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2018.10.15

未来定番サロンレポート

第3回| ”アートとまちづくり”の未来を考える

秋の気配を感じる9月28日。東京・谷中にて、3回目の「未来定番サロン」が開催されました。未来定番サロンは、未来のくらしのヒントやタネを、ゲストと、参加者のみなさんと一緒に考え、意見交換する取り組みです。3回目である今回は、建築や映像表現など、様々なアプローチで都市に変化を仕掛けるWOWコンセプトディレクターでクリエイティブディレクターの田崎佑樹さん、舞台芸術や都市の様々なアートプロジェクトのコーディネートを行う宮武亜季さんをお招きし、アートを介したまちづくりの未来を考えました。

(撮影:鈴木慎平)

今、アートを切り口にしたまちづくりが各地で展開されています。

地方では、瀬戸内国際芸術祭をはじめとし、いくつもの大規模な芸術祭が盛り上がりを見せたり、都市では、谷中や蔵前など、アーティストが集まることによって、唯一無二の魅力的な街が出来上がったり。これからのまちづくりは、アートの存在を抜きには語れないのではないでしょうか。今回は様々なアクティビティを介して、街の価値を高める活動をされている田崎さん、宮武さんとともに、アートを介して街の魅力を引き出し、維持していくためにはどんなことが必要か、本番に先立ち、お二人に伺ってみました。

F.I.N.編集部

まずはお二人の普段の活動について教えていただけますか?

田崎さん

主な仕事としては、建築やメディア表現の視点から街の中での企画を考え、ディレクションすることです。例えば、僕の所属する映像表現の会社「WOW」では、空間にアートインスタレーションなどの新しいデジタルの表現を組み合わせて、新しい建築のあり方を考えています。最近では、9月13日にオープンした渋谷STREAMで、駅と直結するペデストリアンデッキの環境演出を担当しました。

そのほか、人類学やアートアンドサイエンスといった分野でも活動をしていて、WOWを含めて4つの会社に所属をしています。様々な活動をする上での自分の一番のモチベーションは、「自分はどこから来て、どこへ行くのか」ということ。それは、アーティストとしても、人類学者としても、科学者としても同じ。この根源的な問いを突き詰め、いかに表現していくかが一番の課題だと思っています。

宮武さん

私は、舞台芸術や地域で行われるアートプロジェクトのコーディネートをしています。私自身がアーティストというわけではなく、アーティストのチームに入ってバックアップする仕事です。主な活動としては、「居間 theater」。谷中のHAGISOを拠点に活動するパフォーマンスプロジェクトで、「居間」=日常に「theater」=非日常やフィクションを重ね合わせることで、その間の半角スペース、つまりは「出会い方」をつくるようなプロジェクトを行っています。

もう一つが、千葉県の松戸市に位置するアーティスト・イン・レジデンス「PARADISE AIR」。これは市の文化事業の一環で行なわれており、アーティストに一定期間滞在場所と制作場所を提供し、制作活動を支援する取り組みです。これ自体がアーティストの支援になるのはもちろん、アーティストの視点で地域を見てもらうことで、新たな価値を見出すことができたり、アーティストとの関わりから、地域の人たちの交流が生まれたり。松戸をより魅力的にするための取り組みでもあります。

F.I.N.編集部

お二人とも多彩な活動をされていますね。もともとお知り合いだったんですか?

田崎さん

今回が初めてです。

F.I.N.編集部

何かお互いの仕事で、近い部分を感じることはありますか?

宮武さん

街の中でのプロジェクトを多く手がけているところは共通しているなと感じますね。一方で、その手法は結構異なっていて、それがまた面白いです。

田崎さん

街って大きいので、役割はそれぞれないと成り立たないですよね。方法論が違ってもいいと思います。あと、宮武さんの、舞台芸術をはじめ、純粋に人の感動を生むものやことを作っているところに共感しています。めちゃくちゃハードコアなプログラムをやっているので(笑)。

宮武さん

(笑)。ありがとうございます。

田崎さん

東京ってそんなにハードコアなことは普通できないんですよ。東京って表現する場が一切ないので。

宮武さん

分かります。表現そのものはたくさんあっても、そのひとつひとつがどうかっていうことだと思います。メディアに大きく取り上げられて多くの人の目に触れるものが、必ずしもいいというわけではないですもんね。

田崎さん

そう。アートには、表現する人と批評する人っていうのが必ずいて、だからある人が「これが良きものだ」と言って表現したものに対して、「歴史的な立場に立つとこれはこういう違う見え方もある」という風に指摘する人がいることで、多面体に見えるようになっていました。これが一定の倫理観、ひいては文化を作っていたんです。この批評がなくなると、良いも悪いも判断基準がなくなって、みんな勝手にやるようになります。

宮武さん

芸術祭でも、地元の方と作る作品が増えている中で、芸術的価値の側面から、それが批評性を持って評価できるものなのかどうか、というところは議論されています。そういう作品にももちろんその良さがありますが、それって日本特有の状況だと思うので、海外でそれらが美術として評価されるためには、批評性は必要になってくると思いますね。

F.I.N.編集部

アートを切り口に継続的なまちづくりを行うために、どんなことが必要だと思いますか?

田崎さん

行政側の受け入れ態勢が整っていないと、活動が窮屈になってしまうと思います。自由度の高さが、迷惑にならない範囲で確保されていると、ある程度大きな変化があると思いますね。あとは、拠点づくり。場を継続していくためには、自立的に自分たちである程度稼いでいける場を作る必要があると思います。

F.I.N.編集部

行政の関与度で見ると、市の文化事業としてアートを掲げている松戸は良い事例ですよね。

宮武さん

そうですね。そもそも、市役所ができるよりも前から街の人が松戸にいて、街は住民のものだという意識が強いという背景もあると思います。例えば公園を使いたい時、普通は、役所に申請をして手続きをする必要がありますよね。こういう活動で、これくらいのお客さんが来て、こう使います……、といったことをまとめて提出しないといけない。でも松戸では、街の人たちが公園を持っているという感覚に近くて、街のおじさんに「この場所を使ってパフォーマンスをやりたいです」っていうと「いいよ」みたいな(笑)。もちろん、市にも申請するんですが、そんなに難しくはない。犬の散歩をするのと同じように、ダンスができてしまう感じです。

F.I.N.編集部

こういう取り組みに地域の人の理解があるのはどうしてなんですか?

宮武さん

地域の町会などが集まってできた「松戸まちづくり会議」という組織があって、「PARADISE AIR」の立ち上げから関わってくれています。なので、地域のおじさんたちは「俺たちが作ってきた」と思ってくれている。最初の段階から一緒につくってきたことが、今の動きやすさにつながっています。

田崎さん

いろんなジェネレーションがミックスされているところが面白いですよね。

宮武さん

松戸は今、コスプレやゲームといったコンテンツ産業にも力を入れています。イベントが行われる際には、コスプレイヤーさんが着替えられる場所、休憩できる場所、そして自由に撮影できる場所が街中にあります。普通は街中にそういう場所はなかなかないですよね。先日、地域のお祭りが行われた時には、コスプレイヤーさんたちも盆踊りに参加していて、その真ん中のやぐらには地域のおばあちゃんがお手本になって踊っていました。さらにそのもの珍しい光景を写真に収める外国人の姿も……。なんともカオティックな画でしたが、こうして街の外の人と中の人がストレスなく入り混じれるのはとても面白いですよね。

田崎さん

東京よりよっぽどメトロポリタンですよね(笑)。大都市はどうしてもフレームワークで考えるから、リアリティが全然ないんです。それは、外から来る人と地域の人の目線が一緒にならないということ。その格差を埋めることがカギになると思います。一方で地方は、隙があるがゆえに柔軟。経済面での課題さえクリアすれば、いろいろなことができる可能性を秘めていると思います。

F.I.N.編集部

いかに多くの人を巻き込めるアクティビティを仕掛けられるかがポイントになりそうですね。さて、いよいよ未来定番サロンが始まります。

宮武さん

私たちが一方的に話すというよりは、参加するみんなで考える場になればいいなと思っています。

F.I.N.編集部

ありがとうございます。本編も楽しみにしています!

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徐々に陽が暮れ、いよいよ未来定番サロンがスタート!

テーマは、「アーティスト×まちづくりの未来」。今回も大勢のお客さんがお越しくださいました。

まずは田崎さんの自己紹介から。「もともとは考古学者になりたかった」とも語る田崎さんの活躍の幅広さに、会場からは感嘆の声が上がります。

続いて宮武さんの自己紹介。「アートに関わっていると、0が1になる瞬間にたくさん出会える。それを見るのが何よりも楽しいんです」と笑顔を見せてくれました。

お二人の熱量あるお話に、お客さんもじっと聞き入ります。

会場を彩るお花を手がけた〈コトハナム〉の田村恭子さん。今回のテーマは「地球へようこそ」。地球を舞台に創造する、エネルギーが強いお二人にインスピレーションを受けたのだそう。

終了後のひととき。田崎さん、宮武さんともに、お客さんとの親睦を深められました。

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