えるけれど、実はかなり大変なんです(笑)。銅板は1枚ごとに色味が違うので、どの色をどこに使うかまで、〈隈研吾建築都市設計事務所〉の設計で細かく決められていました」

手のように互いを引っ掛けて固定している。

入口のドアを開けると、目に飛び込んでくるのは黄金色に輝くカウンター。こちらは真鍮を使い、板金の技術によって1から制作したものだそうです。店内のテーブルや椅子の随所にも真鍮がきらり。岡山県の家具メーカー〈KITAWORKS〉に依頼し、オリジナルで製作したといいます。頭上には、うずまき型のランプシェード。こちらは〈隈研吾建築都市設計事務所〉との共同制作によるものです。

ランプシェード「渦」。

店内にはそのほかにも、これまでに制作してきた板金作品や、建物の模型などが並びます。折り鶴をモチーフにした人気商品も販売されており、空間全体が小さなギャラリーのよう。

 

この日も、1人静かにコーヒーを楽しむお客さんの姿がありました。近所の方がふらりと立ち寄る一方で、海外から建築ファンが訪れることもあるそうです。美大生や板金職人など、ものづくりに関わる人たちが足を運ぶことも多いといいます。

地元の商店街を再び賑やかにしたい

東村山の駅前でも、観光地でもない、シャッターの閉まった店が目立つ商店街の一角に、なぜ〈隈研吾建築都市設計事務所〉によるカフェが生まれたのでしょうか。それは、板金職人として地域に根ざしてきた内野さんが、「いつかこの商店街で何かしたい」と考え続けていたことが始まりでした。

 

「青葉商店街は、僕が生まれた頃からずっと通っていて、歴史は80年ほどあると思います。昔は本当に賑わっていて、お祭りの日なんて、人が多すぎて通りを歩けないくらいでした。東村山出身の志村けんさんが、商店街のお祭りに来てくれることもあったんですよ。もう、大変な人だかりでしたね。

 

でも、近くにスーパーができたり、事業承継がうまくいかなかったりして、少しずつ空き店舗が増えていきました。今、営業している個人商店は5〜6軒くらいだと思います」

そんな青葉商店街で、2022年の夏、内野さんは空き物件に出会います。のちに〈和國商店〉となる、角地のたばこ屋でした。

 

「実は、しばらく前からずっと物件を探していたんです。そんななかで、この角のたばこ屋を見つけて。『これだ!』と思いました。小さい頃、おやじのお使いで、よくここにたばこを買いに来ていましたし。ただ、物件を買うと決めた時点では、まだ何をやるか決まっていませんでした。でも、数年寝かせてもいい、という気持ちで購入したんです。いつかこの商店街で、何かやりたいと思っていたので」

 

転機が訪れたのは、そのわずか1週間後のことでした。

日頃から親交のある、岡山県の〈植田板金店〉の社長に誘われ、〈隈研吾建築都市設計事務所〉を訪れることになったのです。

 

「『隈さん本人には会えないけど、刺激になるんじゃない?』と誘っていただいて、二つ返事で同行させてもらいました。事務所で雑談している時に、最近買った物件の話と、商店街をもう一度元気にしたいという話をちらっとしたんです。すると植田社長が、『隈さんにお店の設計をお願いしてみれば?』って。でも、そんなのできるわけないじゃないですか(笑)。そうしたらスタッフの方も、『隈は興味あると思います』って真顔で言うんですよ。それで、その日のうちに5分だけ時間をつくってもらえることになって」

 

突然訪れた、隈研吾さんとの面談。内野さんはそこで、商店街への思い、築50年のたばこ屋を購入したこと、そして板金にかける思いを、一気に伝えたといいます。すると隈研吾さんは、その場で快諾。こうして〈和國商店〉の設計は、〈隈研吾建築都市設計事務所〉が手掛けることになったのでした。

素材も、技術も、循環させていく

〈和國商店〉が掲げるテーマは「循環」。1つは素材の循環です。外壁に使われている銅板は、広島県の速谷神社で実際に使われていたものだといいます。

 

「神社やお寺の屋根工事を手掛ける職人仲間がいて、ちょうど広島・速谷神社の塀屋根を葺き替えるタイミングだったんです。それで、古い銅板を譲ってもらえることになりました。ものによっては60年、長いものだと100年近く前の銅板です。宮島の対岸という場所柄、被爆している可能性もある。そう考えると、本当に長い歴史を背負ってきた素材なんですよね。隈さんも、『それは絶対やろう』と即決でした」

色が明るい銅板ほど時間が経っている。

もう1つは、技術の循環です。建築板金とは、金属板を加工し、屋根や外壁、雨どいなどを施工する仕事のこと。なかでも多くを占めるのが屋根の施工です。そんな板金技術が、〈和國商店〉では外壁や内装、照明など、空間そのものを彩るカタチで使われています。

 

「板金って、屋根だけじゃないんですよ。こういう外壁や内装、照明みたいに、もっといろんな可能性がある。実際、この店を見た職人さんが、こんなこともできるんだって感じてくれることも多くて。そういう連鎖が少しずつ広がっていったらいいなと思っています」

街全体が面白くなる、その初めの一歩

オープンから約2年半。商店街の風景はどのように変わったのでしょうか。そう尋ねると、内野さんは「まだまだ時間はかかると思います」と率直に話してくれました。

 

「この建物ができたからといって、すぐに人の流れが変わるわけでもないし、新しい店が次々にできるわけでもありません」

 

それでも、少しずつ変化の兆しは生まれています。近くでは、若い人が新しく居酒屋を始めようとしているそうです。また、全国各地の職人たちが、刺激を求めてこの場所を訪れるようにもなりました。

 

印象に残っているのは、千葉から訪れた親子のこと。父親は商工会の視察として、大学生の娘さんは建築に興味があって、一緒に往復5時間かけてやって来たといいます。

 

「お父さんが、『目的は違ったけど、ゴールが同じだったおかげで、娘とこんなに長い時間一緒に過ごせました』って話してくれたんです。うれしかったですね」

〈和國商店〉が目指しているのは、この店だけが特別な存在になることではありません。商店街全体が、少しずつ面白くなっていくこと。そんな風景を、内野さんは思い描いています。

 

「この店だけが目立てばいいとは思っていないんです。面白い人や店が少しずつ増えて、商店街全体が魅力的になっていけばいい」

 

屋根のメンテナンスがメインである建築板金は、夏は暑く、冬は寒い。建設業のなかでも特に過酷な仕事だといいます。台風や地震などの災害時には、いち早く現場に駆けつける重要な役割を担う一方で、近年は分業化が進み、一般の人が職人の仕事に触れる機会は少なくなりました。

 

「僕たち職人が、少しでも豊かになれる環境をつくっていきたい。昔は『ブリキ屋さん』って呼ばれて、もっと身近な存在だったんですよ。でも今は、工務店を通すことが一般的になって、職人と地域の人との接点がほとんどなくなってしまった。だからこそ、自分たちの仕事をちゃんと発信していくことが大事だと思っています。そのためには、こういうカフェやアート作品を入口にして、板金という仕事を知ってもらえたらうれしいですね。最終的には、業界全体の価値向上や、後継者不足の解決にも繋がっていけばと思っています」

【編集後記】

ネットなどで目にしていた和國商店へ実際に訪れることができ、建築好きとして素直に感激するとともに、隈研吾さんのデザインの力に加え、建物の施工や素材の質感・チョイス、空間に置かれているものなど、内野さんが日々鍛錬された確かな技術と誠実な仕事を実現するお人柄と合わさって、より盤石にできあがっているように感じました。そして板金の技術を伝えていくことを「循環」と表現されたのがとても印象的でした。また和國商店に、アート、デザイン、空き家問題解決、地域コミュニティ、リサイクル、リユース、歴史、おいしい食べ物など、とにかくいろんな要素を入れて、どれかが誰かの心に引っ掛かるように詰め込んだという表現もユニークで素敵でした。いろんなものを散りばめ、自分たちで探して自分たちで伝えることが大切で、発信力と地域の人に信頼される技術を兼ね備えておられるのが素晴らしく、そこにはとことんの愛がありました。

さて、今回の第47回 東京都で2022年5月から連載した「地元の見る目を変えた47人。」は最終回となります。お一人おひとりの情熱が本当に心を打つ、素晴らしい出会いばかりでした。貴重なお話を皆様からいただけたことに感謝いたします。ありがとうございました。

(未来定番研究所 内野)

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