もくじ

2019.01.04

隈研吾が見据える、未来の建築のあり方。

前編 建築はもっと、小さく、柔らかく、人に寄り添う存在になっていく。

新国立競技場整備事業やJR高輪ゲートウェイ駅など、東京の都市を構成する一大プロジェクトに携わっている建築家・隈研吾。大規模建築においても、木材の可能性にいち早く注目するなど、常に未来の建築のあり方を模索してきた存在です。そんな隈さんに、今、試みていること、これからの建築に必要だと考えていることを語ってもらいました。キーワードは「小さな建築」「布」「変わってゆく建築」です。

(撮影:鈴木慎平)

Profile

隈研吾

くまけんご/1954年生まれ。建築家。木、竹、和紙など、自然素材を積極的に用いる建築で知られ、設計に携わった新国立競技場では木材と鉄材のハイブリッド構造を採用している。

F.I.N.編集部

今回は隈さんが思い描く「建築の未来」について教えてください。このキーワードから、最初に思い浮かぶのはどんな建築の姿でしょうか?

隈さん

そうですね。まず思い浮かぶのは「小さな建築」という考え方でしょうか。これは以前から僕が話してきていることですが、これからの建築はより人と親密なものになっていくと思います。20世紀の建築は、より高く、より大きく、ということを目指して超高層ビルを建てることに邁進してきました。ショッピングセンターなどでも、大きいほど楽しいといった価値観が広がり、都市でも地方でも巨大化が進みましたよね。その考えがちょうど世紀の変わり目あたりで逆転した。日本では3.11が起こったことも人々の価値観を変える大きなきっかけになったと思います。自然を前にした時の人間の儚さ。人は、結局は体ひとつで死んでいくといった真実に目を向ける人が増えた。どれだけ広いマンションを購入しても、それを死後の世界に持っていくことはできないわけですし、大きな建築を所有することに面倒さも感じ始めている。一方で、建築は小さくなるほど、人に優しくなり、人を幸せにするんです。「小さい」ということは単にスケールの問題だけではなくて、ディテールが親密になっていくということにもつながる。例えば、使われている素材が木材であったり、和紙であったり、人が居心地の良さを感じるもの。僕の設計した表参道のパイナップルケーキショップ「サニーヒルズ」も、60mm×60mmという細い木材を伝統的な木材建築工法で組み立てることで、森の中にいるような居心地を作っているし、豪雪地帯の新潟県に設計した住宅「モクマクハウス」では、名前の通り、木と膜(ガラスクロス)を用いて、キャンプにおけるテント生活のようなインティメートな空間を生み出している。そういった居心地やディテールも含めて、「小ささ」が重要視されるようになってきていると思います。

SunnyHills Japan © Daici Ano

表参道のパイナップルケーキショップ「サニーヒルズ」。地獄組みという伝統的な木材建築工法を用いている。

MOKUMAKU HOUSE © Koichi Satake

住宅「モクマクハウス」。皮膜のような素材が、光を優しく拡散する。木材のみの建築よりも、さらに心地よさを感じさせ空間だ。

F.I.N.編集部

隈さんは公共建築を手がけられることも多いですが、その「小さい」概念はパブリックの空間でも有効でしょうか?

隈さん

もちろん、積極的に取り入れるようにしています。高知県の梼原町に完成した「雲の上の図書館」では、床に起伏をつくって、自然の中で過ごしているような感覚になれるようにしてみたんです。ここを子供たちに裸足で走り回ってもらえたら、どれだけいいだろうって。床がフラットで、靴を履いて過ごすということは、つまりフォーマルな場ということですよね。その感覚を、足裏で感じる床の形状から壊していく。普段着の感覚で、リラックスできる図書館を目指したんです。

Yusuhara Community Library © Kawasumi・Kobayashi Kenji Photograph Office

高知県・梼原町の「雲の上の図書館」。地元産のスギやヒノキを活用しており、閲覧スペースは靴を脱いで入る仕組み。足裏から木のぬくもりを感じられる。

F.I.N.編集部

小さな仕掛けで人間の感覚は変わっていくのですね。お話を伺っていると、公共建築と住宅建築を同じ視点で設計されているようにも感じました。

隈さん

そういった面はあるでしょうね。先日、スコットランドに完成したヴィクトリア&アルバート博物館の分館「V&A Dundee」は、“都市の居間”をテーマとして設計したのですが、そのコンセプトにとても喜んでもらえました。博物館のオリジナルトートバッグにも「A Living Room for the City」の文字が入っているんです。屋内には巨大な吹き抜けも作ったのですが、そこに木材を使用することで、柔らかく、居心地の良い広場としている。公共建築であっても、どれだけ日常に近づけていけるのかということを意識しています。

F.I.N.編集部

隈さんのお話は、空間のコンセプトと、そこで使われた「素材」の話がいつも同時に出てきますね。隈研吾=木材といったイメージも強くありますが、今、注目しているのはどんな素材でしょうか?

隈さん

確かに、隈研吾の建築に対して、木材をイメージする人は多いですよね。もちろん、木材の研究も進めているのですが、最近は木材よりもさらに柔らかさを感じる素材として「布」に注目しているんです。前述した「モクマクハウス」でもガラスクロスを使っていますし、4月にミラノで発表したインスタレーション「Breath/ng」も、大気汚染物質を吸着する機能を持つ布「Breath」を採用したものでした。事務所には布専門のスタッフもいるんですよ。彼女は建築を学んだ後に、オランダのテキスタイルデザイナー、ペトラ・ブレーゼの事務所で布について学んでいる。それで帰国して、僕らの事務所で布の素材開発を担当してくれているんです。

(左)Breath/ng © Kengo Kuma and Associates(右)Breath/ng © Dassault Systèmes 2018

4月に行われたミラノデザインウィーク2018で発表されたインスタレーション。プリーツ加工を加えることで、布の表面積を広げ、汚染物質の吸着機能を増大させることができる。

F.I.N.編集部

「布」を建築に用いるというと、掛けたり、貼ったりするイメージがまず浮かびますが、隈さんの布の取り入れ方は、私たちの想像を超えた使い方なんでしょうか? 例えば、建築の構造にも布が関わっていたり?

隈さん

構造に関わっているケースもありますね。カーボンファイバーという一種の繊維を木材と組み合わせてみたり。布は、実はとても強いものなんですよ。だから、建築の骨である構造体に転用することも試みている。それに、何より着目しているのは人をくつろがせる効果が高いこと。考えてみたら人間というのは、建築を作るより前に、衣類を着て暮らしていて、布によって自分の身を守っていた。人間の原始的な生活と一体だった素材だと思うんです。人を精神的に守ってくれているものは、建築より、布なんじゃないかな、とかね。

F.I.N.編集部

おもしろいです。人にとって最も身近な素材が布である可能性があるのですね。すでに布を使用した建築例にはどんなものがありますか?

隈さん

洞爺湖のホテル「WE Hotel Toya」の改修プロジェクトでは、布を多用していますよ。布に折り目を付けることで、様々な形が作れますし、それを、柔らかさを感じさせる壁面にもできる。この空間はもともと老人ホームだったんですが、コンクリートの躯体はそのままに、布を足していくことでリノベーションした例です。これからの建築は「変わっていくこと」も重要。リノベーションという言葉が盛んに使われるようになってきましたが、まだまだ新築が標準で、リノベーションが特異という風潮はある。でも、本来はリノベーション行為こそが建築なんだと思うんです。今ある空間に手を入れて生まれ変わらせること、建築が「変わっていくこと」が当たり前となる時代が近いうちにやってくると思いますね。

WE Hotel Toya © Kawasumi・Kobayashi Kenji Photograph Office

洞爺湖のホテル「WE Hotel Toya」。布の可能性を生かしてリノベーションした。

(後編へ続く)

もくじ

隈研吾が見据える、未来の建築のあり方。

前編 建築はもっと、小さく、柔らかく、人に寄り添う存在になっていく。