2025.02.24

集める

仲間を集めて一緒につくる。〈TEAMクラプトン〉の考える建築の未来。

かっこいいもの、かわいいもの、美しいもの、珍しいもの……。自分が好きになったものをひたすら集めることは、昔から人の心を豊かにしてきたように思います。しかし最近は、ただ単に集めるだけでなく、その先に新たな価値を見出したり、形のないものを追い求めたりする人も少なくないよう。テクノロジーの発達によってあらゆるものにアクセスしやすくなった今、人々は何を集めるのでしょうか。その先に見出すものとは? F.I.N.では、「集める」の先にある価値観を探求します。

 

施工主はもちろん、その友人や周辺住民など多くの人と一緒に空間をつくる独自の建築手法が注目を集めている〈TEAM クラプトン〉。周囲の人を巻き込みながら、さまざまなアプローチで完成を目指します。彼らが手掛けた建築は口コミで話題となり、今や全国から依頼が来るように。仲間を集めて一緒につくることには、どんな可能性があるのでしょうか。〈TEAM クラプトン〉共同代表の山口晶さんに、これまでのプロジェクトでの実体験や、これからの建築の未来についてお聞きしました。

 

(文:宮原沙紀)

Profile

山口晶さん(やまぐち・あきら)

〈TEAMクラプトン〉共同代表。兵庫県生まれ。小学校卒業後イギリスに渡り現地の中学校、高校を卒業。その後マンチェスター大学にて建築を学ぶ。大学卒業後に帰国し、建築事務所でインターンや修行を経て2014年頃から〈TEAMクラプトン〉の活動をスタート。施工主やその周囲の人々が共に手掛ける建築に注目が集まり、これまで、260件の施工を行う。

Instagram @team_clapton

建築とは、コミュニティづくり

F.I.N.編集部

「集まってつくる」を実践している〈TEAMクラプトン〉の建築について、その特徴を教えてください。

山口さん

現在、神戸、京都、大阪の能勢町の3カ所を拠点に、内装、イベントの設営、シェアハウスの運営を行っています。平たくいえば建設業になりますが、特色は「DIT参加型」で施工を進めるということです。「DIT」とは、「Do It Together」の略。「DIY」が、「Do It Yourself」。つまり自分自身で作るのに対して、「DIT」は自分だけでなく、誰かと一緒につくることを手法としています。施工主やその仲間、地域の方や子供たちなど、いろんな人たちが集まって一緒に建築しています。

2022年から大阪府能勢町にも拠点を構え活動。

F.I.N.編集部

〈TEAMクラプトン〉は、どんなメンバーで構成されているチームなのでしょうか?

山口さん

設計士や職人だけではなく、市役所で働いていた人や、保育士だった人などさまざまな経歴を持っている人たちが集まっています。共通点としては、たくさんの人と交流することが好きだったり、場を盛り上げることが得意だったり。人を楽しませることが好きな人たちが集まっています。

F.I.N.編集部

山口さんは建築を学んでいたんですか?

山口さん

はい。イギリスのマンチェスター大学で建築を学び、その後もイギリスの大学院に進学するつもりでした。進学のためにはインターンの経験が必要だったので、一時帰国し日本の建築事務所でインターンをしました。そこで働いた経験からコミュニティづくりの面白さに気づき、大学院には進学せず日本で働くようになりました。そこから〈TEAMクラプトン〉の結成に至ります。

F.I.N.編集部

〈TEAMクラプトン〉の活動はどのように始まったんですか。

山口さん

きっかけとなった物件は、神戸の元町にあるビルです。持ち主であるポールさんは、ビルの1階で英語教室を運営していました。ビルの2、3階をシェアハウスにして外国人と日本人が交流して住める場所に、そして4階はバーにしたいと話していたんです。彼は最初、全部DIYでやろうとしていたんですが、忙しくて手を付けられていない状況でした。そこで「僕が図面を引いて人を集めるから、材料費とご飯代だけ出してよ」と提案。彼が「いいじゃん」と乗ってくれたので、一緒につくり始めました。僕や彼の友人、英語教室の生徒さんなどが週末に集まり皆で作業をしました。屋上がきれいになった時には、流しそうめんをしたり、作業の後は集まって飲んだりしてとても楽しかったんです。ものづくりがコミュニケーションツールになって、国籍も言語も違う人たちが、完成のために力を合わせる。その楽しさに気づきました。当初はこれをビジネスにすることは想像していませんでした。でも完成したビルや、つくっている過程を見た人に「うちの物件もやってほしい」と依頼され、どんどん口コミで広がっていったんです。

施工主の思いに共感した人が集まる

F.I.N.編集部

人はどのように集めるのですか?

山口さん

昔は僕たちが人集めをしていましたが、今は施工主の方に集めてもらうことが多いんです。例えばお店のリノベーションをするとなったら、そのお店のファンの方が手伝ってくれます。少しでも自分が関わったお店って、自分の場所のように感じられる。「この壁、僕が塗ったんだ」と、友達に自慢しながらビールを飲む感覚は、きっと特別でしょう。神戸市のインターナショナルスクールから依頼をいただいた時は、先生や生徒さん、その保護者の方たちなどで校庭にボルダリングの壁を作りました。

校庭に設置されたボルダリングウォールは、生徒たちが描いたアートで彩られた。

F.I.N.編集部

その物件に関わる人たちが集まって作業をしてくれるんですね。

山口さん

はい、僕たちが作業をしているのをたまたま見かけた近所の方たちが参加してくれることもありますよ。

F.I.N.編集部

「何かを作りたい」という欲求を持っている人はたくさんいるんですね。

山口さん

楽しそうな現場には、人が集まってきます。来てもらった人たちに、いかに楽しんでもらえるか。それが僕たちの腕の見せ所。作業の量が少ないとどうしてもおしゃべりしたり、ふざけたりして危険な状況ができてしまう。だから、集中してできる作業量を用意することを心がけています。

ジャズのセッションのように即興で建築ができあがっていく

F.I.N.編集部

人の集まり方によって建築のデザインも変わってくるのでしょうか?

山口さん

人数に応じて作業内容が変わるので、建築のデザインも変化します。ゲストハウスを手掛けた時は、参加した方が「楽しかった」と2回目以降は友達を連れてきてくれて、どんどん人が増えていきました。例えば、カウンターの腰壁を塗る時に、大きい一面を皆で塗るときれいな場所とそうでない場所ができてしまいます。そこで〈ゲストハウスMAYA〉のプロジェクトでは、木をデザインモチーフとして仕切りを作り、大人数で一緒に塗ってもおかしくないものにしたんです。この一見作るのが難しそうな形をしたスリットのデザインも、たくさんの人たちが来てくれたからできたもの。長さを決めて「こういう角度で切ってね」と指示すれば、一勢に取り組めるし、慣れていない人たちでも作れるデザインになっています。一般的な施工方法では想像できないようなデザインを提案できると感じています。

〈ゲストハウスMAYA〉のカウンターを施行中の様子(写真上)と完成後のラウンジ(写真下)。

F.I.N.編集部

それぞれの現場で、即興でできあがっていくんですね。

山口さん

まるでジャズのセッションのようですね。人がどのくらい集まるかわからないし、材料も予想ができません。現場で増えることもあります。例えばちょうど隣の家が解体されるタイミングということで材料をもらえたこともありましたし、「製材所でこんな材料が余っているよ」と情報をいただいたことも。僕たちになら材料を無償で提供したいと直接渡していただいたこともありました。

F.I.N.編集部

建築費用は、一般的な方法より安く抑えられるのでしょうか?

山口さん

建築費用を抑えるのならば、マンパワーを増やす必要があります。人件費を浮かせるためには、自分でやることが増えるので、大変な作業になるというお話はよくしますね。

F.I.N.編集部

金額ではなく、皆でつくる工程を大事にしたい人が山口さんたちに依頼しているんですね。プロジェクトに参加したことで、考え方や行動が変わったという人はいますか?

山口さん

仕事を辞めた人が何人かいます。日本のシステムでは大学在学中に就職活動をして、会社の面接を受けて条件の良いところから就職先を選んでいくのが一般的。プロジェクトへの参加を通して「こんな生き方もあるんだ」と、働き方にもたくさんの選択肢があると気づいたそうです。自分がやりたいことの本質的な部分は何だろうと、考える機会にもなっているのかなと思います。

〈TEAMクラプトン〉が描く建築の未来

F.I.N.編集部

海外でもこのような「集まってつくる」事例は広がっていますか?

山口さん

「ロンドンでは絶対にできない」と言われたことがあります。イギリスの都市部はすごく土地代が高いんですよ。僕らのお客さんは、バーやカフェ、ゲストハウスを開きたいという個人事業主のお客様がほとんど。ロンドンの街中では、個人が店を開くなんてまずありえないようです。店舗の設計は、ディベロッパーのような大きな資本を持っているところからの依頼を受けてデザインし、施工をする。お金を儲けることが一番の目的です。けれど日本の個人事業主の方々は、「こういう場所をつくって、お客様にこんなことを感じてほしい」という思いが一番先にある。利益率は無視できませんがお金が一番の目的ではないから、力になりたいという人が集まるんだと思います。逆に開発途上国の場合は、これまで体を張って働いてきたので、週末にまで友人のために汗をかいて作業をすることに意味を見出してもらうのは難しそうです。

F.I.N.編集部

日本だからこそできる、独特のモデルなんですね。

山口さん

現在の日本、台湾、韓国あたりはこの手法が面白がられると思います。アメリカや、イギリスではボランタリー精神が強いので、ホームレスの人たちへの支援プロジェクトなど、ビジネスがベースでないものだったら相性がいいのかもしれませんね。

F.I.N.編集部

仕事を通してどのような未来をつくっていきたいですか?

山口さん

今僕たちが生活するには、知らない人に何かをしてもらいお金を払って社会が成り立っている状況です。コーヒーを買うにも、電車に乗るにもすべてにおいてそう。でもお金ではなく、「ありがとう」と「どういたしまして」で成り立つ状況があってもいいですよね。そういう体験が増えれば、他人同士でももっと愛情を持って接することができるかもしれない。そんな社会ができていくといいんじゃないかと思っています。

F.I.N.編集部

感謝でやりとりをする社会、理想的です。

山口さん

お金を払うとすべてを任せられる反面、その大変さを知らないからクレームを簡単に言えるということもあると思います。「こんなにお金を払っているんだから」という感覚にどうしてもなってしまう。かたや自分で施工をして壁に傷をつけてしまったら、それは味や思い出になる。僕はお金や新築が不要だとも思っていないし、プロの仕事は尊敬しています。ただその一択でなくてもいいんじゃないかと思っています。自分で手を動かすことで感謝を持てたり、傷を可愛げだと思えたりするようになる。そういう機会があってもいいのかなと感じています。

【編集後記】

何かに没頭したり、作り上げたりする作業というのは本来多くの人が好きな行為なのではないでしょうか。ただ、大きなものを作ってみたい欲望はあるけれど、なかなか実行に移すことは難しいのが現状だと思います。

TEAMクラプトンの建築は、大人だけではなく誰もが参加でき、大勢で一緒に何かを作り上げる時間が提供されるとても素敵な空間になっているのだと思いました。そういった場では距離が縮まって一体感が生まれますし、試行錯誤しながら一緒に作り上げるということであればなおさら、その場所で得られる大きな達成感が人との繋がりを強くしてくれるのだと感じました。

(未来定番研究所 榎)